平凡な顔立ちが特徴の青年ポールは、高齢の入院患者を慰めるボランティアをしていた。
ある日看護師のブリジットに頼まれて、末期がん患者のマーティ・ブラウン氏の病室に向かったところ、誰かと間違えられ肩を刺されてしまった。
ブラウン氏はその後すぐに発作を起こして亡くなったが、ポールの恐怖は続いた。
車に爆弾を仕掛けられたり、殺し屋に襲われたりと、命を狙われるようになったのだ。
自分は一体誰と間違われたのか、なぜ追われなければならないのか。
ポールは身の危険を感じ、ブリジットと一緒に逃亡しながら、事件の真相を探っていく。
アイルランドの現役コメディアンが世に送り出す、ハラハラドキドキの痛快ミステリー!
ユーモアあふれる展開とキャラクター
『平凡すぎて殺される』は時にスリリングに、時に大笑いしながら楽しめるユーモアたっぷりのミステリーです。
「えっ?」と思うような出来事が起こり、キャラクターたちが翻弄されながらも、なんだかんだと解決していくドタバタ劇なのです。
1ページ1ページがまるでコントのようで、読み始めたら止まらない面白さがあります。
まず冒頭の流れからして、興味深いです。
主人公のポールは平凡な顔立ちで特徴がなく、それがゆえに老患者に人違いされた挙句、刺されてしまいます。
しかもその仲間からも誤解を受け、刺客だの爆弾だので命を狙わることになるのです。
人違いや誤解で殺されるなんて、たまったものじゃないですよね。
この段階で既にブラックユーモア感があって、クスッと笑ってしまいますが、当の本人ポールの反応がまた爆笑モノ!
今にも殺されそうな危機的状況なのに、目の前に苦手な猫がいるために足がすくんで逃げられず、看護師のブリジットに電話で猫を追い払うよう頼むのです。
「いやいやいや、猫より殺し屋の方が怖いでしょ!そもそも電話で猫を追い払えとか、ありえない!」と、読み手としてはツッコミどころ満載です。
ポールだけでなく他の登場人物も、とても個性的でエキサイティング。
運転が絶望的に下手な看護師ブリジット、どこか間抜けなウィルソン刑事、やけに物騒なおばあちゃんなど、メインキャラから脇役まで実にいい味を出しています。
このように『平凡すぎて殺される』は、スリルの中に絶えず笑いがある物語です。
各登場人物が斜め上を行く言動で、状況を逐一コントめいた流れにしていくので面白くて目が離せません!
シリアスシーンもスリルも満点
『平凡すぎて殺される』はコメディ要素満載ではありますが、ベースはミステリーなのでシリアスな謎も真相もあります。
たとえば冒頭でポールを刺した老患者は、実は元ギャングで、30年前に起こった誘拐事件に深く関わっていました。
しかもポールを刺した後、心臓発作で亡くなってしまったので、かつてのギャング仲間たちは大慌て。
「重大な秘密を聞き出した違いない」と思い込み、口封じのためにポールの命を付け狙うわけです。
ギャグに目が行ってしまいがちですが、本筋はこのように立派なミステリー。
それを個性的なキャラクターたちが良い意味で崩して、面白おかしく読ませる作品にしているのです。
その後ポールは、ブリジットと合流して一緒に逃亡します。
でも逃げていては、いつまでも追われるままで解決しないので、ポールは自分が無関係であることを証明するため、事件の真相を探ることにします。
時に命がけで戦い、時に強烈なツッコミを浴び、行く先々で人違いをされながら(笑)、二人は情報収集を続け、真相にどんどん近づいていきます。
その珍道中はスリルあり笑いありで、いろんな意味で手に汗を握ります。
ポールとブリジットの間に徐々に愛が芽生えてくるので、そこも興味津々な流れですね。
そして結末は、ここまで面白く盛り上がった物語なので、当然そこいらにあるような単純なものではありません。
意外すぎる犯人像が明らかになり、誰もが予想しなかったであろう衝撃的なラストを迎えます。
最初から最後まで、ノンストップでワクワク読ませてくれる、本気で退屈しない一冊です!
役者も絶賛、続編の登場も?
『平凡すぎて殺される』の著者クイーム・マクドネル氏は、アイルランド生まれの放送作家です。
現役のコメディアンでもあり、お茶の間にたくさんの笑いを提供しているそうです。
『平凡すぎて殺される』のワクワク展開やウィットに富んだギャグの数々は、コメディアンとしてのサービス精神によるものなのですね。これには納得。
とにかくページをめくるたびにギャグめいたセリフや展開が出てくるので、これはもうミステリーというよりコントの台本では?と思わずにいられません。
実際、そのまま喜劇やコメディ映画にできそうなくらい、エンターテイメント性の強い作品です。
それでも読み続けていれば、重くて深刻なシーンも出てきて、特に後半からはかなりスリリングな展開が続くので、これはやはり謎や緊迫感を楽しめるミステリーなのだと再確認させられます。
そのため『平凡すぎて殺される』は、アイルランドのCAPアワードの最優秀長編小説部門にノミネートされたくらいです。
また本書の訳者・青木悦子さんも絶賛されていて、そもそも翻訳した理由が「こんなに面白い小説があったなんて!絶対に訳したい!」と惚れ込んだからだそうです。
これほどまでに世間に評価され、人々を魅了する『平凡すぎて殺される』、読み始めたが最後、止まることなく一気読みしてしまうこと請け合いです。
ユーモアが好きな方にもミステリーが好きな方にも、夢中になれる本を探している方にもとにかくオススメですので、ぜひ手に取ってみてください。
余談ですが、アイルランドでは本書の続編が刊行されているそうです。
一冊で終わらせるには惜しい、シリーズ化すべき傑作だと認められた何よりの証拠でしょう。
日本でもぜひ続編の翻訳、出版してほしいものです!
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