米澤穂信『本と鍵の季節』-爽やかでほんのりビターな図書室ミステリ、開幕!

米澤穂信さんの新刊が発売しました!

図書委員として働く僕・堀川と、委員会で知り合った同学年の松倉。

二人のもとに現れる事件と謎を解き明かしていく6つの物語が描かれています。

・913
・ロックオンロッカー
・金曜に彼は何をしていたのか
・ない本
・昔話を聞かせておくれよ
・友よ知るなかれ

この6つのお話が、短編連作形式で描かれています。

以下、それぞれの簡単なあらすじと感想です。

目次

913

三年生が引退し静かになった図書室で堀川と松倉は図書委員としての仕事をしていた。

そこに図書委員を引退した先輩である浦上が一つのお願いを持ってくる

その内容は、死んだ祖父の残した「開かずの金庫」の謎を解いて、金庫を開けて欲しいというものだった。

憧れの先輩に頼まれ断ることもできない堀川は松倉と一緒に先輩の家を訪ねることになる。

書斎に残された金庫と暗証番号の謎を解くことで、堀川は思いもよらぬ事実を知る。

感想

最初、青春小説らしい始まりをしたと思っていました。

図書委員の退屈な仕事にも手を抜かない堀川は、まさに真面目な少年として描かれています。

そんな真面目な少年の元に先輩が依頼を持ってきた、なんて流れであれば、甘酸っぱい展開を期待します。

相方である松倉と一緒に、先輩の謎を解きに行く堀川は、謎と共に先輩の秘密まで知ってしまうことに。

あれよあれよと話が展開していき、あっという間に予想外の結末を迎えます。

同じくらい頭が切れる堀川と松倉なんですが、その受け取り方はまるで正反対の印象です。

始まりから終わりまで、良い意味で裏切られる、意表を突かれる短編でした。

ロックオンロッカー

髪が伸びたので切りに行くことにした。

堀川は行きつけの美容院に、松倉も同じく行きつけの理容室に行こうとしたが休み。

割引券を持っていた堀川は松倉を誘い、同じ美容室に行くことにした。

この美容室は荷物をロッカーに預け、貴重品だけビニールバックに入れて持ち歩くシステムになっている。

仲良く並んで髪を切ってもらう二人だったが、店を出た後に、松倉が「面白い見世物がある」と堀川を誘う。

その結果、二人は眼の前で起こった事件を傍観することになった。

感想

「高校二年の夏が始まったころ、僕たちはある出来事の傍観者になった。」

(P.64)

事件の探偵役でも犯人でも被害者でもなく、傍観者と言い切る登場人物は珍しいです。

傍観者という言葉の響きが、まずミステリにおいて異質でしょう。

傍観というのは全てを知っていながら、ただ見ていることを選んだというニュアンスを感じられます。

そして、話を読み進めていく内に、確かにこの事件において、この二人は傍観者以外の何物でもないことに気づくことでしょう。

事件があって、謎を解いて、それでいながら傍観者な登場人物を寡聞にして知りません。

読んでいてとても小気味良く感じられる文章のテンポと展開の速さは流石の一言です。

少年二人の側で、青春を感じましょう!

金曜に彼は何をしていたのか

学校の窓ガラスが割られた。

時期がテスト期間だったということもあり、ガラスを割った犯人は答案が目当てだろうと言われてしまう。

その結果、不良の噂がある植田の兄が疑われることに。植田は堀川と松倉の後輩だった。

二人のもとに「兄のアリバイを証明して下さい」と植田が泣きついてくる。

アリバイ探しに植田の家を訪ねた堀川と松倉は残されたものからアリバイ証明を行う。

植田の兄が不良と呼ばれ初めた原因にも、その行動は関わっていた。

窓ガラスを割った犯人は誰なのか、最後まで気が抜けない話。

感想

学校の窓ガラスが割られるとちょっとした事件になります。

部活で割ったとかなら問題はありませんが、人気のない時間に割られていると問題として大きく扱われることに。

あれって少し不思議な感覚ですよね。他の場所ならそう問題にならないのに、学校だと大きく扱われてしまうわけです。

今回はそこにテスト期間が被ってきたから大変です。

堀川と松倉はテスト期間中でも謎を解いている余裕があります。

文中でも成績は悪くないと言い切ってます。謎を解く人間は違いますね!

そんな三人とは違い、植田の兄は不良と噂される人物です。

窓ガラスの謎を解き明かす内に植田家の事情が明らかにされます。

最後には掴みどころがない松倉のことも少しわかる短編になっています。

ない本

三年生が自殺した。堀川と松倉にとっては見も知らぬ“誰か”の自殺だった。

しかし、その自殺した香田先輩の遺書を探している長谷川先輩の登場により、見知らぬ人だった先輩は非常に身近な人へと変貌する。

長谷川先輩によると、香田先輩は本好きで、死ぬ数日前に長谷川先輩が話したときも本を読んでいたらしい。

その上、何か書きかけの手紙をその本にそっと挟んでいたという。

長谷川先輩はそれが香田先輩の遺書だったのではないかと思い、その本を探している。

だが本に興味がなかった長谷川先輩には中々見つけることができない。

堀川と松倉は見つからない本を探す手伝いをすることになる。

感想

「長谷川先輩の話は、たしかに嘘ばかりだ。」

(P.194)

絶妙なタイトルだと、読み終わった瞬間に思いました。

「ない本」これ以上に、この短編のタイトルであるべき言葉は見つからないでしょう。

米澤さんは非常にタイトルをつけるのが上手な印象です。

二重の意味が込められていることも多いですし、読み終わってから、そうだったのかと納得できます。

この「ない本」から少しずつ、松倉の謎めいた所が見え隠れし始めます。

元々同じ謎であっても捉え方が真逆だった二人。その違いが事件を面白く、さらに素早く展開させていました。

この二人にしか分からない部分も多いので、見え始めた松倉の姿がどう変化していくか、ドキドキする短編です。

物の考え方の違いにハッとすることでしょう。

昔話を聞かせておくれよ

図書室でする仕事もない暇な時間、松倉は昔話をしようと堀川に持ちかける。

暇を潰すためにただ口に出した話題。テーマは宝探しで、おとぎ話でも、聞いた話でもなんでもいい。

堀川が選んだのは小さい頃の苦い思い出を含んだ話だった。

昔から真実を見抜いてしまうと口に出さずにはいられない性格だった。

それで人が傷つくなんて思いもせずに、口に出してしまう。

堀川の話が終わった後、松倉が話し始めたのは、ある自営業者と泥棒の話だった。

昔話と言いながら今につながる話を口にした松倉。

二人は最大の謎に向かい合うことになる。

感想

この短編集の集大成とも言えるお話です。

文章量も6つの作品の中では一番多くなっています。

ここでも今までとスタンスは変わりません。

堀川と松倉の二人が、謎を解くために力を合わせていきます。

際立つのは二人の性格の違いでしょう。

「ない本」から着実に色づけられ始めた違いは、この話に来て決定的に見えてきます。

そして、ミステリーに一番謎を含んでいるのは『探偵』だというテーマをも表示しているように思えます。

探偵役は謎を特ばかりで、基本的に身辺が明らかになることはありません。

このお話は、そこを踏み込んで、今まで手に取るように分かっていた人物にも違う一面があることを教えてくれます。

ミステリーでありながら、難解ではなく、心に迫るものがあるお話です。

友よ知るなかれ

松倉との宝探しを終えた堀川。

しかし、その最中にありえないことが起こってしまった。

すっきりしない堀川は、自分の推理を確かめるために図書館へと足を運ぶ。

過去の新聞記事を探すためだ。

そこで知った事実は堀川の推理にピッタリと当てはまった。

堀川の行動を見抜いていた松倉も図書館に現れ、二人はお互いの考えを披露し合う。

感想

「やばいときこそ、いいシャツを着るんだ。」

(P.292)

そう来たか!と思わずにはいられない書き下ろし作品でした。

「昔話を聞かせてお切れよ」までが掲載されていたもので、この短編だけが書き下ろしです。

今までの5つの話を知っていた人にも、知らなかった人にも楽しめる書き下ろしでした。

「どんでん返し」とはミステリーによく使われる言葉ですが、これほどハラハラするのも珍しい気がします。

文章量としては、多くありません。

その多くない文章の中に、コンパクトに驚きを詰め込んでいます。

読みやすい文章なのであっという間に展開に引き込まれ、また最初から読みたくなってしまうお話です。

堀川と松倉の関係がどうなるのか、続きが気になる終わり方でした。

ミステリーでありながら、青春小説でもある傑作!

さすが米澤穂信さん、面白い物語ばかりです。

ミステリーでありながら、どれもテンポ良く進むお話ばかり。

難しいトリックや設定などはなく、図書委員の学生とその周囲でお話が進んでいきます。

今までミステリーに対して苦手意識があった人でも楽しんで読むことができる一冊でしょう。

堀川と松倉という二人の探偵役がいることで、自分はどちらの考えに近いか考えながら読むこともできます。

自分と違う考えを持つ人と共に謎を解く難しさ、面白さを体験させてくれる作品になっています。

一つ一つじっくりと楽しみながら読むこともできますし、ばーっと読んでみて、気になる部分を深読みするのも面白い!

人によって様々な楽しみ方ができる一冊なので、ぜひ、楽しんでください。

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この記事を書いた人

年間300冊くらい読書する人です。主に小説全般、特にミステリー小説が大大大好きです。 ipadでイラストも書いています。ツイッター、Instagramフォローしてくれたら嬉しいです(*≧д≦)

コメント

コメント一覧 (2件)

  • あけましておめでとうございます また存分に楽しませてください彡(^)(^)

    ツイッターなどでこの新刊を知りましたが未だに手にとってなく、まあどうせめちゃくちゃ面白いんだろうな… 米澤穂信だもんなあ… と、勝手に想像しておりましたw

    今年もここを覗きに来て、自分では探しえなかった極上の一冊を知りたいと思います 今年もよろしくお願いします!

  • こはるさん、あけましておめでとうございます!
    そうなんです、米澤穂信さんなので面白くないわけがないんです笑
    ぜひぜひお手に取ってみてくださいな。

    ありがとうございます!
    覗きにきていただければ嬉しいです!
    今年もよろしくお願いいたします(*´∀`*)

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