『放課後の嘘つきたち』- 高校生活で浮かび上がる数々の謎に迫る、学園本格ミステリー

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英印高校ボクシング部のエース・蔵元修は、しっかり者の幼馴染・白瀬麻琴に誘われ部活の予算調整やトラブル解決を担う部活連絡会を手伝うことに。

そんな中、カンニング疑惑や陸上部の幽霊騒動、映画祭に出品された作品改竄問題などの数々のトラブルが巻き起こる。

他の学校と、一見何ら変わりのない放課後の風景には、どこか怪しげで仄暗い謎が根付いていた。

幼馴染同士の修と麻琴は、皮肉屋な特待生・御堂慎司を仲間に入れ、謎の解明へと迫り始める…….。

高校生活の日常から浮かび上がる数々の謎の真相を暴く、ちょっとほろ苦い学園本格ミステリー。

目次

日常に潜む謎を通じて描かれる、深みのあるストーリー

部活連絡会の活動で時間をともにすることが多くなった修、麻琴、慎司の3人の前には、演劇部によるカンニングや映画コンクールの出展作の改竄など、高校生活ならではの数々のトラブルが立ちはだかります。

本作の物語では、高校生の生活風景を舞台にした謎解き要素がふんだんに盛り込まれている点が特徴的ですが、殺人事件発生から犯人の捜索を始めるといった類のミステリー小説とは毛色が異なります。

そのため、事件モノならではの推理要素を取り入れた小説を読み慣れている方にとっては、同じミステリージャンルであったとしても、まったく新しい作風のように感じられるかもしれません。

事件モノをテーマにしたミステリー小説に事件の犯人を探る面白さがあるのに対して、本作では読者に寄り添う形で、何気ない日常に潜む謎や秘密にじっくりと向き合っていくストーリー展開が見所の1つといえます。

部活連絡会の奮闘によって華麗に謎が紐解かれていく過程を楽しめるのはもちろんですが、それらの謎が主な登場人物3人の秘密や過去に繋がっている点もまた、物語の奥深さを際立たせています。

各キャラクターの重い過去や関係性が複雑に絡み合っており、全体的に重厚感のある物語に仕上がっているため、最後まで飽きることなく読み進めることができるでしょう。

情景浮かべやすい作風と個性豊かなキャラクター達

一見どこにでもあるような学校生活の中で巻き起こる謎を、ロジカルな描写で解き明かしていくストーリーは本作の見所の1つです。

物語では、高校生活の謎や登場人物の過去が交錯した複雑な描写が数多く登場しますが、ロジカルで分かりやすい文章や練り込まれたストーリーが用意されているので、状況を整理するのにさほど時間を要しません。

そのうえ、しっかりとした伏線のもとで謎解きが展開されていくため、最後にはすっきりとした納得感を持って読み終えることができます。

また、確実に伏線を回収していく堅実な小説であるだけでなく、学園ミステリーならではの青春の切なさや個性的なキャラクター達の心情の変化が緻密に表現されている点も、注目ポイントの1つです。

読者の感情に直接訴えかける形でテンポ良く物語が進行していくため、普段あまり小説を読まなかったり読むのが苦手な方であっても、序盤からその世界観に引き込まれてしまうことでしょう。

推理しがいのある推理ミステリー小説を求めている方はもちろん、個性豊かな登場人物達のやりとりを通じて、懐かしくもちょっと切ない高校生活に感情移入したい方にもぜひおすすめしたい1冊です。

高校生たちの成長と再生を綴る青春ミステリ連作集

著者の酒井田さんは、第11回小学館ライトノベル大賞に応募した日常系ミステリー小説『翡翠と琥珀』で優秀賞を受賞した後、 同作を 『ジャナ研の憂鬱な事件簿』にタイトルを変更した上で作家デビューを果たしました。

酒井田さんが描く作品は、日常生活の中にさりげなく散りばめられた謎を暴いていく学園ミステリー色が強い物語が特徴的です。

いずれの作品も、ライトノベルならではの読みやすさと推理しがいのある謎解き要素が絶妙なバランスで合わさったものが多い印象があるため、読書歴や年齢などに関係なく、誰もが気軽に楽しむことができます。

今回ご紹介している本作『放課後の嘘つきたち』もまた、読みやすさに十分配慮されており、物語のヒントとなる伏線や登場人物達の心情も分かりやすく描写されています。

こうした工夫が数多く盛り込まれているがゆえに、文章から状況を想像するのが苦手な方でも、人間ドラマを観ているかのように情景をイメージしながら、物語の世界観に入り込んでいくことができるのです。

また、部活連絡会に所属する高校生3人の前に立ちはだかる数々の謎にじっくりと向き合うスタイルは、読者の好奇心をくすぐります。

1つ1つの謎にはしっかりと伏線が盛り込まれており、それらがヒントとなって各登場人物の嘘や秘密が徐々に明らかになっていくため、度々「アハ体験」のような驚きと興奮を呼び覚ますことでしょう。

各登場人物に焦点を当てた学園モノならではの感情移入しやすいストーリーと、推理ミステリーの醍醐味を交互に味わえる作品に仕上がっているため、興味があればぜひ読んでみてください。

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この記事を書いた人

年間300冊くらい読書する人です。主に小説全般、特にミステリー小説が大大大好きです。 ipadでイラストも書いています。ツイッター、Instagramフォローしてくれたら嬉しいです(*≧д≦)

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