車の中で遺体となって発見された弁護士の白石健介。
警察は、弁護士事務所に電話をかけていた男、倉木達郎に目を付ける。
捜査を進めるうちに、倉木が頻繁に通う小料理屋の店員と深い仲にあるという情報を手にする。
改めて倉木へ話を聞きに行くと、倉木は1984年に起きた事件についても自分が犯人だと言い出した。
過去の事件により、今は小料理屋を営んでいる親子を不幸にしたと思っていた男は、その十字架を背負い続けていた。
親しくなった白石に過去を打ち明けた倉木だが、白石に諭され、逆上して殺したと取り調べで語った。
警察は明確な自供を手に入れ、事件は一件落着となった。
しかし、倉木達郎の息子と、白石健介の娘は納得がいかない。二人とも同じ想いを抱いていた。
――私の父はそんな人間じゃない――
警察の捜査は落ち着き、事件の裁判の準備が始まる中、二人は真実を求めて動き出す。
被害者の男・加害者の男・小料理屋の店員の三者の間にまつわる様々な過去が明かされていく中、衝撃のラストが待ち受ける。
事件の関係者となった家族たちの選択
物語は、加害者である倉木の息子と、被害者である白石の娘をメインに進んでいきます。
倉木の息子は、昨今発達しているSNSで容赦ない意見を目にし、職場での扱いも変わってしまいます。家には記者が駆けつけ、問い質してくる始末。
白石の娘は、「被害者参加制度」を利用し、裁判に出席する準備を進めていきます。
担当の法律家からは、より重い判決を下すために必要な証言や攻め方を指導され、事件の真相は二の次という態度に困惑していきます。
お互いに煮え切らない想いを抱えながら独自で調査を進める中で、二人は出会うことになる。
加害者家族と被害者家族が無暗に接触する事は御法度であり、担当弁護士などから注意を受けますが、やがて二人は共に行動するようになります。
事件にまつわる場所を巡るうちに、心境に変化が現れはじめーー。
東野圭吾作品の幅広さと安心感
東野圭吾さんといえば、妻と娘の精神が入れ替わる『秘密』や、一組の少年と少女を第三者視点で語る一大叙事詩『白夜行』、容疑者の手記に翻弄される『悪意』、天才物理学者が事件の謎に迫るガリレオシリーズなど、幅広いジャンルでミステリーの世界を描く大人気作家です。
『白鳥とコウモリ』では、罪と罰をテーマに、犯人を捕まえるだけでは終わらない様々な苦悩や答えの出せないような問いかけなどがあります。非常に考えさせられました。
ミステリーとしての部分も骨太で、読みやすい文章の中に伏線が散りばめられ、最終盤の展開は驚きの連続です。
犯人の証言記録などの「信用できない語り手」といったミステリーのお約束や、既作品との意図した類似性など、ニヤリとしたくなる場面も多くあります。
変わっていく時代と変わらない面白さ
作中では、刑事が技術の進歩を語る場面があります。
街中にはいたるところに防犯カメラが設置され、スマートフォンを見れば位置情報や通話履歴などが一目でわかります。
ミステリーを書く事が難しくなっている現代を、2017年と1984年という二つの時代で表現しています。
ミステリーの世界で戦い続けている東野圭吾さんの姿と重なりました。
また、人の心というものはいつの時代でも複雑で簡単には理解出来ないものだなと思います。
人間だから間違える事だってあるし、上手くいかない時だってあるけれど、それでも人は生きていくのだなという想いも抱きました。
人を描く小説の面白さや読み応えは不変だなと改めて感じさせる作品となっております。
驚いたり、悲しくなったり、温かい気持ちになったりする、一級品のエンターテインメント小説。
東野圭吾さんが好きな方はもちろん、今までミステリーは読んでこなかったな、という方にも読んで欲しい一冊です。
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