物語の舞台となるのは全寮制の名門女子校。
名門校らしく厳しい規律や罰則があり、主人公たちはストレスを感じながらも息を潜めて学校生活を過ごしていました。
ある日、主人公と同室の女子生徒が「私は魔女なの」という言葉を残して姿を消し、翌日焼死体で発見されます。
自殺なのか他殺なのかもわからないまま事件は学校側によって隠蔽され、生徒たちは恐怖に飲み込まれていきます。
ですがその事件をきっかけに学園では次々に女子生徒が惨殺される事件が起こります。
焼死した女子生徒の言う通り「魔女」の仕業ではないのかという噂が立ち始め……。
一方、主人公はある囁きを耳にします。
意識のないまま夜中に行動している自分やその囁きの内容のせいで、一連の事件の犯人は自分なのではないか?とも思うようになりますが、真犯人は意外な存在でした。
綾辻行人『緋色の囁き』
全寮制の女子校という閉鎖的な空間を巧みに利用したミステリー小説です。
ジャンルとしてはホラー・サスペンスの割合が多く、ミステリー要素はやや控えめ。とにかく雰囲気づくりが秀逸で、綾辻さんらしい文体がとても似合っています。綾辻さんはこういう怪しげな雰囲気を表現するのが本当お上手ですよね。
魔女や連続殺人など一貫して倒錯的な雰囲気で、読む人の心を掴んで離しません。
次の展開が気になり、長編ではありますがどんどん読み進められてしまいます。
タイトル「緋色の囁き」の通り、作中には何度も赤色の表現が登場します。
文字で読んでいるだけなのに脳内は着実にいろいろな赤色で染められていき、じわじわと迫り来る恐怖を後押ししています。
場面の描写や心理描写だけでなくこのような色の表現、囁きの表現、さらに目に見えない過去の記憶の表現なども非常にうまく、ミステリー小説としてだけでなく純文学のような深みのある読み応えを楽しめるのもポイント。
また、作中には重要なミスリードも隠されているため、読み飛ばさずにしっかりと文章を読み込んで自分の中で整理しながら進めることをおすすめします。
ホラーの雰囲気もあり、非現実的な独特の世界観が好きという方にはとくにハマる作品です。
次々に女子高生が殺害されていく様子はややショッキングで、文章でありながらリアルに脳内で再現できる描写にも驚かされます。
薄暗い部屋に引きこもってひっそり読み切ってしまいたい、不思議な感覚に陥らせてくれる一冊です。
読み切ったあとは重い秘密を知ってしまったような、なんとも言えない気持ちになることでしょう。
すっきり爽快なミステリー小説では物足りない!という方におすすめしたい一冊です。
ぜひ、犯人当てを楽しんでください。私は当てることができませんでしたので……。
館シリーズも良いけど、囁きシリーズだって面白い!
今作は、綾辻行人氏の「囁きシリーズ」の一作目です。
次に美しい兄弟のまわりで起こる連続不審死の謎を描く「暗闇の囁き」、謎の囁きに怯える兄の幼馴染が次々に殺害されていく「黄昏の囁き」と現在3冊が発表されています。
いずれも独特の世界観にのめり込むことができ、恐ろしくも妖しい雰囲気に圧倒されることでしょう。
綾辻氏といえば「館シリーズ」が有名ですね。ミステリー小説ファンなら知らない人はいないといっても過言ではありません。
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この「囁きシリーズ」は、「館シリーズ」以外では初のシリーズ作品です。
「館シリーズ」が建築物を活かした本格的なミステリー小説なのに対して、「囁きシリーズ」はホラーやサスペンス要素、人間関係や心理描写に重点を置いている傾向にあります。
「館シリーズ」のような本格的な謎解きを期待するとやや肩透かしな印象かもしれませんが、「館シリーズ」で片鱗を見せていた独特の妖しい雰囲気を、「囁きシリーズ」ではさらに堪能できます。
綾辻氏が生み出すこの世界観が好きだという方には「囁きシリーズ」はとくにおすすめです。
より本格的な推理を楽しみたい方は「館シリーズ」もチェックしてみましょう。
いずれのシリーズ、作品でも、巧みなトリックや時系列、建築物、小物を使った推理が秀逸で、読者はきっと騙されます。
前述の通り美しい表現力に溢れる文章も相まって、没頭してしまうことでしょう。
一味違うミステリーを楽しみたい方は、ぜひ手に取ってみてください。

コメント
コメント一覧 (4件)
綾辻さんて年齢に反して、と言っては言葉が違うかも知れませんが、学園モノの雰囲気や息遣いというかそういう物を描くのが至極ですよね… 本格作家であり、学園モノのプロである… 綾辻さんの作る生徒は誰彼個性的で魅力あるんですよね
生粋の綾辻ファンであるぼくはもう当然シリーズ全て読了済ですが、それでも今回の新装版もこれから買います だってやっぱり装丁が美しいんだもんw(▰╹◡╹▰)
いやほんと、本格作家であり、学園モノのプロですよね……。
私もこの雰囲気大好きなんですよ!
私もシリーズは読んでしまったのですが、新装版も買います!笑
ようやく読了 内容を忘れてしまっていたので(犯人は覚えてましたw)噛み締めるように読みました
昔は気が付かなかったミスリードやらしっかり記述されていたフェアな部分、読解力が若い時は足りなかったんだなーとしみじみw ある意味では閉ざされた館も思わせるような舞台や館そのものの作り、久しぶりの綾辻ワールドを堪能しました(▰╹◡╹▰)
良いですね〜。
再読するといろんな発見がありますよね!私も今回新装改訂版を読んでそう思いました。
相変わらず綾辻ワールドは素晴らしかったです(*’▽’*)