『蠅の王』はウィリアム・ゴールディングの代表作。
救助が来るまで無人島でサバイバルを余儀なくされた少年たちを描いた作品で、多くの作品に影響を与え、今なお語り継がれる名作の一つです。
スティーヴン・キングが絶賛したことでも有名で、キングの作品に登場する街「キャッスル・ロック」もこの作品からきているとか。
で、そんな名作『蠅の王』の新訳版がこのたび登場しました!(といっても二ヶ月以上前だけど)
もともと好きな作品なので改めてこの機会に読んでみたところ、新訳版になっても傑作はやはり傑作でした。なにより読みやすすぎることにビックリしております。
『蠅の王』あらすじ
少年たちを載せた飛行機が攻撃され、無人島に無人島に不時着します。
そこに大人は一人もいなく、完全な子供達だけの世界でした。
彼らはラルフを中心にこの島でのルールを定め、隊長やそれぞれの役割分担を決めていきます。
「ここはぼくらの島だ。すごくいい島だ。大人たちが助けに来るまで、愉しくやろうじゃないか」
P.57より
大人たちがいない世界にドキドキする少年たち。どこかの小説のような、楽しい体験ができるかもしれない。そしてきっと助けが来てくれる。
そう気軽に思っていました。
徐々に狂い始めていく人間関係
最初こそルールを守っていた少年たちですが、次第に自分勝手な行動をとっていくようになります。
なかなか助けにこない大人たち。ルールを守らない者たち。そんな彼らに苛立つ者たち。
そしてある時、大きな事件が来てしまいます。
ジャックは狩りに人手が必要だという理由で、火を焚いて煙を登らせる担当の少年たちを狩りに連れ出してしまいます。しかし丁度その時、島の沖を船が通りかかっていたのです。
もし煙を登らせていたら、船が気がついて助けに来てきれたかもしれない。
それをきっかけに少年たちのズレは大きくなっていき、ラルフグループとジャックグループの中で対立が目立つようになってくるーー。
「悪」が芽生える、その瞬間。
というように「子供達が無人島でサバイバルをする」という至ってシンプルなお話です。が、その分ストレートにこの作品のメッセージ性が伝わってくるのが恐ろしい。
それでいて描写が細かくわかりやすいので、まるで映像を見ているかのように少年たちの行動が脳内で再現されます。そのため、彼らに起こる悲劇がとてもリアルに脳内で再現されてしまってあのシーンなんかは恐怖極まりないです。
はじめは不安どころかワクワクしていた少年たちですが、大人たちのいない楽園かと思われたその島は、徐々に地獄へと変貌を遂げていく。
この「ジワジワと地獄に転落していく過程」がものすごく怖い。最後の方は、「うわあ……」と思わす声に出してしまうほどの展開を迎えます。
読んでいて「なんでそうなっちゃうの!」「もっと協力しようよ!」ともどかしい気持ちになりますが、仕方がない。彼らは純粋なのだから。純粋だからこそゆえの、悪。
少年の持つ無邪気さは、見方を変えるだけでとても恐ろしいものになってしまうのですね。
ところで、無人島に取り残された少年たち、というと『十五少年漂流記 (新潮文庫)』という名作を思い浮かべる方も多いでしょう。
十五人の少年が知恵と勇気を振り絞ってサバイバルに挑む、非常に面白い冒険小説です。『十五少年漂流記』での少年たちは皆で力を合わせて困難に立ち向かい、読者の私たちに冒険の楽しさを教えてくれます。
この作品を読むと「子供たちだけで無人島でサバイバルするってとても楽しそうだ!自分もやってみたい!」なんて思ったものです。
それに比べ『蠅の王』は、『十五少年漂流記』とはほぼ真逆と言って良いほどに悲惨な物語。『十五少年漂流記』で抱いた無人島サバイバルに対するキラキラした想いを一瞬でぶち壊してくれます。
ですがもしかしたら、『蠅の王』の方が現実的と言えるのかもしれません。
これから読むなら新訳版を
新訳版の良いとこは何と言っても「圧倒的に読みやすい」ことです。私が初めて読んだときの苦戦はなんだったのでしょうか。
あのときは二、三度挫折しながら読んだ記憶があるのですが、今回の新訳版はほぼ一気読みでした。日本の小説だってもっと読みにくいのありますよ。
翻訳モノが苦手という方にも問題なくおすすめすることができます。
確かに旧訳版と読み比べするのも楽しさの一つですが、これから読むのであれば新訳版で間違いないでしょう。
語り継がれる名作を、これほどスラスラ読ませてくれる新訳版に感謝〜。
決して気分の明るくなるお話ではありませんが、この機会にぜひ読んでみていただければと思います(私は『蠅の王』を読んだ後すぐに『十五少年漂流記』を読んで気持ちを落ち着かせた)。
コメント
コメント一覧 (2件)
十五少年漂流記!懐かしい!
子供のとき大好きでした。
翻訳ものは、苦手なんですがたまに読みたくなるんですよね。海外ミステリ。
これも面白そうですね。
と、いうか、十五少年漂流記のわくわく感を今共有するとは思いませんでした(笑)嬉しい!
『十五少年漂流記』良いですよねー!
私も子供の頃に読んで大好きになった作品です。あのワクワク感はなんなんでしょうね。本気で無人島生活してみたかったです笑。
『蠅の王』も面白いですけど『十五少年漂流記』のワクワクを期待したらダメです!真逆です!