私は怪談やホラー小説を読むのは大好きであるものの、自分で書いたことはない。読者を怖がらせるということはとても難しく、技術がいることだと感じていたしーー何より咄嗟に頭に浮かんだある体験を怪談として書いてしまうことに抵抗を覚えたのだ。
P.7より
読者を怖がらせることは難しい?
技術がいること?
確かにそうかもしれないですけど、
いやいや、芦沢さん。
ホラー小説めっちゃお上手じゃないですか!!!
私の中で芦沢さんはやはりミステリ作家というイメージが強くて、その芦沢さんがホラー小説を書くって時点でワクワクドキドキでしたが期待以上に面白くてビックリしました。
芦沢さんすごいわー。
『火のないところに煙は』
8年前、新卒3年目だった私のもとに、知人である早樹子から連絡が来た。
どうやら友達が困っており、お祓いをできる人を探しているという。
話を聞くと、
・その友達は彼氏と「結婚したいね」となどと話している時期、一人の占い師を紹介してもらった。
・よく当たるという知る人ぞ知るその占い師に占ってもらったら、「結婚すると不幸になる」と言われた。
・すると彼氏が大激怒。大声で怒鳴り、お金も払わず飛び出してしまった。
そんなことがあってから、彼氏の様子がおかしいという。
『あんなババアのことを信じるな』『別れるなら死んでやる』などと言い出し、占いの結果よりも彼氏の豹変ぶりがショックで気持ちが冷めてしまっていた。
そしてある日、「夜の12時までに来てくれなければ死ぬ」とメールで言われた。
しかしどうしても行く気になれなかった彼女は、メールに返信せずそのまま電源を切った。
そしてその日、彼氏が交通事故で死んだと連絡がはいった。
染み

話はそれだけで終わらなかった。
というか、ここから本番だった。
彼氏を失ったその友人は、仕事で交通広告を担当していた。電車の中吊りポスターとかを、クライアントに売ったり手配したりする仕事だ。
けれどある日、ポスターを契約したクライアントから、「ポスターに赤黒い小さな染みが点々と飛んでいる」というクレームが入った。
原因は不明だったが、なんとかその場は大急ぎで対応し、事なきを得た。
しかし。
その後も同様のことが、つまりポスターに赤黒い染みがつくことが続いたのである。
この赤黒い染みは一体なんなのか。
彼氏の事故死と何か関係があるのか。
と、思っていると、その友人はカバンからその染みのついたポスターとルーペを取り出した。
どうやら、その染みをルーペで拡大して見てほしいようだが……。
私は彼女に促されるままルーペを覗き、次の瞬間、息を飲んだ。
黒と赤を混ぜ込んだようなインクの染みに見えた汚れにはーー無数の文字が書かれていたのだ。
P.25より
なんと書かれていたのかは本書を読んでからのお楽しみです。
実際私はほんとに鳥肌がたってしまいました。
芦沢さん、怖がらすのお上手すぎでしょう、まったく(๑`н´๑)
そして続く、五つの物語。
恐怖の物語はこれだけでは終わりません。
第一話『染み』の他に、
第二話『お祓いを頼む女』
第三話『妄言』
第四話『助けてって言ったのに』
第五話『誰かの怪異』
最終話『禁忌』
と全部で計六話の物語が収められております。
どの話が一番怖い、というのではなく、どの話も安定して怖く、意味があり、最終話でドカン!ときます。
最終話の『禁忌』は夜中の一時過ぎに読んでいたのですが、それはもう鳥肌が立ちっぱなしでトイレに行けずおねしょを覚悟しましたもんね(なんとかセーフでした)。
一見短編集のようですが、必ず第一話から順番に読んでくださいね。これは短編集に見せかけた長編作品ですので。
そして全て芦沢さん本人の目線で語られており、これは三津田信三さんや澤村伊智さんの作品のように、芦沢さんがリアルに体験したものをそのまま文章にしたような作品になっています。
だから余計に怖い。このリアル目線のパターン大好きなんですわあ。
怪談とミステリは相性がいい……?
私は、怪談とミステリは相性がいいものだと思ってきた。
怪異というそもそも謎をはらむ事象を扱い、「どうしてこんな怪異が起こるのか」を探っていくというのは、もうそれだけでミステリの要素を含むだろうと思っていたのだ。
いや、もう少し正確にいうならば、怪異と思われる現象を前にしたときにまずすべきことは、論理で説明がつくものなのかそうではないのかを検証して分けることだと考えていた。
(省略)
だが、それでは、「論理で読み解いて説明をつけることもたまたま可能だけれども、実際のところはそうではなく本当に論理を超越した怪異」を誤った見方で結論づけてしまうことになりかねない。
つまり怪異というものが人智を超えた事象である以上、そこに論理的説明をつけようとすること自体が常に誤りを内包することになるのだ。
P.138.139より
これはミステリにおいての「探偵が入手した情報が足りない、もしくは誤っている可能性を否定できず、それゆえその探偵が提示する推理が本当の真相かどうか作中では証明できない」という問題に似ている、と芦沢さんは述べています。
自分が入手できた情報から「こう考えれば辻褄が合う」という道筋を見つけてはまるで鬼の首を取ったように「この怪異の原因はこれである」とまとめることは、どれほどその論理展開が鮮やかで説得力があろうとも構造上に机上の空論でしかありえないのだ。
P.139より
すいません、引用がかなり多くなってしまいましたが、『火のないところに煙は』ではミステリと怪異についての相性についての芦沢さんの持論がされており、読みどころの一つになっています。
実際『火のないところに煙は』では伏線を回収していく場面が多くあり、まるでミステリ小説を読んでいる時のような快感(恐怖)を味わうことができます。
何回も言いますけど、やっぱり芦沢さんは人を怖がらせるのが上手いです。
最終話の『禁忌』の時だって……、おっと、これ以上ネタを言うのはやめましょう。
とにかくこの夏にピッタリの、というかこの夏に読まなくていつ読むの!ってくらいオススメの芦沢さん渾身のホラー小説です。
ぜひ、眠れない夜をお過ごしくださいませ……。

待ってました、待ってましたよ!彡(^)(^)
とんでもない一冊が出ましたよねえ サイン本欲しかったのですが….. あいにく田舎には届かなく、それでも前情報見た時から、これは絶対発売日に読まなければと思いました
今年の賞レースにノミネート間違いなしですよねこれ
2回目読むのはもう少し先にしようと思います 余韻というか思い出し恐怖と言うのか….. 当分いいやこの本はw(褒め言葉)
待っていましたか!
いやあ、ほんととんでもない一冊が出ましたよねえ。
これは今のところの芦沢央さんの最高傑作ではないかと思っております。
まさに今年の賞レースにノミネート間違いなしですね。
私も怖いので当分読み返すのは控えようかと……笑
こんばんは、はじめまして(^^)いつも記事を楽しみにしております(^^)本を選ぶ時はこちらのブログで紹介された物を買えば間違いなく面白いので参考にさせていただいております。いつもでしたら店頭にあったり、なくてもすぐに取り寄せができたりするのですが、この「火のないところに煙りは」は何軒回ってもないし出版社にも残っていないかもとのことで手に入るかドキドキなのです(T∀T)だから余計に読みたくてたまらないのです!
無事に手に入りましたら感想を書かせていただきたいと思います☆いつも素敵な記事をありがとうございます(^∇^)おかげで良い本にたくさん出会いました(^o^)v
あねちゃんさんこんばんは!
嬉しいお言葉をありがとうございます!(*´∀`*)
えー!そんな手に入りにくい状態になっているんですね!びっくりです。
やはりそれだけ面白い作品なので品薄になってしまっているのでしょうか……。
ぜひあねちゃんさんにも、早く読んでこの恐怖を味わっていただきたいです!笑
寝不足には気をつけてください!
anpo39さん、こんにちは。『火のないところに煙は』読みました。ホラーは苦手なんですが、話に惹き込まれて一気読みでした。『物語シリーズ』で怪異に対する耐性が少し強くなったような気がして、今作読んでみたのですが、やはり怖かったです。フォントと太字で心臓バクバクでした。面白かったけど、夜には絶対に読めないですね。ホラー駄目なはずなのに、澤村伊智作品購入しちゃいました。太陽が出ている時に読んでみようと思います。
リエさんこんにちは〜!
『火のないところに煙は』、面白いですよね(*’▽’*)
やっぱり『物語シリーズ』の怪異とは違う怪異ですよね、私も終始ドキドキしながら読んでました。。
おお!澤村伊智作品を!
澤村さんの作品はどれも怖いし面白いですからね〜。リエさんがどんな反応をするか楽しみです笑
ぜひぜひ楽しんでください!