さて今回は暑い季節にぴったり、ただ怖いだけではなくて「怖いけど面白い!読むのがやめられない!」って思ったおすすめホラー小説をご紹介です。
まあ要は、「ただ怖いだけでなく小説としてしっかり面白い」ってことですね(・∀・*)
一口にホラー小説と言ってもその怖さは様々です。
幽霊やお化けが怖いのか、人間が恐ろしいのか、奇妙な世界を体感させてくれるのか、はたまた原因不明の呪い的なものなのか。。。
ぜひ、いろいろな「怖さ」を味わってください。ちなみに、「実話怪談集」系の作品は抜いてあります。
実話怪談系はこちら!

どうぞ、参考にしていただければ幸いです(=゚ω゚)ノ
1.乙一『シライサン』
ある温泉旅館で怪談を聞いた二人は、眼球を破裂させて死に至った…。
その死にざまを目撃してしまった女子大生の瑞紀と、同じように亡くなった弟を持つ青年春男は、二人の死の真相に迫ります。
二人が聞いた怪談と、「シライサン」を知った人間は呪いに追われることになる。
真相を追う内に、怪談と名前を知ってしまった二人もまた、呪いに追われる立場になります。二人は呪いから逃れることができるのでしょうか?
乙一ファンも納得のホラー作品
乙一さんといえば、様々なジャンルでミステリーを広めようと尽力していた人の一人として広く知られていますね。
今作は、背筋がヒヤッとするホラー作品。リングや呪怨のようなホラー作品が好きな人は、ドはまり間違いなしです。
最近映像化もされていますので合わせてご覧になってみてください。
果てしなく追いかけてくる呪いの恐怖で、夜眠れなくなってしまうかもしれません。
2.堀井 拓馬『夜波の鳴く夏』
主人公は名もないぬっぺほふ。
ぬっぺほふというのは、妖怪の一種で、顔と身体の境目がはっきりしないのっぺりとした出で立ち。
大正時代、とある財閥家の令嬢であるコバトのペットとなっていたぬっぺほふは、彼女に全てを捧げていました。
ところが、彼女は義理の兄である秋信と関係を持っていたのです!
これを知ったぬっぺほふは憤慨し、秋信を抹殺するために「観る人を不幸にする絵」と呼ばれる絵を利用しようとします。
妖怪の伝手を駆使して手に入れた絵で、想いを遂げることはできるのでしょうか?
若き鬼才が描く衝撃×禁断の妖奇譚
妖怪が出てくるというファンタジー要素が詰まった本作では、妖怪と人間が共生しているという世界観が主体となります。
ぬっぺほふが主人公というのが新鮮ですし、人間と人外が共生している世界というのも興味深いものがあります。
怖い!中心のホラーというよりは、人間と妖怪の愛憎を描いたエログロ満載の作品ですね。
愛と憎しみが渦巻く、ぐちゃぐちゃした雰囲気に引きずり込まれ、いつの間にか物語の虜になってしまうような作品です。
3.宇佐美まこと『るんびにの子供』
「幽」をテーマにした怪談作品を5つ収録した短編集です。
ある幼稚園で遠足に行った時、危ないから近づいてはいけないといわれていた池で、4人の園児たちが目にしたのは水から上がってくる自分たちと同じ年齢の少女。
その後、その少女の姿を園で見かけるようになります。彼女は池から出てついてきた?一体何者なのでしょうか?
第1回『幽』怪談文学賞短編部門大賞受賞作を含む珠玉の怪談集
謎が謎のまま、ほんのりと怖さを残したまま終わる怪談作品が7つ。
背筋がぞわっとするようなコワサ、狂気的なコワサ、非現実的なコワサ…。
どれも短い作品ながら、それぞれの物語に合ったコワサをしっかりと含んでいて、ホラーファンを魅了します。
ただし、夜も眠れなくなるような恐怖感ではなく、ほんのりと怖いというものなので、ホラーが苦手な人でもすんなり読めてしまうのがまた良い点です。
ホラーが苦手で避けていた!という方も手に取ってみて欲しい作品です。

4.宇佐美まこと『角の生えた帽子』
夢の中で、色んな女をいたぶり殺すことが快感となっていた。
目を覚ますと、本当に自分が殺したのではないか?と思うほどリアルさが残っている。
ある日、ニュースで衝撃的事実を知ることになる。それは、自分が見た夢と同じ殺人事件が、現実でも起きているということ。
そして、その犯人は逮捕されたが、自分と同じ顔をした別人だということ。一体これは…?
一気読み必須の正統派怪談
『悪魔の帽子』を含む9つのお話を収録した短編集です。
どれも短い話ではあるのですが、全てを一気に読み終えてしまうほどのめり込んでしまう話の展開と切り口。
ホラー作品でありながら、ちょっとしたミステリー要素を孕んでいることが、ページをめくる手をはやめる要因かもしれません。
怖さだけでなく、切なさ、苦さを含んだ味の深い作品です。
強烈な怖さではなりませんが、寝る前に読むと夢に出てくるほどインパクトがあります。
5.澤村伊智『ぼぎわんが、来る』
比嘉姉妹シリーズの一作目。
得体のしれない怪異、ぼぎわんの驚異から家族を守ろうとする田原秀樹。
友人である唐草からの紹介で、オカルトライターの野崎、除霊師の比嘉琴子の協力を得て、何とかぼぎわんを退けようとするが……。
第22回日本ホラー小説大賞〈大賞〉受賞も納得のノンストップ・ホラー
正体不明の「ぼぎわん」が襲ってくるよ。純粋に怖いよ。澤村伊智さんはこういうホラーを書くの天才だと思う。
また、章ごとに視点が切り替わる構成がより一層面白くさせてますね。
先の見えない展開、視点が移り変わっていく構成が鮮やかでグイグイとノンストップで読まされました。
こういう理不尽ホラー大好きですわ。
映画は映画で映像化ならではの派手さがありましたが、やはり文章で読む『ぼぎわんが、来る』の魅力は段違い。
怖さ、情報量の多さ、伏線、読後のしっくり感、全てにおいて満点です。
ほんと澤村伊智(さわむらいち)さんのホラー小説はどれも面白くて、ぜひシリーズ二作目の『ずうのめ人形』も読んでいただきたい!

幸せな新婚生活をおくっていた田原秀樹の会社に、とある来訪者があった。取り次いだ後輩の伝言に戦慄する。それは生誕を目前にした娘・知紗の名前であった。
6.澤村伊智『ずうのめ人形』
主人公の藤間は、オカルト雑誌に関わる仕事をしている。
その中で受け取った原稿を読み進めていくと、その作品に登場する人形が、現実にも現れるようになった。
彼が手にしたのは呪いの原稿。この呪いの謎を解くことができるのでしょうか?
前作『ぼぎわんが、来る』を超える最恐ホラー
呪いが伝播するという話の展開は、ジャパニーズホラー業界ではすっかり定番となっています。
本作品も同様で、まさに日本ホラーの王道。しかし本作は、ミステリー要素もしっかりと含み、謎解きの過程を十分に楽しむことができます。
本作は、比嘉姉妹シリーズというシリーズ物の第二作目となっています。
特徴的なのが、作品の中で別の小説作品である『リング』などが登場する点。中で登場する作品も網羅していると、より楽しめるかもしれません。
呪いの原稿から現れた人形が、少しずつこちらに近づいてくる恐怖がじわりじわりと心を支配していきます。
寝る前に読むと、その恐怖で眠れなくなってしまうかも?
7.澤村伊智『ししりばの家』
比嘉姉妹シリーズ第三作目。
東京に転勤が決まり、引っ越すことになった果歩。
そこで、彼女は幼馴染である平岩と再会します。
彼女は平岩家に招かれますが、そこには異様な光景が。家には不気味な「砂」がそこかしこに散りばめられていたのです。
その異様さを訴える果歩ですが、平岩本人は特に問題を感じないと言います。さて、この砂は一体?この家で起きていることとは?
砂、砂、砂……。
どれだけ異常な事態でも、ある集団の中でそれが常識だと罷り通るのならば、問題視されないことは社会の中でも実は多くあります。
今作では、それを「家」や「家族」が体現しているような感じでした。
同シリーズファンからは「シリーズ史上最も怖い作品!」と評価される、ホラー作品となっています。
ただし、ミステリー要素も少し含んでいて、謎解きの方を楽しむ方も少なくありません。
是非、同シリーズ一作目から読んでみてはいかがでしょうか。
8.綾辻行人『深泥丘奇談』
主人公は、本格ミステリー作家である「私」、綾辻行人。
私は、ひどい眩暈に悩まされており、病院に通い続けています。京都で起きる怪異現象、私以外にとっては当たり前の日常。
私にとっての非日常の中で、巡り合う怪異に戸惑いつつも、なぜか記憶は薄れてしまっていくし、私も何がなんだかわからないまま話が進んでいきます。
本格ミステリ作家による無類の怪談小説集
要するに、私の日常の中で起きる怪異を一つずつ拾って書き起こした短編集なのですが、面白いのが妻はその怪異を当たり前と思っていて楽しんでいるということ。
自分がもしも、自分だけが知らない常識渦巻く世界に放り込まれたら、こんな感覚になるのかもしれないと思うような主人公の描写です。
最後まで明確な答えは出ませんが、そのなんともモヤモヤした不気味さと気持ち悪さが、心に仄暗さを落としていく作品です。
9.綾辻行人『Another』
『十角館の殺人(講談社文庫)』など《館シリーズ》でお馴染み、綾辻行人さんによる学園ホラー。
とある中学校に転校してきたた榊原恒一。しかし何やらクラスの雰囲気がおかしい。
そして呪われた三年三組を舞台に、クラスメイトたちが次々に不可解な死を遂げていく。
綾辻行人さんの新たな代表作となった長編本格ホラー
それぞれのキャラクターが際立っていて、絡み合うことで更に深まりがでており、上下2冊のボリュームか苦にならない程一気に読むことができます。
最後は見事に伏線が回収されてスッキリ。読みやすさも抜群。
それにミステリー要素もあって、最後までワクワクしながら楽しめるものとなっています。また、アニメ版も非常に面白いのでぜひ。
続編として『Another エピソードS』『Another 2001』へと続きます。ぜひ一気読みしちゃってください!

夜見山北中学三年三組に転校してきた榊原恒一は、何かに怯えているようなクラスの雰囲気に違和感を覚える。
10.平山 夢明『異常快楽殺人』
実在した6人の殺人鬼の生い立ちから始まり、実際に犯罪を起こすまでを克明に書き記したノンフィクション作品です。
人の体を使って家具や服を作ったエドワード・ゲイン、ピエロの格好をして少年たちを誘惑したジョン・ウェイン・ゲイシー、360人もの人間を殺したヘンリー・リー・ルーカス。
さわりだけでもゾッとする殺人鬼たちの、悲惨な幼少期と歪んでいく人間性にはほんの少し同情してしまうかもしれませんが、やったことは本当に吐いてしまうほど酷いとしか言いようがありません。
禁断の領域を探った、衝撃のノンフィクション
しかし、こうした人間を造ったのは人間なのだと、思い知らされる作品でもあります。
ノンフィクション作品なので、フィクションを読んだ後とはまた違った恐怖感を感じると共に、様々なことを考えさせられること間違いなしでしょう。
想像を絶するほどの狂気的な犯罪が記されているので、グロ耐性が低い人にはおススメしにくい作品です。
11.小池 真理子『異形のものたち』
ホラーだけでは括ることのできない、様々な色を持つ作品たち。
ノスタルジー・ファンタジー・エロティックロマンスなどなど、それぞれの物語の色を持ちながら、その中で怖さや寂しさを表現しています。
甘美な恐怖が心奥をくすぐる6篇の幻想怪奇小説
収録作品「面」では、般若面をつけた女が着物を着て田舎の小道を足早に通り過ぎていくという奇妙な現象が起きます。
まさに異形。目を閉じたらそこに、般若面の女性が…。
その場所の色、景色、音、におい、全てが眼前にハッキリと映像化させてしまうような表現の仕方が、読者の恐怖心を駆り立てます。
読んでみたらすぐにわかるでしょう。さらに、この異形が現れるのが、なんでもないよくある日常の一部であるということ。
もしかしたら、わたしたちの日常の中にも…。ゾッと怖くなる瞬間と、読後感に感じる寂しさや哀しさに病みつきになる作品集です。

12.小池 真理子『墓地を見おろす家』
哲平一家は、非常に条件の良いマンションに引っ越すことができました。新築!格安!しかも都心という立地。
これ以上ないマンションの唯一の問題点は周りの環境。
墓地、寺、火葬場、廃都営住宅に囲まれているのです。そんな場所で暮らしていく中で、一家は次々と不吉な出来事に見舞われていきます。
周りにある墓地、ここに住む亡者たちの仕業なのでしょうか?真相がわかると背筋が凍りつきます。一家はこの受難から逃れることができるのでしょうか?
衝撃と戦慄の名作モダン・ホラー
ホラー小説を読んでいると、展開を先読みしてしまうことがあると思います。
あんなことやこんなことが起こるのでは!?と思っていたら、まんまとそれが起こるというような王道ホラー小説です。
しかし、もちろんそれだけではなく予想だにしない地下室の展開などもあり、最後は…。
リアリティに欠けるという読者もいますが、確実にドキドキ・ハラハラできるホラー小説です。
13.鈴木 光司『リング』
1991年発表の小説。日本のホラー作品と言えば『リング』を挙げる人も少なくないでしょう。
実は、この作品はシリーズで、一作目の『リング』のあと『らせん』『ループ』『エス』『タイド』と続き、外伝で『バースデイ』が発表されています。
未知なる世界へと導くホラー小説の金字塔
そのビデオを観ると一週間後に呪い殺されるという、「呪いのビデオ」。
呪いを解くために必要な「呪いを解くオマジナイ」は、犠牲者たちのいたずらによって既に消されてしまっている。
これを見つけ出すために、奔走する姿にハラハラしてしまいます。主人公はこの呪いから家族を守り抜くことができるのでしょうか?
小説よりも映画の方をよく知っている人が多いかもしれないですね。
映画をご覧になったことがある方は是非、原作も読んでみて欲しいです。
主人公の性別から、物語の設定などかなり違うところがたくさんあるので、また違った面白さを見つけることができるでしょう。
小説は、ホラーよりもミステリー要素の方が強く、呪いのビデオの謎を解いていく過程も楽しむことができます。
14.福澤徹三『死小説』
ミステリー小説は、謎解きが醍醐味と感じる人も多く、物語に散りばめられた謎を解くことでスッキリ楽しかった!と感じる人もいるでしょう。
この話は、ちがいます。そもそもミステリーの区分ではないのですが、どの話も細かな説明はなく、曖昧なまま過ぎ去っていく部分も多くあります。
それが、読者の想像力を掻き立て、恐怖心をさらに煽っていくのです。そんな五つの話を収録したホラー短編集です。
精神的にくる怖さ
人はいつか必ず死ぬ。死ぬことに恐怖を感じる人もいるでしょう。
生とは何か、死とは何か、そんな生と死の間を描く物語たちです。
結局のところ、生きた人間の狂気というのが一番怖いものなのかもしれません。
背筋が凍るようなゾッとする恐怖ではありませんが、仄暗い怖さと共に陰鬱な気持ちに支配されていきます。暗い気持ちに染まりたい時におススメの作品です。
15.若竹 七海『遺品』
主人公は、失業中の学芸員。
そんな彼女にホテルの仕事の話がやってきます。
金沢のそのホテルは、かつて女優であり作家であった曾根真由子という女性が自殺した場所でもありました。
そんないわくつきのホテルは、曾根真由子のパトロンであった創業者がかき集めたコレクションでいっぱい。
彼女の仕事は、その数多くの品を整理し、一般公開するための準備をすることでした。
ところが、作業を進めていく内に次々と不可解なことが起きます。一体どうして?そしてついに死人が!?
ひたひたと忍び寄る恐怖に次第に侵食されていく日常
淡々とした語り口調で進められていく物語の中で、一体どこにホラー要素があるのかと最初は不思議に思うはずです。
しかし、ホテルの創業者が集めていたという、大女優に関わる品々。これが明らかになっていくと、読者も「え?」と引き気味になること間違いなしです。
気持ちの悪いそのコレクションとは一体…。後半に進んでいくにつれてわかっていくでしょう、「これは純粋なホラー小説だ」と。
生きている人間の異常な心理、悪意が作り出す不気味な事象にヒヤッとすること間違いなしでしょう。
16.恩田 陸『私の家では何も起こらない』
丘の上に立つ二階建ての古い家。その家には数々の恐ろしい記憶が閉じ込められていました。
現在住んでいるのは、とある女性作家。この女性には何か起こるのでしょうか?
驚愕のラストまで読む者を翻弄する、恐怖と叙情のクロニクル
キッチンで殺し合う姉妹、瓶詰にされた子供、自殺した殺人鬼の少年…。様々な哀しい物語を詰め込んだ家のお話です。
それぞれの記憶が全く別のものであるのかと思いきや、実はつながっているので、少しずつ読み進めていく中でリンクしていくのがまたたまらない面白さとなっています。
内容から、グロさを感じそうですがそうではなく、ひどく恐ろしいのかと思いきやそんなこともない、でも確かに感じる怖さがあって、でもなぜかほっこりする場面もあるという不思議な作品です。
綺麗な表現と、静かな口調の中から垣間見える恐怖に、いつの間にか心を掴まれてしまうでしょう。
17.阿刀田 高『自選恐怖小説集 心の旅路』
生粋のホラー小説というよりは、幻想的で不思議なお話を集めたという感覚の方が近いかもしれません。
その背景には、舞台が実にリアルに寄り添っているということが要因としてあげられるでしょう。
しかしそのリアルの中に潜むちょっとした違和感が、ほんのりと恐怖感を煽る実に自然なホラーなのです。読む人みな、「心地よい怖さ」と評するのもうなずけます。
全作品の中から選りすぐった珠玉のホラー短編13編
表題作『心の旅路』は、曖昧な記憶のようなものが料理をきっかけに思い出されていく話です。
その記憶は、彼の「罪」の記憶でした。彼は一体どんな罪を犯し、そしてどうしてそれが薄らいでいってしまったのか、不思議さに包まれながら最後まで読んで欲しい作品です。
発売されてから20年は経っていますが、今も色褪せることない作品の一つです。
阿刀田高さんの静かな書き口が好きな人にはたまらない作品集です。
18.赤川 次郎『自選恐怖小説集 さよならをもう一度』
表題作を含む5作品を収録した短編集です。
あなたが恐怖を感じるものはなんですか。幽霊?怪奇現象?狂気?悪魔?人間?
どの話にもそれぞれの恐怖と仄暗い闇が散りばめられている、恐怖小説たち。
本当に怖いものってなんなのだろうかと、読み終わった後に考えてしまうような本です。
さらりと読める、しかし残酷な恐怖小説集
表題作『さよならをもう一度』では、恋人を失った女性が教会を訪れ、胸の内を明かします。
その内容に心を乱される神父。悪魔に持ち掛けられた取引で、彼女が犠牲にしたものとは?
どの話も短編でありながらしっかりと構成されていて、スッと読めてしまう手軽感の一方、心にズシっと重いものがのしかかるような読後感。
予想外の結末に驚く場面も多々あり、心を揺らしながらのめり込める作品ばかりです。
19.滝川さり『お孵り』
本作は、津山三十人殺しをモチーフとした著者のデビュー作です。
結婚の挨拶のために彼女の実家に訪れた主人公、祐二。夜の宴会で深く酔ってしまった祐二は眠ってしまう。
深夜に目を覚ますと、そこでは異様な儀式が行われていて、参加することに……。
一気読み必至の第39回横溝正史ミステリ&ホラー大賞読者賞受賞作
閉鎖的な村で行われる異様な儀式、土着の民俗信仰、そして輪廻転生。現代のわたしたちが触れようもない世界を、304ページの中にギュッと詰め込んでいます。
かつて、日本では似たようなことが現実にあり、でも今では遠い昔のことのような、物語の中の出来事だったような、そんな朧げな記憶をグッと鮮明に思い起こさせるような感覚に囚われる不思議さがあります。
読後に、この不思議さに囚われて気持悪くなるようなこともなく、もっと読みたい!と思わせるような魅力が詰まっていて、デビュー作とは思えない完成度。評価も上々です!
20.滝川 さり『おどろしの森』
主人公の尼子拓真は夢いっぱい、新築一軒家を購入!
幸せも絶頂を迎えた中で、奇妙なことが起き始めます。家の中で、お香のかおりがしたり女性の笑い声が聞こえたりするのです。
しかもそれは、自分とまだ小さな息子にしか感じられません。困った拓真は霊能者に相談しますが、異常なしということで片付けられてしまいました。
この怪奇現象の原因は?解決する日はやってくるのでしょうか?
徹夜覚悟の最凶ホラー・エンタメ
純粋な和風ホラーとでも言いましょうか、ホラー好きならたまらないスタンダードなホラー構成で、読む人を魅了します。
ホラーの中に散りばめられた謎を回収する構成も面白く、ほんのりミステリー要素も感じられるのが見所。
最も心安らぐ場である「家」で起きる怪奇現象が、怖さを引き立てます。
スピーディーに読み進めることができる読み口の軽さと、読後感の心地よさが印象的な作品です。
21.田中 啓文『件 もの言う牛』
ちょっと小難しい設定かもしれないですが、岡山の鬼伝説にまつわる牛に関わるお話。
「件(くだん)」と呼ばれるそれは、肉食の牛に特殊な餌を食べさせることで誕生します。
勢いがあって一気に読める、パワフルな作品
件は、予言をして後その生命を全うするという伝説の存在。
そんな件の誕生に立ち会ってしまった主人公、美波大輔は自らの命を危険に曝すころになってしまいます。
件の予言が的中し、急死した首相。そして次期首相に関わるとされる宗教団体みさき教。様々な運命に翻弄される主人公は、件の正体に気づいてしまいます。
設定や世界観をつかむまで、もしかしたら時間がかかってしまう人もいるかもしれません。
著者特有の「ダジャレ」を含んでいて、ちょっと読みにくいかもしれません。でもハマれば一気に読み進めることができます。
これを読んだら岡山県に伝わる伝承を知りたくなること間違いなしの、民俗学的要素を含んだ独特な怪奇ホラー作品です。
22.芦沢央『火のないところに煙は』
芦沢央さんの初ホラー小説にして傑作。
全部で計六話の物語が収められており、最終話で全てが繋がってゾクゾク!とする構成がお見事です。
伏線を回収していく場面が多くあり、まるでミステリ小説を読んでいる時のような快感と恐怖を味わうことができます。
読み始めたら引き返せない暗黒ミステリ
作り込まれたプロットと至る所に貼られた伏線が、底知れぬ恐怖感を良質なミステリに昇華しているからでしょう。
冒頭からぐいぐい読ませる筆力、最後の綺麗な落とし方は流石。ホラーとミステリの中間くらいの感じでちょうど良いです。
また、ミステリと怪異についての相性についての芦沢さんの持論がされており、読みどころの一つになっています。
実際『火のないところに煙は』では伏線を回収していく場面が多くあり、まるでミステリ小説を読んでいる時のような快感(恐怖)を味わうことができます。
ほんと、芦沢さんは人を怖がらす方法をよくわかってらっしゃる……。

23.今邑彩『よもつひらさか』
今邑彩さんの「最高傑作」の一つ。
これ一冊に今村さんの魅力が全部詰まっていると言ってもいい出来栄えです。
一編一編の「演出」がうますぎるんですよねえ。文章のテンポとか言葉遣いとか。
奇妙な味わいに満ちた全12篇を集めた戦慄のホラー短篇集
内容はある意味古典的であるのですが、故に正統的な王道ホラーを楽しめます。
結末は予想出来るものが多いですが、逆にそこがいい。淡々とした語り口、冷ややかでほの暗さが漂う表現力は流石今邑さんです。
個人的には表題作『よもつひらさか』の幻想的な雰囲気や猟奇的な『ハーフ・アンド・ハーフ』好み。まあ全部好きなんですけど。
まだ今邑彩さんの作品を読んだことがない、という方はぜひこの短編集から読んでみて!

24.今邑彩『赤いベベ着せよ』
『ルームメイト』で有名な今邑彩さんによるホラー小説。
鬼女伝説が残る町に20年ぶりに帰郷した千鶴。大人になった幼なじみたちと再会するも、みんなの子供達が次々に殺されていく。
ホラー小説というより、ホラー要素のあるミステリー小説としてすごく面白いです。
探偵不在のホラーミステリ
これをミステリとして読めば、探偵役が不在ということ大きな特徴。
この試みが連続殺人事件をずぶずぶと底無しの沼へ沈めていき、最悪の結末を迎える。もちろん救いはありません。
特に後半怒涛の展開は鳥肌!そこで終わりかと思いきや更に深い闇が明らかになる。なんという後味だ。
田舎で起きる殺人事件、鬼女伝説やわらべ歌が流れているという点から横溝正史のような世界観を連想させますが、描かれているのは親子関係を主としたサイコサスペンスです。
やはりこの手の邪悪な読み物を書かせたら、今邑彩さんは天才ですね。

子とり鬼のわらべ歌と鬼女伝説が伝わる街・夜坂。夫を亡くし、娘と二十年ぶりに帰郷した千鶴は、幼なじみの娘が殺されたと聞かされる。
25.郷内 心瞳『拝み屋郷内 花嫁の家』
小説ではなく実際には「実話怪談集」の部類ですが、小説のように楽しめます。そしてメチャ怖です。
怖いというより「おぞましい」と言った方がいいかもしれません。こんな出来事が本当にあって良いのでしょうか。
しかもこれが実際にあった事だというんだから、もうお手上げです。できるなら創作であってほしかった。
実話怪談集の頂点と言ってもいい傑作
「拝み屋」は基本地味な仕事内容だがきわめて低確率で「例外」に遭遇する、という導入が本当に怖すぎますね。
若干のホラーミステリーを織り交ぜながら、人間の業と超自然的な存在が融合し最悪の物語となっています。
バラバラと思われた要素が実は全て関連性を持っていた、というホラー小説の王道とも言えるストーリー展開が面白い。
シリーズの2作目ですがいきなりこれから読んでも問題ないので、純粋に怖い話がお好きであれば絶対に読んでください。

26.五味弘文『憑き歯 密七号の家』
新設された郷土史資料館に赴任した笹川は、古い蔵から、子どもの歯が埋め込まれた人形と謎の紙片を見つける。
興味を持ち、調べると、この土地には、度々祟られ者が出ているらしく……。
お化け屋敷プロデューサーが描く最恐長編小説
著者がお化け屋敷プロデューサーということで、人の怖がらせ方を熟知している作品。そりゃ怖いですよ。
じわりじわりと忍び寄るザ・ジャパニーズホラーという感じで、グロさは少ないが怨念轟くジメッとした恐怖が「リング」と通じるものがあります。
日本ならではの伝承や呪いというじめじめとした恐怖が描かれており、全体を通して救いようがない。だがそこがいい!
話としてはありきたりなのかもしれないけど、根深い怨念故に起きる怪異が恐ろしさを際立たせます。
怖いのにテンポが良くってサクサク一気読みできるのも嬉しいポイント。
随所に忍び寄るような不気味さが感じられる和風ホラーの決定版です。
27.篠田節子『神鳥(イビス)』
篠田節子さんの傑作。
27歳で悲惨な死を遂げた女流画家が残した「朱鷺飛来図」という絵。
その絵の恐ろしさを発見した男女のカップルが、絵を描いた画家の足跡を訪ねて東京近郊の山に入り込み、異次元の世界の怖さを死ぬほど味わうという物語です。
凄まじい臨場感を放つ異色のホラー長編小説
お化けや幽霊が怖い、というタイプのホラーではないんだけど、とにかく怖い。
怖いのをわかってて読んでも想像を超えてくる。読む手が止まらないとはこの事。
少しだけ絵についての専門的な話も出てくるけど読みやすく、ストーリーはグイグイ進むし、内容は面白いしであっという間に読み終わる。
終盤の修羅場はさすがで、あらゆる情景が目に浮かんでくる。ホラーとしては最高。
ホラーとして完成度の高さはもちろん、ラブコメのようなお馬鹿な掛け合いに笑いを取られ、また朱鷺の歴史についてもしっかり学習させられ、様々な要素がうまくミックスされた作品です。
28.曽根 圭介『鼻』
「暴落」「受難」「鼻」の三編からなるホラー短編集。どれも面白いですがやはり表題作の『鼻』がすごい。
人間たちがテングとブタに分けられた世界。ブタに殺されるテングを救うために、「私」はブタへの転換手術を試みるが……。
日本ホラー小説大賞短編賞受賞作「鼻」他二編を収録
終盤まで息もつかせぬ展開で、最後に一気にひっくり返される表題作。
怖い、だけでなくそれ以上の面白さを味わえます。あのオチをご覧あれ。
また、人間の価値が全て株式市場によって決められる社会を描いた『暴落』の世界観もすごいです。
そして『受難』は、気がついたら狭くて汚いビルとビルの間に、手錠で繋がれて拘束されていた男の話です。
どの話もゾッとする禍々しいブラックさで、下手なイヤミスを凌駕する後味の悪さが素晴らしい。
ああ、全部面白い。

人間たちは、テングとブタに二分されている。鼻を持つテングはブタに迫害され、殺され続けている。外科医の「私」は、テングたちを救うべく、違法とされるブタへの転換手術を決意する。
29.曽根 圭介『熱帯夜』
三つの話を収録した短編集です。
表題作『熱帯夜』は、友人が金策に奔走する中、人質としてヤクザに囚われる主人公と友人の妻という、『走れメロス』のようなお話。
リミットはたったの2時間。友人は無事戻ってくるのでしょうか?囚われの身であるボクと友人の妻美鈴の運命やいかに!?
ミステリとホラーが融合した奇跡の傑作
と、あらすじだけ見るとどこにでもありそうな普通の小説のような感じがしませんか?
もちろん、そんな単純なお話ではありません。また、他二作はより作りこまれた世界観で、非常に面白いです。
どの作品もありがちな設定のようですが、そこからぎゃふんと言わせるような衝撃的な展開があり、構成の仕方も相まって、読んでいて物語の世界から抜け出せなくなるほどです。
恐怖心を煽る強いホラーという感じではなく、どちらかと言うとミステリー要素の方が強い作品ですが、どの分野のファンでも抵抗なく読み進められる作品となっています。
30.小林 泰三『玩具修理者』
定番にして名作。「玩具修理者」「酔歩する男」の二編からなる短編集です。どちらも逸材。
「玩具修理者」は男女の会話を中心にゾクゾクする雰囲気を漂わせながら物語が進む。そしてシンプルに、ビシッと決まるラストが素晴らしいです。
小林泰三さんの最高傑作
そして「酔歩する男」の怖さ。幽霊とか殺人鬼とか、そういうレベルじゃないヤツです。精神的にやられます。
タイムリープものSFホラーで、読んでいるうちに頭のなかがごちゃごちゃになる。そして何度も読むと、その度に怖さが倍増する。
何度読んでも「玩具修理者」の怖さと「酔歩する男」の恐ろしさは凄まじいですね。
今でこそタイムリープ的な作品はたくさんありますが、ここまでホラー的な作品は他にないでしょう。
とにかく両方ともタイプの全く違うゾクッと感を味わえます。

玩具修理者は何でも直してくれる。独楽でも、凧でも、ラジコンカーでも…死んだ猫だって。壊れたものを一旦すべてバラバラにして、一瞬の掛け声とともに。
31.京極夏彦『鬼談』
『姑獲鳥の夏 (講談社文庫)』から始まる《百鬼夜行シリーズ》でお馴染みの京極夏彦さんによるホラーシリーズ。
日常や自分の中にいる鬼を見てしまった人たちの短編集で、「鬼」にまつわる9つの物語が収められています。
<人と鬼>の狭間を漂う者たちを描いた全9篇
京極さんらしい鬼の描き方にゾッとする怖さを感じることができます。
じわりじわりと迫ってくる恐怖はさることながら、文学性に重きを置いた筆致がたまらない。
どの短編も良いですが、中でも『鬼棲』は特に素晴らしくて、恐怖というものの本質へ巧みに読み手を誘導する道筋と結末に震え上がりました。
じわじわと追い詰められつつ読み進めた『鬼気』のラストもとんでもなく怖い。
京極さんならではの文体とホラーの雰囲気がマッチしていて最高なんですよ。たまらんです!
愛、絆、情―すなわち執着は、人を鬼と成す。人は人を慈しみ、嫉妬し、畏れをいだく。
32.恒川 光太郎『夜市』
ゾクゾクするホラー小説、というより幻想的で不思議な世界観の物語です。なので力まずに読めるし、なによりとっても面白い。
「夜市」「風の古道」の二編が収められています。
表題作『夜市』は、弟と引き換えに「野球の才能」を手に入れた少年の物語です。
月日は流れ、そのことを後悔した彼は弟を取り戻すため、再び夜市に訪れますが……。
ホラーファンタジーの最高峰
もう一方の『風の古道』も、怖いというより「不思議な世界に迷い込んでしまった」という物語。
どちらも見事に良作なんですよね〜(´ω`)
ハラハラする展開とかではなく、現実と異世界が隣り合わせと感じさせる、ちょっと変わったホラー小説です。
シンプルな文章なのに次の展開が気になってグイグイ読ませてくれるし、ノスタルジーな雰囲気がとてもいい。
もしかしたら、気づかないだけでこんな世界がすぐ近くにあるのかも?と思わせてくれるリアルさも良い。
何でも売っている不思議な市場「夜市」。幼いころ夜市に迷い込んだ祐司は、弟と引き換えに「野球選手の才能」を手に入れた。
33.恒川 光太郎『秋の牢獄』
続いても恒川光太郎さんの作品。
同じ1日を何度も繰り返すリプレイヤーを描いた表題作『秋の牢獄』を始め、とある家に迷い込み出られなくなった青年の物語『神家没落』、特殊な能力を持った祖母に囚われた少女を描いた『幻は夜に成長する』、の三編が収められています。
『夜市』と並ぶ恒川光太郎さんの最高傑作
いずれも恐怖感は薄く、幻想的な雰囲気と世界観に酔いしれる不思議な物語。ただもし自分だったら、と思うとゾッとします。
同じ1日の繰り返しを淡々と描く表題作は、得体の知れない存在が適度な緊張感を生んでいて素晴らしい読後感。
3編とも内容は大きく異なりますが、漂う奇妙な雰囲気は共通しています。
どれもみな発想が面白くて、儚さと恐ろしさの駆け引きが絶妙なんです。
恐怖小説と言えるほど、怖い、恐ろしい描写はなくて、わかりやすく言うなら「世にも奇妙な物語」系の不思議なお話ですね。
ぜひ恒川光太郎さんの世界観を堪能してみてください。
十一月七日水曜日。女子大生の藍は秋のその一日を何度も繰り返している。何をしても、どこに行っても、朝になれば全てがリセットされ、再び十一月七日が始まる。
34.倉狩 聡『かにみそ』
タイトルや表紙絵から「え?ホラーなの?」って感じですが、しっかりホラー。しかも切ないホラー。
ある日拾った蟹が人を食べ始めちゃうって展開なんですが……。
私と不思議な蟹との、奇妙で切ない泣けるホラー
表題作は荒唐無稽で、ともすればB級ホラーになりかねないのに、グイグイ読ませる不思議な魅力に引き付けられる。
グロ満載の漫画的展開でありながら、ユーモアもり、哲学的でさえありますね。
まさかあんな展開だとは。ホラー小説でこの読後感はなかなか味わえません。
ラストはバッドエンドともハッピーエンドとも言えませんが、これ以上の結末はないでしょう。傑作です。
貴志さんの言うとおりホラーではなく奇譚ですね、これは。
同時収録の「百合の火葬」は、植物である百合の花が人間を惑わす話。一応ホラーですが、「かにみそ」とは全く別タイプ。これはこれで面白い。
全てに無気力な20代無職の「私」は、ある日海岸で小さな蟹を拾う。それはなんと人の言葉を話し、体の割に何でも食べる。
35.黒 史郎『夜は一緒に散歩しよ』
妻を亡くしたホラー作家の主人公。娘と一緒に暮らしていたが、二人の周りで奇妙な出来事が起こり始める。
幼い娘が、母親を亡くしてから奇妙な絵を描くようになった。その絵は次第に不気味さを増してきて……。
第1回『幽』怪談文学賞長編部門大賞受賞作品
なんだか児童書のようなホラーですが、中身はしっかり怖いです。気持ち悪い系の怖さですね。
頭の中で映像がバンバン浮かんできて気味悪くなってしまうほどリアルで、でも続きが気になってページを捲る手が止まらない。そんな風に物語の中にグイグイと引き込まれていく作品ですね。
絵の不気味さもそうですし、娘や周りの狂い方も本当にゾッとする。
文章も読みやすくサラッと読めてしまうのもおすすめポイント。ストーリー自体も面白いので最後まで楽しめます。
第1回『幽』怪談文学賞 長編部門大賞受賞怪談文芸に画期をもたらす逸材のデビュー作!
36.小野不由美『残穢』
ホラー作家の「私」の元に読者の久保さんから、引越し先のマンションの部屋で変な音がする、という手紙が送られてくる。
そして「私」と久保さんは調査を始めるのですが……。
山本周五郎賞受賞の戦慄のドキュメンタリー・ホラー長編
これですよ。このジメジメしたゾクゾクする、後に残る怖さ。最高です。映画ももちろん怖かったですが、やっぱり文章の方が深みがあって怖さ倍増。
1つ1つの現象は嫌な感じというだけですが、それらが重なる事によってそれは未知の恐怖になっていく。
怪異が起きる原因とは?に焦点を当てて、その原究を探るドキュメンタリーテイストが合理的で余計に怖い。
ホラー映画のような衝撃的な場面や、突然幽霊が現れて悲鳴をあげるなんてことはひとつもないのに、しかしこの本は確実に怖い。
映画を観て「面白い!」と思った方はぜひ原作も読んでみてください。文章で読むと全く違う怖さが体験できるのです。

この家は、どこか可怪しい。転居したばかりの部屋で、何かが畳を擦る音が聞こえ、背後には気配が…。だから、人が居着かないのか。
37.高橋 克彦『私の骨』
東北を舞台にした7編からなるホラー短編集。
どのお話も「怖い」のは共通しているのだけど、それぞれ味わいが違っていて非常に楽しめます。文章も読みやすくスッと物語の世界に入り込めるのも良いですね。
怖さはマイルドで、単に怖いというだけではなく、優しいお話しもあり。
人間の本質に迫る傑作ホラー短編集
どの短編にも言えることですが、リアル感を演出するのが非常にお上手。
主人公がじわじわと違う世界に入っていく様子が素晴らしく、嫌なものに徐々に包まれていく感じ。とくに「髪の森」なんか本当に気味が悪い。
最後のオチのところが曖昧というか、あまりはっきり描かれていないことでリアルな恐怖感が演出できています。
結局人間が一番怖いんだな系のホラーがお好きならぜひ。
旧家に残る因習と悲しい親心を描いた表題作をはじめ、心の奥に潜む恐怖を通して人間の本質に迫る七編を収録したホラー短編集。
38.岩井 志麻子『ぼっけえ、きょうてえ』
表題作「ぼっけえ、きょうてえ」他、「密告箱」「あまぞわい」「依って件の如し」の4作を収めた短編集。
岡山を舞台とした、じっとりねっとりした纏わりつくような怖さが堪能できます。
日本ホラー小説大賞、山本周五郎賞を受賞した怪奇文学の新古典
ホラーというよりは胸糞悪い描写が多く、幽霊の怖さよりも、人間の悪意とか愛憎なんかが魅せる心の暗さが印象的な一冊。
幽霊でも妖怪でもなく、貧しい農村の現実が語られるだけなのに怖い。
うわ!と叫ぶような恐怖ではなく、背筋をじわじわ這いあがってきて全身にからみつくような怖さですね。
怖いという感情に加えて、おぞましい、悲しい、切ないといった感情が混ざった読後感となっています。
目にするのも忌まわしい物語なのに、グイグイ引き込まれてしまうのは岩井さんの凄さでしょう。
ちなみに「ぼっけえ、きょうてえ」とは方言で「とても、怖い」という意味。はい。まさにその通りでした(´д⊂)

岡山の遊郭で醜い女郎が客に自分の身の上を語り始める。間引き専業の産婆を母にもち、生まれた時から赤ん坊を殺す手伝いをしていた彼女の人生は、血と汚辱にまみれた地獄道だった…。
39.貴志祐介『黒い家』
主人公・若槻慎二は、生命保険会社の京都支社で保険金の支払い査定に追われていた。
ある日、顧客の家に呼び出され、まさかの首吊り死体の第一発見者になってしまう。
ほどなく死亡保険金が請求されるが、顧客の不審な態度から他殺を確信していた若槻は、独自調査に乗り出すが……。
言わずと知れた、サイコサスペンスの最高峰
貴志祐介さんのホラー小説の中でもトップの怖さを誇るサイコサスペンス。
「黒い家」ってなんか幽霊モノっぽいタイトルだけど、違います。
生命保険会社で働く主人公が首吊り死体を発見、それからとんでもないことに巻き込まれていくんですけど、「結局人間が一番怖い」って思わせてくれる作品です。
おどろおどろしい描写や、主人公が徐々に追い詰められていく描写が非常にうまく描かれています。
あり得なくもないと思えるギリギリのリアリティが余計に怖い。
終始怖いですけど、特に終盤のハラハラドキドキ感は半端ないです。手に汗握る展開で読む手が止まらない。
ほんと、追い詰められる人間の恐怖感、緊張感を描くのがお上手すぎる。

若槻慎二は、生命保険会社の京都支社で保険金の支払い査定に忙殺されていた。ある日、顧客の家に呼び出され、期せずして子供の首吊り死体の第一発見者になってしまう。
40.貴志祐介『天使の囀り』
続いても貴志祐介さん。「気持ち悪い怖さ」でお馴染みのおすすめ名作です。
アマゾン調査隊に参加して帰ってきた人々が次々に不審な死を遂げる。アマゾンで一体何があったのか?ってことなんだけど……。
リアリティとフィクションのバランスが見事な傑作
もう素晴らしいですね。ストーリー性も抜群に面白く、ホラーというジャンルを超えて純粋に小説として楽しませてくれます。
こんなに気持ち悪いのに怖いもの見たさでグイグイ読まされてしまう貴志さんの文章、最高ですね。
うわあ、気持ち悪いなあ、嫌だなあ、と思いながらもページをめくる手が止まらないわけで。
これ実はノンフィクションなんじゃないかと錯覚してしまうほど絶妙なリアリティがたまりません。
北島早苗は、ホスピスで終末期医療に携わる精神科医。恋人で作家の高梨は、病的な死恐怖症だったが、新聞社主催のアマゾン調査隊に参加してからは、人格が異様な変容を見せ、あれほど怖れていた『死』に魅せられたように、自殺してしまう。
41.貴志祐介『クリムゾンの迷宮』
3連続貴志さん。面白いんだからしょうがない。
目が覚めたら知らない土地で、いきなり生き残りを賭けたサバイバルゲームが始まります。
まさにロールプレーイングゲームの内側に入り込んだようで、ワクワクが止まりません。
日本ホラー界の新たな地平を切り拓く、傑作長編
ゲーム設定も絶妙だし、テンポは良いし文章も読みやすいし、ハラハラしまくりのストーリー展開で一気読みせずにはいられない。
ページを捲る手がとまらないとはこういう事だなと改めて実感できます。
色々な要素やアイテムがひとつひとつ綺麗にかみ合って展開していく構成は本当うまくできているなあ。
特にアイツに見つかりそうになったりする時の恐怖はたまんないですね(*ノェノ)
終わり方も伏線を回収しつつ、余韻を残しており、ほぼ完璧と言って良いでしょう。
火星の迷宮へようこそ。ゲームは開始された。死を賭した戦慄のゼロサムゲーム。一方的に送られてくるメッセージ。生き抜くためにどのアイテムを選ぶのか。
42.小松左京『霧が晴れた時』
小松左京さんの自選ホラー小説集。見事に良作だらけ。
15編の物語が収録されており、歴史的なものから現代的なものまで、バラエティに富んでおり飽きません。
昭和の世相を背景に、伝承や神話も題材に、SF風味も加えて盛りだくさんです。
ホラー好きなら絶対読まなくてはならない「くだんのはは」
特に「くだんのはは」は、ホラー好きなら絶対読んでおかなくちゃいけないくらい有名な名作。これだけでも読んでおきましょう。
と、思って読んでみると、なんと「くだんのはは」以外の短編も面白いからすごい。
中でも特に面白かったのは「くだんのはは」「まめつま」「召集令状」「保護鳥」「骨」など。
名作中の名作「くだんのはは」をはじめ、日本恐怖小説界に今なお絶大なる影響を与えつづけているホラー短編の金字塔。
43.筒井康隆『懲戒の部屋』
『ロートレック荘事件 (新潮文庫)』や『旅のラゴス (新潮文庫)』などでお馴染みの筒井康隆さんによる自選ホラー集。
ライトSFからグロテスクすぎて読み進められないもの、理不尽すぎるものまで筒井ワールド盛り沢山!
心霊的なホラーではなく、遠いようで近い特殊な環境だったり日常の果てにあって増長した恐怖を描いています。
膨大な作品群の逸品を著者自ら選び抜いた傑作ホラー小説集
当然ながら良作揃い。ホラーでありながらバラエティに富んでいて色んな楽しさを味わえます。
どれもこれも後味が悪いのにクセになるんですよねえ。
グロいし、痛いし、汚いし……、なのに独特の世界観に感嘆させられる不思議。
中でも相撲取りの恐怖をしつこく描いた『走る取的』は読者にまで恐怖が伝染する傑作ホラー。なんという不条理でしょう。皮膚の内側からぞわぞわと恐怖が粟立つのがわかります。
全体的に気持ち悪いですが、『蟹甲癬』の気持ち悪さと『顔面崩壊』のグロテスクさがヤバイ。
膨大な作品群の中から身も凍る怖さの逸品を著者自ら選び抜いた傑作ホラー小説集第一弾。
44.井上夢人『メドゥサ、鏡をごらん』
井上夢人さんならではの世界観が楽しいホラー。
小説家の藤井陽造が自らをコンクリートに塗り込んで自殺した。
遺された手紙には「メドゥサを見た」とあった。彼の娘の婚約者である主人公は謎を探っていく。
精神的にやられる怖さ
ミステリーのようでホラー。ホラーのようでミステリーな作品。ホラーとミステリーが丁度良い交わりです。
ホラー要素が強めの長編ながら、物語への吸引力が強いミステリアスな展開が大変楽しいものとなっています。
仕掛けも面白く最後までグイグイと読ませてくれる。
「死」の跡を追って事件を調べていくのだけれど、終始ワクワクしながら読むことが出来ました。ラストのゾクッとさも最高。
オチには賛否両論あるみたいだけど、私は好き。

「メドゥサを見た」と書き残し、自らを石像に封じこめた作家の死。そして頻発する怪異と怪死!死を呼ぶ禁句、それが「メドゥサ」…。
45.三津田信三『厭魅の如き憑くもの』
ホラーとミステリの見事な融合を魅せる《刀城言耶シリーズ》の第一弾。
古き因習が残る閉鎖的な村でおこる連続殺人。舞台はバッチリです。
本格ミステリーとホラーの魅力が圧倒的世界観で迫る最高のシリーズ
まあこのシリーズ、ホラーだけでなくミステリー小説として傑作なんですよ。お見事なんです。
怪しげな儀式、恐ろし気な見立て、迫りくる足音……。
まるでホラー小説かのような演出が加えられているのですが、そこにしっかりと本格ミステリとしての解答も用意されているのが最高。
ホラーとしてゾクッと、ミステリとして驚愕できる素晴らしい作品です。
特にシリーズ三作目の『首無の如き祟るもの』がミステリ小説として最高に面白くて。
とにかくまず三作目までで良いので読んでみてほしいです。そしたらもう刀城言耶シリーズの虜になりますので。

神々櫛村。谺呀治家と神櫛家、二つの旧家が微妙な関係で並び立ち、神隠しを始めとする無数の怪異に彩られた場所である。
46.三津田信三『ついてくるもの』
上に紹介した《刀城言耶シリーズ》の著者・三津田信三さんによるホラー短編集。
ノンフィクションらしい七つの怪談を、ホラー作家の「僕」こと三津田信三さんがフィクション風に仕立て上げたお話。
フィクションだと思いますが、まるで実話のようなリアルさを感じる恐怖を描いております。
数ある三津田作品の中でも最高峰の怖さ
擬音の使い方や心理描写がすごく上手くて、擬音で恐ろしいものが近づいている感覚や、恐怖に対面した時の人間の恐ろしい様子などの表現がすごすぎて怖さが倍増します。
どの話も怪異の正体や目的がはっきりと明かされないのが後味悪くて最高です。
三津田さんといえばミステリ+ホラーのイメージですが、この作品ではミステリを抜いた分、純粋にホラーを楽しめるようになっています。
中でも最高なのが「ルームシェアの怪」。ホラーが好きならこれだけは絶対に読んでみてください。
実話怪談の姿をした七つの怪異譚が、あなたを戦慄の世界へ連れていく。
47.加門 七海『祝山』
肝試しに行った友人の写真を見たことで、主人公の作家にも影響が出るという物語。
ドキュメンタリーホラーで、小野不由美さんの『残穢』に似た雰囲気があって読みやすいですね。
俗に言う化け物とか幽霊の描写がほとんどないにも関わらず、とにかくめちゃくちゃ怖いんです。
著者の実体験を下敷きにした究極のリアルホラー
淡々とじわじわと呪いじみた理不尽な祟りが浸食していくのがとにかく恐ろしい。派手さがないだけに、実感が湧き怖さが増します。
クライマックスに向けての畳み掛けが怖いし、ラストがまたとても怖くて良い。
明らかな怪異的現象が薄い分、淡々と静かに忌むべき何かに侵食されてゆく恐怖が非常にリアルです。
そしてなんと、この物語は著者・加門七海さんの実体験が元になっているという。
ああ、おそろしや。肝試しなんてやるべきじゃないって実感しますね。
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ホラー作家・鹿角南のもとに、旧友からメールが届く。ある廃墟で「肝試し」をしてから、奇妙な事が続いているというのだ。
48.飴村 行『粘膜人間』
驚異的な世界観とグロさを放つ《「粘膜」シリーズ》の第一弾。
「弟を殺そう」。身長195cm、体重105kgという異形な巨体を持つ小学生の雷太。
その暴力に脅える長兄の利一と次兄の祐二は、弟の殺害を計画するがーー。
第15回日本ホラー小説大賞長編賞を受賞した衝撃の問題作
一体どうしたらこんなイカれたお話を書けるのであろうか。
現実のようで現実とは全然違うぶっ飛んだ設定、グロテスクな生物、突拍子もない展開、そしてこれでもかと詰め込まれた残酷描写が渾然一体となって描かれる悪夢のようなホラー。
酷いスプラッターばっかり続くけど、ストーリーがちゃんとしてるから、ついつい時間を忘れて面白く読めてしまう。
全体を通してホラーというよりもシュールさが強く、 しかし明るく突き抜けた、意図的な狂気を感じます。
ひたすらグロく気持ち悪いのに、「続きが読みたい!」って思わせてくれるストーリーの面白さ。
この世界観が好きなら、ぜひシリーズを続けて読んでみてください。

「弟を殺そう」―身長195cm、体重105kgという異形な巨体を持つ小学生の雷太。その暴力に脅える長兄の利一と次兄の祐太は、弟の殺害を計画した。
49.名梁 和泉『二階の王』
第22回日本ホラー小説大賞優秀賞受賞作。というわけで安定の面白さを誇ります。
東京郊外で両親と暮らす八州朋子には、大きな悩みがあった。
30歳を過ぎた兄が二階の自室にこもり、家族にも姿を見せない生活が何年も続いているのだ……。
ホラー小説大賞で「ぼぎわんが、来る」と票を二分した傑作
30過ぎた引きこもりの兄とそれに悩む家族のお話、と思いきやなかなかスケールの大きい物語。
じわじわと異形のものの侵されていく日常から暴動のクライマックスまで、見た目静かであるがゆえに異様で独特な不気味さが全編を覆い尽くします。
ホラー感は少なめ、クトゥルフ神話っぽいというか、SFファンタジー小説とも言えるかも。でもホラー。
ところどころにクトゥルフ神話的要素が埋め込まれていて楽しいですし、侵食されていく日常やラストの怪物大行進もとても素晴らしい。
非現実的な問題に囲まれる一方、引きこもり問題や社会的弱者の心情をよく描いているので、現実とリンクして違和感なく物語に入り込めます。
東京郊外で両親と暮らす朋子は、三十歳過ぎの兄が何年も二階の自室にひきこもっていることに悩んでいた。
50.森山 東『お見世出し』
京都という和風な舞台が余計に怖い3編からなる短編集。
日本ならではの和の雰囲気と、京言葉での語り口が余計に不気味さを醸し出します。
語り口は『ぼっけえ、きょうてぇ』に似ていますが、内容はまた違った怖さがあります。
第十一回日本ホラー小説大賞短編賞受賞の表題作に二編を加えた珠玉の短編集
どれも面白いですが、特に扇子職人の物語を描いた『呪扇』の狂い具合が最高。
おばけ怖い系かと思いきや、まさかのグロテスクです。怖いというより痛いです。なのに!グイグイ読んでしまうんですよね〜。
ホラー好きならぜひ読んでほしい内容の珠玉の短編集です。
お見世出しとは、京都の花街で修業を積んできた少女が舞妓としてデビューする晴れ舞台のこと。お見世出しの日を夢見て稽古に励む綾乃だったが、舞の稽古の時、師匠に「幸恵」という少女と問違われる。
最後に
というわけで今回はおすすめホラー小説をご紹介させていただきました。
厳選してみて思ったのですが「短編集」の割合が非常に多いですね〜。一冊でいろんな恐怖体験ができるって素晴らしい!
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コメント
コメント一覧 (2件)
こんにちは。最近本を選ぶ時、いつも300booksのお世話になっておりますm(_ _)m
僕も専ら推理小説を読んでいたんですが、anpoさんのホラー特集を見て、はめられました笑。
以前は全文読ませて頂いて借りてましたが、今はタイトルだけで借りてます♪
りんくさんこんにちは!
そう言っていただけてとっても嬉しいです(๑>◡<๑) 推理小説も良いですが、ホラーも良いですよね♪ 参考にしていただきありがとうございます! これからもよろしくお願いいたします!