高校生活も残り僅かとなった3年生の中葉悠介。
姉である詩織への依存も克服し、刑事となる夢の実現のために邁進していた。
名探偵・蜜柑花子との屋上でのひとときも楽しんでいたが、そんな中でも学校生活にはあらゆるトラブルが潜んでいた―。
きっかけは体育の授業前、悠介が更衣室で“ある物”を落としたことだった。
その出来事が想定していなかったトラブルに知らぬ間に繋がってしまっていて・・・?
はたまた悠介と蜜柑の所属しているミステリ研究会会長の理想のダイイング・メッセージの定義など、彼らの周りで4つの事件が巻き起こる。
それぞれの事件に繋がりはあるのか?
複数の事件の先に蜜柑が見たものとは一体―!?
蜜柑花子と中葉悠介のその後を描く
「名探偵の証明」シリーズで活躍した蜜柑花子の学生時代を描くシリーズ第二弾です。
今回も学園で起きる事件を描きながら、蜜柑花子の推理を楽しむことができます。
前作では主人公だった中葉悠介は今作ではシスコンを克服しています。
ですが蜜柑花子との交流は続いており、彼女に影響されて刑事を目指すようになっていました。
そんな中葉が更衣室で落とし物をしたことから事件が起きてしまう「ルサンチマンの行方」に始まり、ミステリー研究会の会長が理想のダイイングメッセージとは何かを悩む「オレのダイイングメッセージ」、カースト上位の女子高生たちの揉めごとを描く「誰がGを入れたのか」、そして毎年屋上で生徒が消えるという学園の七不思議の真相に迫る「屋上の奇跡」といった4編とプロローグ、エピローグという形式になっています。
それぞれのストーリーは独立して読めるものの連作短編集の形になっているため、あるストーリーではささいな出来事だったことが別の話ではメインの出来事になっていたりと、視点によって違う楽しみ方ができます。
高校生ならではのみずみずしさだけでなく、狭いコミュニティーの中で生活しなければならないという息苦しさなどもしっかり描いています。
犯人視点のミステリー小説
今作は4編の短編から成り立っている連作短編集ですが、いずれの物語も犯人視点で進んでいきます。
犯人を当てたり動機を考えたりと言ったミステリー小説を読む上での楽しみはなくなってしまいますが、蜜柑花子たちがどのようにして謎を解き明かしていくのかといった部分に焦点を当てて読むことができます。
とは言っても犯人も蜜柑花子たちと同じ学生なので、それほどひどいことをする、理解できない思考をしているということはありません。
ただ、若さゆえに思いつめてしまったり、スクールカーストに苦しめられていたりといった、学生ならではのつらさから事件に発展しているストーリーもあります。
今シリーズはミステリー小説の中でもかなりライトに読める内容になっていますので、ミステリー小説好きはもちろんのこと、普段あまり本を読まない若い方にもおすすめです。
蜜柑花子たちと同じように学園生活を送る学生にも共感できるポイントがたくさんあるでしょう。
学生生活は決して爽やかで甘酸っぱい日々が続くものではありません。
大人になってから見れば小さな出来事でも学生にとっては世界を揺るがすような大事件だったりもします。
大人の方はほほえましく、若い方は共感しつつ読み進められることでしょう。
少年少女たちの成長する様子にも注目
「名探偵の証明」シリーズから派生した蜜柑花子の学生時代を描くシリーズの二作目では、前回にも増して個性豊かな登場人物たちが活躍しています。
いずれの物語も犯人視点で進んでいきますが、この犯人も一筋縄ではいかずさまざまな問題や悩みを抱えています。
物語によっては犯人に同情できたり、反対に蜜柑花子たちの立場になってしまったりと、さまざまな楽しみ方ができるでしょう。
スクールカーストが物語の鍵となるような作品は近年たくさんあり、中には非常に後味の悪い作品も少なくありません。
ですが今作は後味の悪さも軽めで、あっさり読み終えられます。「イヤミス」の後味の悪さが苦手…という方でも問題なく読めるでしょう。
エピローグで最終的に円満に終わるので、そういった点でも読みやすいと言える作品です。
前作から読んでいて気に入っていた方なら、今作も楽しく読めるでしょう。
蜜柑花子についての描写や中葉悠介との関係についての描写は少なめですので、今作から読み始めるより、
①『名探偵の証明』
①『屋上の名探偵』
②『放課後の名探偵』
の順番で読み始めることをおすすめします!
ぜひこの機会に読んでみてください(*’▽’*)




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