さて、これもまた楽しみにしていた澤村伊智さんの作品集『ひとんち』です。
澤村さんはデビュー作の『ぼぎわんが、来る』から追いかけているホラー作家さん。
これまでは比嘉姉妹シリーズ(『ぼぎわんが、来る』『ずうのめ人形』『ししりばの家』『などらきの首』)としていろんな作品を書かれてきましたが、ノンシリーズの短編集はこれが初めて。
期待が高まります。
1.ひとんち

就職して以来疎遠になっていた友人・恵ちゃんと久々に再開し、意気投合。
仲の良かったもう一人の友人・香織が戸建を購入したことを知り、二人で家にお邪魔することになった。
いろんな話で盛り上がる最中、やがて話は香織が飼っている犬の話になり……。
人の家というのは、自分には馴染みのない不思議な風習があったりするもの。
私も子供の頃、友人の家に遊びに行って、自分の家との違いに戸惑いを覚えたものです。
このお話は、そんな「ひとんち」の恐ろしさを極限に描いた一編。
その人にとって当たり前だと思っていた出来事が、実は当たり前でなくてーー。
2.夢の行き先
小学五年生の晃(あきら)はある日、怖い夢をみた。
真っ赤な照明が光るマンションで、薙刀を持ったババアに追いかけられる夢だ。
追い詰められ、ババアが薙刀を振り上げたところで目が覚める。
叫び声がうるさいと、兄に起こされたのだ。
良かった、夢だった。
安堵する晃。
しかし次の日、晃は再びババアに追いかけられる夢をみた。
さらに晃は、学校で友人のとんでもない発言を耳にするーー。

誰かに追いかけられる怖い夢、というのは誰もが一度は見たことがあるでしょう。
もちろん私も見たことがありますが、二日続けて見たことはありません。
もし三日連続で見たとしたら、日常生活に支障が出るレベルの恐怖です。
さらに学校で友人からのあんな発言を耳にしてしまっては……。
3.闇の花園

飯降沙汰菜(いぶりさたな)はクラスで浮いていた。
クラスメイトと喋っている姿を臨時教師の吉富は一度も見たことがなかった。
そして何より、その姿。
沙汰菜は常に真っ黒な、いわゆる「ゴスロリ」と呼ばれるような服を着ていた。
さらに服だけでなく、タイツも靴下もランドセルも真っ黒だった。
そして沙汰菜の母親は、クラスメイトから「魔女」と呼ばれていることを知る。
一体どんな母親なんだろう。
疑問に思っていた吉富は、個人面談でついに沙汰菜の母親に会うことになるーー。
なるほどー!
こういうタイプのホラーでしたか。
澤村伊智さんの作品のでもこのタイプのホラーって初めてですね。
おどろおどろしいジャパニーズホラーと違って、なんというか禍々しい感じ。好きです、こういう展開。
4.ありふれた映像
スーパーで買い物中、子供が小さな液晶テレビに目を奪われていた。
そこにはスーパーの販売促進のための、よくある映像が流れていた。
なぜこんな映像を真剣に見ているのだろう。
子供に問いかける。
「みぎ、みぎ」
「ええと、おく」
子供に言われるがまま、映像に目をこらすと、そこにはとんでもないものが映っていてーー。

深夜に読んだのが悪かった。これは怖い。
今やどこにでもある、販売促進や広告募集などのありふれた映像。
そこにこんな奇妙なものが写り込んでいたら。
もしかしたら私が気がつかないだけで、ほんとは映っているのかもしれない。
もし見かけたら目をそらしてしまう、街を歩くのが怖くなる、そんなリアルが怖くなる短編。
5.宮本くんの手
とある編集部に務める宮本くん。
彼の手がものすごく荒れていることに気がつく。ヒビ割れもひどく、それはもう見ていられないくらいに。
彼の話によると、小学生の時からこのような症状に悩まされているという。
「バグみたいなもんやろなって思ってますよ。よう探したら誰にでもあるような、ほんまにちっちゃいバグ」
P.172
確かに、他の人とはちょっと違った症状がある人が意外と多かったりする。
自分もそんな一例だというが、実は宮本くんの手にはさらなる秘密があってーー。

異常なほどに荒れる手。
それがまさかのアレに繋がっているとは予想できず。
それに気味が悪かった。
その後、宮本くんがとった行動にも鳥肌が。
6.シュマシラ
UMAをモチーフにした昔の食玩シリーズに、元ネタがわからないものがあった。
それが「シュマシラ」。
調べているうちにシュマシラは猿型の妖怪が元ネタらしいことがわかる。
熱心な食玩コレクターと共に、シュマシラについてさらに詳しく調べ始める主人公たちだったが……。

どこまでが本当の話でどこからが創作なのか分からせない、澤村伊智さんらしさが楽しめる短編。
最終的に山奥の動物園で大変な目に会うのですが、この時の不気味さがたまらない。
7.死神
友人から突然、一ヶ月帰省しなければならないという理由で、そのあいだ植物とペットを預かるよう頼まれた。
預かった生物たちを世話しているうち、自分の記憶が急に消えるようになる。
なんだこれは。
そして預かって間も無く、ペットが死んでしまう。
慌てて友人に連絡をするがーー。

むかし流行った「〇〇の〇〇」をテーマにした気味の悪い話。
私の所にも来た事があります。
しかし、澤村さんの手によればこれほど読み心地が変わるものかと驚きました。
ほんと気持ちが悪いです。
8.じぶんち
三泊四日のスキー合宿を終えて深夜に帰宅するが、家の様子がおかしい。
電気もコタツもテレビもついているのに、両親と弟の姿が無い。
一体どこへ行ったのか。
奇妙に思い両親に電話するがーー。
かの有名なメアリー・セレスト号事件(無人のまま漂流していた船)のような人間消失が「じぶんち」で起きる、という話。
正直言って、この作品集の中で一番好きです。
家族の失踪はほんの始まりに過ぎず、この後あまりにも気味の悪い恐怖が襲い掛かります。
ただのホラーにあらず、あのジャンルをホラーに組み込んだ名作でしょう。
あらゆるジャンルのホラーを取り入れた傑作集

8つの短編が収められていますが、一つとして同じタイプのホラーがありません。
全部に少しづつズレがあって、今までにない新しいホラー作品になっているのです。
さすが澤村さん、底が知れません。これからどんなタイプのホラーを書いていただけるのでしょう!本当に楽しみです。
マイベストはやはり最後の『じぶんち』。
理不尽な恐怖にラストの絶望感がたまりません。
とにかく、あらゆるタイプの恐怖が楽しめるホラーの玉手箱のような作品集ですので、もともと澤村伊智さんの作品が好きな方はもちろん、少しでもホラー小説に興味があるならぜひオススメさせていただきます。
はあー、やっぱり澤村さんは面白いなあ。
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こんにちは。実は、最近拝み屋シリーズを読みかけてあまりの怖さに数ページで中断していたんです…だから、しばらくホラーは読まないつもりだったんです。でもめちゃくちゃ面白そうじゃないですか〜!どうしてくれるんですか!でもホラーだけど奇妙な味って言う感じもあるのかな?
イラストも使われている色もニュアンスがあってぴったりですね。
林檎さんこんにちはー(*´∀`*)
おお、拝み屋シリーズを読んでいらっしゃるのですか!あれはほんと怖いですよねー、ちょっと他のホラーとは別格です。
そうなんです、この『ひとんち』はまた違ったタイプのホラーで、とにかくいろんなタイプが楽しめるんです。良いですよ〜!
ありがとうございますー!そう言っていただけて嬉しいです!