小学5年生のころ親の都合でアメリカに渡ることとなった少女・エリカは、4年の月日を経て誕生日にビジネスクラスの飛行機で帰国することに。
家族と離れて1人帰国するものの、その飛行機内でおかしな出来事に遭遇する。
思春期をアメリカで過ごすこととなったエリカは父を毛嫌いしているが―?(「十四時間の空の旅」)
芦沢 央/阿津川辰海/木元哉多/城平 京/辻堂ゆめ/凪良ゆう、6人の作家が描く非日常を題材にしたアンソロジー。
父と娘の愛情、夫の知らない妻の顔、下宿の取り壊しで発見される謎の御札・・・。
一体どんな日常の中にどのような非日常が潜んでいるのか?
異なる定義の非日常がさまざまな形で描かれる―。
若手作家六人による書き下ろしアンソロジー
「非日常の謎」は、若手作家六人による書き下ろしのアンソロジー作品です。
ミステリー小説の中には日常に潜む謎を取り上げて描くものも多いですが、今作ではそんな日常の中に垣間見える非日常を切り取った作品ばかりになっています。
寄稿しているのは芦沢央、阿津川辰海、木元哉多、城平京、辻堂ゆめ、凪良ゆうという六人の若手作家。
デビューして間もない作家もおり、知名度はそれほど高くありません。読んだことがない、名前も知らないという方も多いのではないでしょうか。
その分先入観なく読み進めることができ、新しい作家との発見を期待できるかもしれません。
よく読む作家とは違う作家の小説を読むという体験も、タイトルの「非日常」の一部分として楽しめるような内容になっています。
それぞれミステリー要素はありますが、心が温まるような作品から後味の悪い作品、読者を驚かすような内容を盛り込んだ作品など一つ一つ違った表情を見せてくれています。
アンソロジーであること、比較的読みやすい文体の作家が揃っていることから、普段読書をあまりしない方にも楽しんでいただける一冊と言えるでしょう。
非日常を描くミステリー短編
芦沢央氏の「この世界には間違いが七つある」は読者のミステリー小説好きのレベルを試すような内容になっています。
普段からミステリー小説をよく読んでいる方でもトリックを見破れないかもしれません。
これまでにないような不思議な小説ですので初めて芦沢氏の小説を読む方は驚いてしまうことでしょう。
阿津川辰海氏の「成人式とタイムカプセル」は、成人式に開封しようと約束したタイムカプセルを巡る物語です。
謎を解き明かしつつ、若い頃ならではの感傷的な気分を懐かしめるような内容になっています。ほっこりするものではなく苦々しいような、「若かったな…」と思えるような内容です。
木元哉多氏の「どっち?」は不倫をしている男性を描く物語です。自分はうまくごまかせていると思っていても妻にはお見通しで、どんな復讐が待っているのか…とゾクゾクするような展開になっています。
城平京氏の「これは運命ではない」は城平氏の虚構推理シリーズのスピンオフ作品のような位置づけです。ある女性と出会ったのは運命か偶然かという相談を受ける桜川九郎の名推理が見どころです。
今作のみを読んでも十分に楽しめますが、この作品に興味を持ったらシリーズの作品もぜひ読んでみてください。
辻堂ゆめ氏の「十四時間の空の旅」はアメリカから日本に帰国する一人の少女と、その飛行機に乗り合わせた怪しい男を描きます。
凪良ゆう氏の「表面張力」は凪良しの「すみれ荘ファミリア」のスピンオフ作品です。こちらも単独で読めますが、シリーズを読んでおくとより楽しく読み進めることができるでしょう。
コロナと戦うすべての人に
今作「非日常の謎 ミステリアンソロジー」が誕生した背景には新型コロナウイルスの影響があります。
これまでの日常が奪われ、多くの人が非日常の中に無理やり放り込まれたような感覚を味わっているかもしれません。
感染症対策を余儀なくされる非日常も長引けば日常になってしまいます。
そんな中、小説を読む、読書を楽しむという日常的な体験だけは失わないでほしいという願いを込めて作られたのが今作です。
寄稿された六編はいずれも日常の中の非日常を切り取った作品になっており、自分の人生にもこんな瞬間があるのかも?と思わせてくれます。
また、外出する機会が激減して自宅で過ごす時間が長くなった今、普段小説を読まないものの本を読んでみようと思う方も少なくありません。
そんな方の最初の一冊にももってこいの作品になっています。
ぜひお手にとってみてください!