さて、先日の『御手洗潔編』に続き『名探偵傑作短篇集 火村英生篇』です。
有栖川有栖さんの代表作《火村英生シリーズ(作家アリスシリーズ)》の短編から、厳選された6編が収録。
収録作品は
1.『赤い稲妻』
2.『ブラジル蝶の謎』
3.『ジャバウォッキー』
4.『猫と雨と助教授と』
5.『スイス時計の謎』
6.『助教授の身代金』
という感じ。
やはり『スイス時計』の謎は入ってますよねえ。これは絶対収録されると思ってた(´∀`*)
そしてこの表紙絵のイケメンっぷりね。
なにこのポーズ。かっこよすぎでしょ!笑
・御手洗潔編
➡︎新本格30周年記念『名探偵傑作短篇集 御手洗潔篇』がその名の通り傑作短篇集すぎて。
・法月綸太郎編
➡︎『名探偵傑作短篇集 法月綸太郎篇』-シリーズ入門にぴったりなバランスの良い名作集でした
1.『赤い稲妻』
マンションのバルコニーで二人の人物が争っていて、そのうち一人が転落したのを目撃した火村の教え子。
落下地点には女性の死体があったが、争っていたもう一人の姿はどこにもなかった。
しかもそのバルコニーの部屋には内側からチェーンがかかっていた。
つまりは、そのもう一人は女性をバルコニーから突き落とし、密室状態の部屋から消えてしまった、ということになる。
その一方、踏切に取り残された車に列車が接触し、車に乗っていた女性が死亡するという事故が起こっていた。
これら二つの事件をつなぐものとは。
国名シリーズ『ロシア紅茶の謎 (講談社文庫)』に収録されていたもの。
ザ・推理小説という感じで良いのですが、犯人の冷酷さがとくに恐ろしい。
密室の真相は「えっ!」って思わせてくれるものだし、犯人を追い詰める最後のダメ押し具合が最高。
2.『ブラジル蝶の謎』
兄・利光が病気で亡くなったため、瀬戸内海の小島で孤独に暮らしていた弟・明芳が19年ぶりに本土に戻ってきた。
が、すぐに何者かに殺害されてしまう。
不可解なのは、兄・利光のコレクションであった色とりどりの蝶が現場の部屋の天井いっぱいに留められていたこと。まるで空を舞うように。
犯人はなぜ、天井に大量の蝶を舞わせたのか。
国名シリーズ『ブラジル蝶の謎 (講談社文庫)』に収録されていた表題作。
相変わらず、ちょっとした事実から犯人を導き出す過程がとてもお上手ですね。
19年間外部との連絡を一切取っていなかった被害者、というのがポイント。
と、ミステリとしても面白いのですが、これが収録されたのはやはり「火村英生シリーズを読む上で欠かせない一品」だからでしょう。
最後に、火村英生がなぜ犯罪者を狩る探偵を続けているか、が述べられるわけですが、もう、ね。
こういう火村英生の「闇」の部分もシリーズの魅力なんですよねえ。
3.『ジャバウォッキー』
アリスと火村の元に、以前お世話をした山沖という男(通称ジャバウォッキー)から電話がかかってきた。
「さぁ、どこかな。今夜のねぐらも決めてねぇよ。昨日はナハだったけど。そうだ、明後日はワッカナイの日だっけ」
P.136より
「あさってはワッカナイの日だ。十五年ぶりだぜ。パンドラともお目にかかれる」
P.136より
しかし、彼の言っている意味がわからない。
しかもその山沖がまた人を傷つけて逃走しているという。
火村とアリスは彼を捕まえるため、意味不明と思われる彼の発した「言葉」を推理し居場所を突き止めていく。
『英国庭園の謎 (講談社文庫)』に収録。
言ってしまえば「言葉遊び」を使った謎解きゲームのようなものですが、テンポよくスリルと緊張感があって面白い。
火村とアリスの連携プレーもお見事。
4.『猫と雨と助教授と』
『ペルシャ猫の謎 (講談社文庫)』に収録されていた、わずか5ページの短編。
ミステリではなく、火村の猫好きを表したちょっとした日常を描いております。
このあたりで休憩というところですか。
なっていったって次は『スイス時計の謎』ですからね。気合を入れていきましょう。
5.『スイス時計の謎』
コンサルタント会社を経営していた男が、事務所で何者かに殴り殺された。
不可解なのは、現金やクレジットカードには手をつけず、「腕時計」だけが持ち去られていたということ。
犯人はなぜ被害者の腕時計を奪い去る必要があったのか、が解決のヒント。
国名シリーズの中でも特に傑作と名高い短編です。
容疑者を五人に絞るまでの過程も見事ですが、そこから「腕時計」に注目して犯人を特定していく場面が見事なんてものじゃない。
これぞ有栖川有栖!と言わんばかりの、圧倒的なまでの、美しい、論理的推理。
あまりに完璧なロジックに、犯人ではない私も思わず「すいませんでした」と自首したくなるレベルです。
もし未読であれば、この短編を読むだけでも購入する価値ありですよ。
6.『助教授の身代金』
恋愛ドラマで務めた主人公の大学助教授が当たり役となり、一時期は〈助教授〉というニックネームで親しまれた志摩征夫(しまゆきお)が誘拐された。
犯人は身代金3千万を要求。大阪駅11時10分発の電車に乗り、赤い目印が見えたら窓から現金の入ったカバンを落とせ、と言うが……。
『モロッコ水晶の謎 (講談社文庫)』に収録。
助教授って火村さんの事じゃないんかい!てっきり火村さんが誘拐されてアリスが助けに行くみたいな話かと思ったじゃないか!と誰もが思ったタイトルで有名。
よくある誘拐モノと見せかけておいてからのまさかの展開が楽しい短編ですね。
終盤には二転三転するし、あの真相には思わず「そういうことだったのか!」と唸ってしまうことでしょう。
ちなみに火村さんは初対面の挨拶をする前に、すでにこの犯人を疑ってましたからね。もう怖いです。
火村英生シリーズ最初の一冊にもOK!
火村英生シリーズ(作家アリスシリーズ)入門の一冊としてもかなり良いと思います。
それぞれの短編のクオリティが高いのはもちろんですが、他の火村英生シリーズを読みたくさせる一冊としてオススメしたいです。
火村英生という名探偵の魅力がかなり現れている短編ばかりで、これを読んだらすぐに火村英生という人物をもっと知りたくなることでしょう。
とりあえず今作を読んで「面白い」と思ったなら、そのまま国名シリーズを全部読んじゃいましょう。少しでもミステリがお好きなら、十分にその価値はあります。
もちろん国名シリーズ以外でも面白いものばかりで、火村英生シリーズから選ぶんだったら個人的には
①『暗い宿 (角川文庫)』
②『怪しい店 (角川文庫)』
辺りの短編集が好きですね。
あと長編でしたらやはり火村シリーズ第一弾の『46番目の密室 (講談社文庫)』も外せません!
ぜひ参考にしてみてください(*´ω`)
というか、基本的に火村英生シリーズの短編は面白いものばかりで(そりゃ有栖川さんが書いているんだから当たり前ですが)、その中から6編だけ選び出すなんて困難すぎますよ。
それを考えてみても、今回の傑作短篇集はなかなか良いバランスだと思います。
最後に、杉江松恋さんの「解説」から〈全くその通りだ〉と共感した部分を引用させていただきます。
本書で火村英夫ものを初めて読んだという方は、ぜひオリジナルの国名シリーズや、その他の作品も手に取っていただきたい。質量ともに充実しており、楽しい読書の時間が持てることは保証する。
ありがたいことに、火村英夫という現在進行形で論理の驚きを提供し続ける探偵がいる限り、ミステリーファンが退屈することはないのだ。
P.453「解説」より引用
御手洗潔編

法月綸太郎編

二階堂蘭子篇?

コメント
コメント一覧 (10件)
こちらも表紙のイラストがカッコ良すぎ!笑 なんですか、このポーズ(≧∀≦)
絶対、この短編集も買っちゃいます。
ほんと、火村とアリスの魅力が詰まったよりすぐりの短編ばかりですね。
私にとっては、火村英生シリーズはミステリにハマったきっかけの作品なので、思い入れがすごくあるんです。国名シリーズを買い漁って夜通し読んだなぁ…有栖川有栖先生、万歳!
いやほんと笑っちゃうくらいの決めポーズですよね。笑
個人的のも良い短編ぞろいだと思います。これは買わねば!!
おお!ミステリにハマったきかっけが火村英夫シリーズとは!素晴らしいですね。
私も国名シリーズを読み漁った頃が懐かしいです……あの頃はよかった……もちろん今も良いけど……
同じく!有栖川有栖先生、万歳!( ´∀`)
表紙がとてもかっこいい火村先生の、魅力に満ち溢れた短編集だと思います! 犯人を追い詰める様子がクールで、追及の言葉もセンスがいいって感じですね。それでいてミステリとしての完成度も高いという。最高。掌編ですが、中盤の「猫と雨と助教授と 」がいい味を出してますよね〜。狩人チックな助教授も、猫好きの助教授も大好きです。
「我が家の本棚よ、本、もう一冊増えてもいいかな」
かっこいいですよねー!表紙も中身も。
まさに、論理詰めで犯人を追い詰めていく火村さんは無敵です。改めて惚れ直しました。
そうそう!!「猫と雨と助教授と」を間に挟む演出が良いんです!!思わず「おお!これを入れるとは!」とニヤリとしてしまいました。
本棚「どーんと来い」
エラリー・クイーンの最大の功績はもしかしたらその作品群ではなく、その後多くのフォロワーを生み出した事ではないかと思っています。
エラリー、ありがとう。
日本ではとんでもないフォロワーが登場しました。
貴方のおかげで私は幸せです。
いやあ、まさにおっしゃる通りかもしれません。もちろんクイーンの作品も大好きですが、その影響を受けた作家さんたちの作品の素晴らしいこと。
本当に、クイーン様様ですね。
もはや私はあなたのおかげで生かされていると言っても良いかもしれない……(´∀`*)
有栖川さんの国名シリーズは結構読んだためこの短編集の短編の内容全てを知っているのですが、表紙の火村先生と有栖先生がカッコよすぎて購入しようか書店で1時間考えた挙句、買ってしまいました…ただでさえ、綾辻先生の十角館の限定愛蔵版を買う予定で財布が心もとない状態なのに…夏季休業中に、バイトをあと一つ入れて本代を稼がねば…ただ、どの話も傑作短編集の名に恥じない名作ばかりなのである程度ネタを知っている状態で読んでも非常に楽しめました。特にスイス時計のロジックの美しさときたら何度読んでも色褪せませんね。
いやー私も国名シリーズは全部読んでしまっていたため、この短編集の話は全て読んでしまっていたのですが、表紙のカッコよさと「名探偵傑作短篇集」という響についうっかり買ってしまいました。
というか、これを買わずにいられる方が難しいです。
しかも内容を知っていても楽しめるという凄さ。おっしゃる通り、スイス時計は何度読んでも美しい。あーコレコレ!って感じです。
私も十角館の限定愛蔵版を買う予定です!笑
あんなの出されちゃあねえ……ほんとお財布ピンチすぎますよね……。
こ、これは!どの短編もいいものばかりですねー!!こんな短編集が出てるなんて知りませんでした(´∀`)私の好きなスイス時計の謎も入ってるので絶対買います(〃ω〃)
私もマラクヤさんと一緒で有栖川先生の火村シリーズからミステリ小説が好きになったので、今から読むのが楽しみです(o^^o)
本当に良い短編ばかりなんですよー!すごいですよね、まさに傑作短編集です。
私も『スイス時計』が入っていると知って「買うしかない!」と思いました。
おー、そうなんですね!やはり火村シリーズはミステリ好きを増やす素晴らしい書物です……(ノω`*)