「知恵の神」として怪異の悩み相談に乗っている琴子と、その彼氏であり不死身の九郎は、ある日警察に呼び出された。
山で男性4人グループのうち3人が転落死するという事件が起き、そこに九郎の従姉・六花が偶然居合わせたのだという。
六花の荷物には大金が入っており、警察は六花を事件の容疑者とみなしていた。
転落死した男性たちは、キリンの亡霊に追い掛け回されたとのことで、琴子は亡霊の正体を探るべく、そして六花の無実を証明すべく、事件解決に乗り出した。
ところが調べを進めるうちに、思いもよらない事実が明らかになっていく。
男たちが山に入った理由、転落の理由、六花がそこに居合わせた理由。
さらに琴子は、神として秩序を守るための、ある決断を迫られることになり――。
苦渋の末、琴子が出した結論とは?
ますます目が離せない、「虚構推理シリーズ」原作・第五弾!
苦戦の末の苦々しい選択
前作『虚構推理短編集 岩永琴子の純真』は短編集だった「虚構推理シリーズ」ですが、今作はバリバリの長編。
しかも五作目という節目の巻であり、これまでの物語に一区切りがつくような勝負と、新たな展開への兆しが描かれています。
今までシリーズを追い続けてきた方には必読必見、見逃し厳禁の重要な一冊です。
内容としては、山で男性3人が転落死するという事件がベースです。
彼らはある怪異に襲われ、崖まで追い詰められたのですが、その怪異というのが実はキリンの亡霊。そう、動物園にいる首の長いあのキリンです。
絵的に想像するとギャグっぽいのですが、この物語はかなりシリアスで、スリル満点。
しかもキリンの亡霊だけでなく人間の陰謀も絡んでおり、さらにそれを目撃した六花が巻き込まれ、転落事件の容疑者にされて警察沙汰になるという複雑っぷり。
そのような中で琴子は、この事件を「怪異のない事件」として片付けるための虚構推理をしなければなりません。
明らかに超常現象が起こっているのに、それをどう隠し通すのか、どうこじつけて普通の転落事件として解決させるのか、知恵の神の腕の見せどころです。
もちろんその裏で、真の原因であるキリンの亡霊も処理して、人間側の陰謀も何とかする必要があるので、琴子はいつも以上の苦戦を強いられます。
そのため琴子は、ある苦渋の選択をすることになります。
これは、知恵の神としては正しい選択かもしれませんが、人間としては辛すぎる選択です。
琴子がどんな決断を下すのか、その結果九郎や六花が何を感じどう行動するのか、読みながら心臓がバクバクするほどの衝撃を楽しめます!
知恵の神としての大きな矛盾
今作では琴子の苦渋の選択以外に、もうひとつ大きなテーマが描かれています。
それは「琴子と六花の勝負」であり、むしろこちらがメインかなというくらい大きなウェイトを占めています。
これまでのシリーズでも描かれていたように、琴子は知恵の神として活動するために、九郎の不死身体質を頼りにしている部分が大きいです。
それに対して六花は不死身体質を受け入れられず、人間に戻ることを切望しています。
この二人の考えの違いが対立を招いており、今作でついに決着がつくことになるのです。
まず六花が、転落事件の裏で琴子を罠に嵌めようと暗躍します。
六花は日頃からどこかミステリアスというか、何を考えているのかわからないところがあるので、その一挙一動全てが怪しく見えて、読者的にはかなりハラハラするでしょう。
もちろん琴子はアッサリやられるようなタマじゃ全然ないので、めいいっぱい逆襲します!
でも、でも……、タイトルの『虚構推理 逆襲と敗北の日』からも想像がつくと思いますが、決して気持ちの良い結末にはなりません。
なぜなら琴子は、知恵の神としてある矛盾を犯しているからです。
九郎の不死身体質は琴子にとって大きな支えとなっていますが、でも本来「不死身」とは極めて不条理な存在であり、秩序に反するものですよね。
知恵の神として秩序を守る立場にある琴子は、これを排除すべきであり、決して馴れ合ったり頼ったりしてはなりません。
でも琴子は九郎が好きで、恋人として過ごしているし、これからも一緒にいたいし、頼りにしたいと思っているし……。
ここに大きな矛盾が生まれてしまっているわけですね。
琴子がこの矛盾を突き付けられ、何を思い、何を選択するのか。
胸が締め付けられるような結末は、ぜひご自身でご覧ください!
シリーズの節目であり、大きな山場
さすがシリーズ五作目、事件の難易度の高さといい、琴子の生きる道を揺るがすような展開といい、圧倒的な盛り上がりを見せてくれました。
もともと悪魔的で人間離れした思考力を披露してきた琴子ですが、今作ではそれがパワーアップというか、「人間をやめてしまうのだろうか?」と思えるほどの凄みがあって、全く目が離せませんでした。
この焦燥感や苦々しさ、救いのなさは、間違いなくシリーズ中で最高の山場であり、ファンであればもう絶対に味わうべきです。
もちろん初めての方が読んでも面白いのですが、シリーズ第一作目から読んだ方が、キャラクター性や人間関係がわかる分、より楽しめるでしょう。
さて今作でひとつの区切りを迎えた「虚構推理シリーズ」ですが、終盤の流れから察するに、次回作は琴子と九郎と六花とが新たな関係性でスタートすることになると思います。
きっとスムーズには進まず波乱万丈となるはずなので、今からとても気になりますし、読める日が楽しみですよね。
それまでは、本書『虚構推理 逆襲と敗北の日』を繰り返し読んで堪能し、次回作への想像をたっぷりと膨らませておきましょう!
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