有栖川有栖さんの新刊『濱地健三郎の霊なる事件簿』が発売しました!
怪談専門誌『幽』に連載したシリーズ短編をまとめたもので、霊を視る力と高い推理力を持った心霊探偵・濱地健三郎(はまじけんざぶろう)を主人公とした「ホラー短編集」となっております。
有栖川有栖さんといえば、学生アリスシリーズ(江神二郎シリーズ)や作家アリスシリーズ(火村英生シリーズ)などでおなじみの本格ミステリ作家さんですからね。
そんな有栖川さんのホラー短編集、しかも心霊探偵が主人公の新シリーズなんて言われちゃあ読まないわけにはいけません。
というわけで早速どんなお話が収められているのか見てみましょう!
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1.『見知らぬ女』
ある悩みを抱え「濱地探偵事務所」なる場所へとやってきた多歌子。
ホラー作家をやっている夫の様子がおかしく、ここ六週間ほどで急速に体が弱っているという。夜中にうなされ、食欲も減り、性格まで変わってきてしまった。
体調が悪いのか?と聞いても「うるさい」としか答えてくれない。
そしてある日、視てしまった。
夜中、うなされる夫を見下ろしている長い髪の女を。
夫が変わってしまったのは完全にこの女のせいだ。
早速いま視た女性の特徴を夫に話聞かせるが、「そんな女は知らない」「心あたりも一切ない」と言い切られてしまう。
そこで「濱地探偵事務所」に相談に来たというわけです。
ここでの謎は「なぜ見知らぬ女に取り憑かれてしまったのか?」ということですね。
もちろん夫の「そんな女は知らない」「心あたりも一切ない」という証言自体がウソかもしれません。
でも、もしそれがウソではなかったとしたら。
調査を進めていくうちに明らかになる一つの事件。はたして真相は。
2.『黒々とした孔(あな)』
午前零時すぎくらい。
だいたいこの時刻になると、それは現れる。
部屋の壁に浮かぶ、小さな孔。
見つめていると壁のものは次第に広がっていき、数分でコーヒーの受け皿ほどにまで成長する。
べったりとした黒い点ではなく、奥行きを持っていた。中心ほど深い漏斗状の孔だ。
P.44より
そんな時、彼はいつも九九を唱える。
七の段に差し掛かるあたりで、その孔は消えるはずだ。
今回もまた消えた。
しかし、たびたび現れるこの孔は、一体なんなのか。
個人的に一番好きなお話。
なかなかにミステリーであり、最後にゾクッとするやつです。
3.『気味の悪い家』
共に画家である神足夫妻が住んでいたとある家。
半年前から空き家になっているのですが、家の前を通るだけで「気色が悪い」という人がいたり、忍び込んだ学生たちが倒れたりと、相次いで奇怪なことが起きると話題に。
そして依頼者の弟も、探索中に泡を吹いて倒れてしまったという。
はたして弟は何を見たのか。過去にこの家で何があったのか。
設定も内容も完全にホラーなのですが、怖さはほぼなく気軽に読む事ができます。
他にも、
海へデートをした日から、なぜか彼女に連絡しようとすると気分が悪くなってしまう男性の話『あの日を境に』
同時刻に別々の場所で目撃された男の謎を解く『分身とアリバイ』
息子が「家の中に何かがいる」と怯えている、と依頼を受けて霧氷館(むひょうかん)へと訪れる事になった『霧氷館の亡霊』
帰りの電車の中で、以前に依頼を受けた事がある男性から再度依頼を受けた『不安な寄り道』
を含めた計7編が収録されております。
今までにないホラーミステリシリーズ開幕!
帯には《端正なミステリーと怪異の融合が絶妙な7篇》と書いてありますが、三津田信三さんの刀城言耶シリーズみたいな本格ホラーミステリとは全く違います。
一応ホラー短編集(怪談集)という事ではありますが、「怖さ」というものはほぼ全くないと思っていただいて良いでしょう(黒々とした孔は怖かった)。
じゃあミステリとして楽しむのか?と言われるとそれも違う。いつもの本格ミステリ要素もほぼないです。
あとがきで有栖川さんは、
ふだん私が書いている本格ミステリは超自然的なものを絶対的に否定するが、幽霊やゾンビが実在したり、時間や空間が特異な法則で歪んだ世界を舞台にしたりする〈特殊設定もの〉がある。私が目指したのは、そのように怪談やSFを利用したミステリではなく、ミステリの発想を怪談に移植した上で、両者の境界線において新鮮な面白さを探すことだった。
P.267より
と述べられています。
なるほど、です。
確かに、私の想像するホラーミステリとは違った新鮮さが間違いなくありました。こういうタイプのホラーミステリがあるのか!と。
それでいて全編に渡って有栖川有栖さんらしい丁寧な人間描写があり、人の心の揺れ動き方がしっかり描かれているので読んでいていろんな感情を味わえる。
「怖すぎる!」「トリックがすごい!」とかではなく、濱地健三郎と志摩ユリエの活躍を描くキャラクター小説としてもとても楽しめました。
特に最終話『不安な寄り道』の終わり方がすごく好きで。
心理描写や情景描写などもらしさ溢れており、ホラーになってもやっぱり有栖川さんだなあ、と思わされるお話ばかりでした(ノω`*)
おわりに
初めて濱地健三郎が登場したのは『幻坂 (角川文庫)』という短編集でした。
その時は濱地ひとりだけだったのですが、今作で志摩ユリエという探偵助手が加わることによって、より一層シリーズものとして楽しい作品になりました。
やっぱコンビものって良いですわー。志摩ユリエのおかげで話の幅が広がり、確実に何倍にも面白くなっていますからね。
純粋にこれからも2人の活躍と冒険を追って行きたくなります。
もともと有栖川有栖さんの作品をお好きな方、怖い!までは行かないくらいの不思議な話がお好きな方、「探偵と助手」という定番のコンビものが好きな方、などはぜひお手に取ってみてください。
まあ正直に言ってしまうと、やっぱり有栖川有栖さんといえば「学生アリスシリーズ」のような本格ミステリの方が好きかなあ!って感じなんですけどね( ゚∀゚)
それでも私は濱地健三郎と志摩ユリエのコンビを追い続けますよー!

コメント
コメント一覧 (4件)
僕も読みました! 有栖川先生の作品の中では少し特殊かな、とも思ったのですが、その斬新なところが大好きです。コンビ二人の様子もとても楽しく読めました。ガチガチの本格ミステリもいいけど、こういう作品も面白いですね〜。これからの活躍に期待できそうです。
私も少し特殊だなーと思いました。もっとミステリーしてるかと思ったんですけど、これもまた良いですよね。
とにかく濱地健三郎と志摩ユリエのコンビが好きです。ホラーなんですけどどこか優しくて、雰囲気もいい。
これからの活躍が楽しみです!もうすでに続編に期待しています。次は長編がいいかなあ( ゚∀゚)
マイアイドル有栖川有栖!
新本格の中で最もホラーが想像出来ない人。
有栖川さんならもう何でも良いと思う一方で、学生アリスのせいでどうしても高水準なガチガチ本格を求めてしまう気持ちも・・・。
はあぁ、この人三百年くらい生きないかなあ。
そうそう、有栖川さんのホラーってだけでかなり貴重ですよね。
私も有栖川さんの作品ってだけで満足なのですが、やっぱり学生アリスが好きすぎるんですよ。どうしましょう。
ほんとそのくらい生きていただきたいです。笑
学生アリスシリーズが終わるなんて考えたくもありません!!!