三津田信三『白魔の塔』-田舎に残る怪談と奇怪な風習が新人灯台守を襲う

ミステリならどんな怪奇な事件も複雑な人間関係も、名探偵のもとに解決へと導かれてくれます。

だからこそ、事件は複雑で難しいほうが読者も期待感が募ります。

ここにホラーの要素が加わるとどうでしょうか。

途端に怖さが増すと思いませんか? 私は思います。

複雑怪奇な事件は、人が起こすからこそ面白みがあるんです!

ホラーの要素が付け加えられると、その物語は人の手を離れていってしまうような気がしてなりません。

言ってしまえば「怖さ倍増」です。

『白魔の塔』は、まさしくホラーとミステリーを大胆に融合させた作品になっています。

読み進めるほど深まる謎に、ひたひたと近づいてくるような怖さ。

誰もが身近に体験した怖さを見事な文章で描いています。

『白魔の塔』あらすじ

物理波矢多(もとらい はやた)は灯台守だ。

今年から新しい赴任先である轟ヶ崎灯台へと赴任することになる。

灯台は僻地にあることが多い。轟ヶ崎もそういった灯台の一つだった。

物理は灯台に行くため近くの村から漁船を出してもらう。

しかし、切り立った場所に船で近づくことは難しく、陸路を進むしか選択肢は無い。

引き返す物理の眼に、灯台に立つ白い人影が見えた。

それは地元の人が「白もんこ」と恐れるものであり、物理は轟ヶ崎で「白」に関わる奇怪な話を聞くことになる。

灯台長である伊佐加も似たような体験をしたと、物理に放し始めた内容とは……。

灯台という場所に秘められたホラーがこれでもかと襲ってくる!

灯台に行ったことはありますか?

私は遠くから見たことはあっても、近くまで見たり、中の構造を見たりしたことはありません。

日本という島国で、船の目印になる灯台はとても大切なものです。

そこにあることは知っていても、どうなっているかまで知っている人は少ないかと思います。

『白魔の塔』はその灯台に、これでもか!とスポットライトを当てた物語です。

『灯台に関わる話で噂になっても変ではない、むしろ当然のように出てくるべきなのに一向に伝わってこない、そんな話があることに、君は気づいているか』

(p147)

主人公の物理は新人の灯台守です。

最初の赴任地は観光客の多い関東の灯台であり、そこで自殺者を助けたことさえあります。

灯台に灯台守という職業があったことさえ知らなかった私は、その時点でカルチャーショックを受けました。

海外から日本へと灯台がどのように持ち込まれ、どのように活用されているか、作者である三津田先生の知識の深さに仰天するばかりです。

物語も灯台を中心に進んでいきます。

物理が赴任することになった「轟ヶ崎灯台」は灯台守の中で曰く付きの場所だったのです!

主人公が体験する恐ろしい出来事と、語られる怪談のリンクっぷりに読み進めながら鳥肌が立つ思いでした……。

轟ヶ崎以外にも、様々な場所の灯台の話が綴られており、読者の恐怖をこれでもかと煽ってきます。

『灯台から少し離れた森の中に、白い人が立っている。』

(P228)

灯台から離れたから安心かというと、そんなことはありません。

灯台が位置する岬の近くには「白衣の森」と言われる場所があり、そこには「白もんこ」が住むと言われています。

物理もこの森を通るとき、恐怖体験をするのですが、それがまた怖い!

海に近づいても怖い。陸の上でも怖い。逃げ場のない怖さがこの本には詰まっています。

唯一救いになると思われたのは上司である伊佐加との会話です。

物理は伊佐加の昔の体験を聞いて、自分とのリンクの多さに驚くのですが。

普通のミステリーではありえない物語の結末は、まさにホラー!

三津田先生の細やかな描写も含めて、背筋が凍る体験ができる作品です。

最初から最後まで、ずーっと怖い!

『灯台の回廊に、白い人が立っている』

(P27)

最初の方に描かれているこの一文が、この物語を象徴していると言えます。

『白魔の塔』は最初から最後まで「轟ヶ崎灯台」に関わるホラーに費やされたお話です。

物理が灯台までたどり着くまでさえ、ホラーで謎めいた部分が多くあります。

特に身の毛がよだつのは「白屋」の描写でしょう。

村から離れたとこにある一軒家というだけでも怖いのに、そこに待っているのはお面を被った巫女とその孫娘です。

ここに「白屋に近寄るな」なんて忠告をもらったら、私なら即座に逃げ出します。

主人公である物理は気持ちは一緒でしょう。

どうにか逃げようとする彼の身を襲う「白もんこ」が、また、怖い。

僻地に着き、謎の風習に見舞われ、恐怖体験をして逃げ帰る。

そういうホラーの王道が、三津田先生の緻密な文章で描かれた世界は圧巻です。

読んでいる間に、戦後日本の雰囲気と僻地の習慣にまみれた世界観に飲み込まれる気分です。

物理を襲った白い影の正体。白屋とはなんなのか。

最後に明らかになる真実まで恐怖と伴走することになる物語でした。

ホラー好きもミステリー好きも楽しめる一冊でしょう。

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