プレオープン中に起きた銃乱射事件のためたった1日で閉園に追い込まれたテーマパーク「イリュジオンランド」を舞台に、非日常感とホラー要素が詰め込まれたミステリー作品となっている凝った作りの本作。
新世代の旗手と呼ばれる作者・斜線堂有紀氏が放つ、新時代の本格ミステリーとして話題を呼んでおります。
緻密なロジックと二重三重に考え抜かれた展開はとても中毒性があるため、謎解きをしながら本格的な廃墟ミステリー小説を読むことができるというのが魅力の一つ。
登場人物たちは互いに矛盾や謎を抱えていて、同じ事件から受ける彼らの印象も一致しません。
物語の前半では登場しなかった新たな事実が後半で明らかにされるなど、読み進めていく中で予想の斜め上をいく展開が待ち受けています。
最後まで読んだ時点で明かされる事件の意外な真実、そしてそこに至るまでの物語の流れに、読者は大いに驚かされることになるでしょう。
読み進めるにつれて廃墟ミステリーの世界観に呑み込まれていく
最初にページを開いた瞬間からフルカラーで遊園地の園内マップが飛び込んできたと思いきや、登場人物の紹介を挟み、物語は20年前の銃乱射事件の回想からはじまります。
小さな女の子がゴンドラに乗りながら『その音が、誰かの頭を銃で吹き飛ばしている音だなんて知らなかった』と締め括られる序章は、最初から不穏な空気を漂わせており、これから始まる恐怖を予感させます。
続く本編では銃乱射事件から20年の時を経て集められた関係者たちが、物語が進むごとに一人また一人と惨殺される緊迫感溢れる展開。
そして主人公にも徐々に死が迫りくる描写はおぞましい部分があり、ひしひしと迫りくる恐怖にハラハラすること間違いなしです。
遊園地という夢の舞台が序盤から廃遊園地と化す非日常感、そしてそこから始まる悪夢の連続の背景には悲劇的な要素もあるので、そのさじ加減は見事としか言いようがありません。
読み進めるにつれて廃墟を舞台にしていることもあり繰り広げられる殺戮がいっそう不気味に映るため、凄惨で緊迫感のある描写に惹き込まれていきます。
後半の盛り上がりが凄まじく、廃墟ミステリーの世界観に呑み込まれていくような面白さを感じられるでしょう。
本格ミステリー小説としての面白さと廃墟ならではの独特の雰囲気
『廃遊園地の殺人』という本のタイトルにふさわしく、廃墟ならではの非日常感を余すことなく使い切りながら悪夢の展開が待ち受けます。
狂気に満ち溢れながらも、第一章のコミカルなタッチや終盤の感傷的なシーンのギャップも、本書の印象を決定づける大きなカギの一つ。
過去と現在をリンクしながら発生する殺人事件は、大富豪の存在や、密かに集められる関係者、復讐が始まるシチュエーションなど、本格ミステリーらしい設定と題材が目白押しです。
本格ミステリーのツボをしっかりと押さえつつ、探偵役となる主人公のコンビニ店員がバイトで培った経験を活かして事件を解き明かしていくという面白さ。
それに後半で二転三転する展開や推理にはどんな落としどころが待っているのか予想できず、読者は最後までハラハラさせられるというわけです。
事件の裏側に秘された真実と、悪夢の詳細を徐々に解き明かすことにより新たな事実が明らかになり、ジグソーパズルがはまっていくかのように、読み進めるにつれて情報がどんどんアップグレードされていきます。
廃遊園地という光と影が一体となった舞台設定、ページをめくるごとに思わず唸ってしまう展開に、王道でありながら独特の雰囲気も味わえる“本格ミステリー”としての魅力が、本書には詰まっているといえます。
新時代の本格廃墟ミステリーを読みたいならコレ!
廃墟ならではのトリックや最後の最後まで目が離せない展開など、小説でしか味わうことができない巧みな仕掛けが散りばめられており、ミステリーの愉しさが容赦なく詰め込まれている本作。
発売されたばかりですが、すでに新時代の本格ミステリーの傑作として絶大な評価を得ており、ミステリー好きや推理小説好きはもちろん、廃墟を舞台にした小説を読みたい方にとってはもはや必読のミステリー小説と言っても過言では無いでしょう。
文章の美しさやノスタルジーを喚起する話の展開から、ファンからは「斜線堂節」とも言われる本作ですが、新時代と呼ばれるミステリーには興味を持ってこなかった……という方は読むのに躊躇するかもしれません。
しかしそれはもったいない!
むしろ、この本を読むことによって、新時代ミステリーの奥深さに目覚めることができるかでしょう。
伏線が鮮やかに回収された際の爽快感、そして謎解き部分の感傷的な空気感は想像を上回る深みがあるため、廃墟に興味が無くても引き込まれるほどに、本書は“本格ミステリーとしての面白さ”も十分に兼ね備えているということができるのです。
本格ミステリー好きの方、廃墟小説デビューを果たしたい方、ただただ読み応えのあるミステリーを読みたい方など、ミステリーや読書が好きな方は読んで損はないです!
出版されたばかりのこのタイミングで、胸を鷲掴みにされる覚悟を持ちながら、ぜひ一読してみてください(*’ω’*)
