何人もの子供を引き取り育てていたテオ・ライフェンラートの遺体が、邸内のキッチンで発見された。
死後10日ほど経過しており腐敗が進んでいたが、テオが齢80を超えていたことから、老衰や病気による自然死のように思われた。
しかし遺体の顔には傷があり、邸内も家探しされていたりと、不審な点が多かった。
捜査を進めると、さらに大変なことが判明した。
テオの飼い犬のケージ内に、しゃぶりつくした白骨があったのだ。
また床下からはラップフィルムに包まれた遺体が、古井戸からは白骨化した遺体まで発見され―。
一体どれだけの人間がこの邸宅で死んだのか。
犯人は誰で、目的や真相は何だったのか。
捜査十一課のオリヴァーとピアが挑む、シリーズ第九弾!
たくさんの里子とたくさんの遺体
やってきました、「刑事オリヴァー&ピアシリーズ」の9作目、今回のテーマは「里親制度」です。
事情があって親元で暮らせない子供を、希望者が自分の家庭で育てるという制度ですね。
里子にも里親にも有難い制度ですが、その反面問題もあって、双方の信頼関係の構築が難しいケースもあるようです。
『母の日に死んだ』は、まさにここにフォーカスした物語です。
プロローグでは、二つのストーリーが展開されます。
ひとつは約40年前が舞台で、日頃から折檻されている里子らしき少年が、池で少女を溺死させる話です。
もうひとつは現代の出来事で、母親を亡くしたフィオーナが、20年以上前に音信不通となった父親に会いに行く話です。
フィオーナはこの時父親から、自分が実は里子であり、本当の両親は別にいると聞かされ驚愕します。
これらのプロローグは、全く異なる物語のようでありながら、「里子」という共通点があります。
そして直後に主人公オリヴァーとピアのパートが始まるのですが、ここでもやはり里子がキーワードとして出てきます。
ある邸宅で主の腐乱死体が発見されるのですが、その邸宅ではかつて多くの孤児が引き取られ、里子として暮らしていたのです。(この「多くの」というところがポイント!)
しかも主の死体以外に、白骨死体や死蝋化した遺体までゴロゴロと見つかります。後者は、ご丁寧にラップフィルムに包まれている状態で…。
多くの里子に、多くの遺体、そして主の腐乱死体。
何やら怪しい匂いがプンプンしてきますね。
実は遺体の多さで言えば、『母の日に死んだ』はシリーズ最高だったりします。
そのくらい闇の深い物語なので、覚悟しておきましょう!
行方不明、自殺、虐待、etc…
さて、邸宅には明らかに何か裏がありそうで、オリヴァーもピアも懸命に捜査しますが、進捗は思わしくありません。
このシリーズでは毎度そうですが、容疑者がとにかく多いのです。
しかも全員いかにも怪しげなので、一人ずつ虱潰しに調べ、犯人ではないと証明しなくてはなりません。
さらにその間にも、邸宅の主の妻が長い間行方不明だったという事実や、鬱で自殺した可能性、里子を虐待していた疑いなどが出てきます。
その上、ストーカーや拉致監禁なども絡んできて、話はどんどん複雑化!
ピアの妹キムまで犯人に狙われますし、もう物語が様々な要素でどんどん膨らんでいくので、オリヴァーやピアたち捜査陣はもちろん、読み手も頭の整理で大忙し!
その中でも特に見どころと言えるのが、親と子(または里親と里子)の信頼関係。
大人のエゴによって歪められてしまった子供たちが登場するのですが、彼らの価値観や周囲に与える影響が非情に興味深いです。
物語としてだけでなく、現代人が抱える心の闇や社会問題としても考えさせられる点が多く、そういう意味でも今作はかなり読み応えがありました。
このように様々な方向に話が展開するものの、最後には全てにキッチリと片がつきます。
バラバラの要素がみるみる繋がり、ひとつにまとまっていく様は実に鮮やか!
もちろんプロローグの二つの話も絶妙な形で絡んでくるので、「まさかここと繋がるなんて!」と、読みながらビックリすること間違いなしです。
とにかく謎が多かった分だけ明らかになることも多いので、爽快感たっぷりに一気読みできます。
ピアの受難と大活躍は必見!
『母の日に死んだ』は、前作『森の中に埋めた』から3年後の物語です。
3年も経てば身の回りの変化は色々とあり、前作で憔悴しきっていたオリヴァーも、無事に復帰。
仕事量を多少抑えることで、以前のような頼れる貴族刑事に戻っています。
一方ピアは49歳になり(あのピアが50間近というだけでも驚きです!)、なんと牧場を手放し、夫クリストフと共に街に引っ越します。
大事にお世話していた馬や犬との悲しい別れもありましたが、元来タフな女性ですし、クリストフの支えもあって、街での生活に馴染んでいきます。
ただ気がかりなのが、家族とのわだかまり。
特に妹のキムとはギクシャクしており、今作で関係が少し改善されたかな、とは思いますが、まだまだ課題は多そうです。
このように『母の日に死んだ』では、ピアの方にウェイトが置かれています。
捜査でもプライベートでもピアに色々と起こるので、ピアのファンなら今作は必読書!
女性としての芯の強さが随所に感じられますし、特に終盤、空港でのアクションはめちゃめちゃカッコいいですよ。
またエンゲル署長にもスポットが当てられていて、こちらも素敵オーラが出まくっているので、ぜひ注目してください。
とにかく見どころ満載なシリーズ第九弾。
次回作はいよいよ節目となる十作目ですから、楽しみに待ちつつ、今作をとことん味わっておきましょう!







