エラリー・クイーンは1932年に傑作を4連発しました。
『エジプト十字架の謎』『ギリシャ棺の謎』『Xの悲劇』『Yの悲劇』の四作品です。
有栖川有栖さんの【学生アリスシリーズ】の短編集『江神二郎の洞察』でも、
二十七歳という正解を聞いた彼女は、「クイーンが傑作を四連発した齢ですね」とマニアックに応えた。四連発とはもちろん、『エジプト十字架の謎』『ギリシャ棺の謎』『Xの悲劇』『Yの悲劇』だ。
「ええ切り返しやなぁ。惚れぼれする。もっと飲もう」
『江神二郎の洞察』426ページより
というくだりがあります。私の大好きなシーンです。
今回はそのうちの一つ、『ギリシャ棺の秘密』について色々語りたいと思います。
棺には見知らぬ死体が……『ギリシャ棺の秘密』
画廊を営むハルキスが心臓発作で死亡した。
彼の画廊や資産は生前書かれた遺言状で、相続が決まっていた。
しかし、ハルキスが死の直前に書き直した遺言状が紛失したことから事件は始まる。
事件の調査へと派遣されたエラリー・クイーンは遺言状はハルキスの棺の中にあるのではないかと推理する。
半信半疑のまま、掘り起こしたハルキスの棺には見知らぬ男の遺体が入っていた。
明らかに殺害された男の死体に、ハルキスの館は一気に騒がしくなる。
また発見された男は美術関係の犯罪に手を染めていた。
美術商であったハルキスと男との関係は?
紛失した遺言状はどこへいったのか?
謎が謎を呼ぶ事件をエラリーは解決することができるのか!
あっ、と言う間に複雑な事件が解かれていく面白さ
「ギリシャ棺の秘密」は推理小説の世界で今も尚輝き続けるクイーンの国名シリーズです。
冊数としては4冊目ですが、舞台としては一番古い時代のお話が描かれています。
何よりも目を引くのは、このシリーズの事件の複雑さ!
最初は遺言状の紛失から始まった事件が、埋葬された棺から死体が見つかり、自殺者が出て、さらに他の事件にまで繋がっていきます。
とても一人の犯行とは思えないほど、事件は絡み合い、ともすれば複数犯によるものだと考えたくなります。
それを若き日のエラリーは、細かな証拠を一つずつ組み合わせ、全ての可能性を考えることで解決していきます。
流れるように披露される解決編での推理は、人の頭でここまで複雑なものを考えられるのかと感心させられてしまいました。
多くの個性的な人物が登場します。その一人ひとりがきちんと生きている人間に感じられる描写も見事なものです。
物語を呼んでいるはずなのに、それぞれの人生を読んでいる気分になれる小説ですね。
「人間の心というものは、おぞましく、ひねくれたものだ」
(文庫P.17)
作中でこう言われているように、事件のトリックはもちろん、人間の面白さが十二分に描かれたお話です。
人間にはそれぞれの個性があって人間関係があります。犯人であれば、犯行に至る動機があるわけです。
ですが、それは周りの人間にも変わりありません。
言いたいこともあれば言いたくないこともある。
庇いたい人もいれば、突き出したい人もいる。
事件より、何より、恐ろしいのは人だと感じさせてくれます。
古き良き時代を感じさせる一冊
「意外だったろうか? サンプソン地方検事はそうでもなかったと言い切った」
(文庫P.511)
推理は決して退屈なものじゃない、と気づかせてくれるお話です。
推理小説を読み漁っていれば避けては通れないクイーン。
初めの頃の私のイメージとして「小さな証拠も見逃さず、論理的に推理を組み上げていく」というのがありました。
叙述トリックなどは使わず、複雑な事件を、丁寧に読み解いていく感覚に近いです。
実際読み始めて圧倒されたのは、その描写の細かさと見事さです。
1900年代前半のアメリカが舞台なのですが、まるでその次代を生きている気分にさせてくれるお話なんです。
それでいて古臭さを感じさせず、物語は進んでいきます。
『ギリシャ棺の秘密』では、最初は大富豪であるハルキスしが書いた遺言状の紛失から物語は始まります。
ただの遺言状の捜索だったはずが殺人事件へと発展し、さらにアメリカだけでなくイギリスをも巻き込んだ事件へと発展していきます。
推理小説では不可能犯罪を扱うことが多く、事件そのものの謎より、トリックの謎さえ解ければいいお話が多くあります。
それはそれで不可能が可能になる面白さがあるんですが、このお話ではトリックの難しさが人によって構成されています!
人間の行動、心理、関係性と物的証拠を拾い集め、クイーンは推理を組み立てていきます。
その面白さはトリックというより、事件の広がり、物語性に重きを置いているためだと感じました。
事件が解決した後でも、きちんと人間関係を収集させようとしているのにも現れていると思います。
推理小説好きならば、一度は読まねばならない!

高名な国名シリーズ第4弾でありながら、時系列的には最初の話。
そのため、他のシリーズのお話より、探偵役であるエラリー・クイーンが若く、未熟な部分も見え隠れします。
特に印象的なのはこのシーン。
「忘れろって? ずっと先まで忘れないよ、父さん」
(文庫P.284)
珍しくエラリーが推理を誤った時のシーンです。
この時、エラリーは決意します。全ての謎に説明が着くまで推理は披露しないと。
これが読者もヤキモキさせられる、クイーンシリーズでの特徴の一つになるわけです。
探偵役であるエラリーは常に謎を解こうと行動します。しかし、周囲の人間はそれが何のために必要かさっぱりわかりません。
エラリーが最後まで説明してくれないからです。そのため登場人物はもちろん、私達読者も振り回されることになります。
また、他のシリーズで出てきた話も『ギリシャ棺の秘密』から続く部分もあります。
きちんと注釈まで付いているので、シリーズ全てを読んでいる人は絶対に、始めて読む人でも楽しく読むことができる一冊になっています。
シリーズ屈指の傑作をいざご覧あれ。

国名シリーズに「なります」
このサイトは好きなので、こんなおかしな日本語で書かれるなんてがっかりです
おれさん、コメントいただきありがとうございました。
確認しましたがやはり日本語の使い方がおかしかったですね。
教えていただきありがとうございます。
早速修正いたしました。
次回からはこのようなことがないよう気をつけて書いていきます。
どうぞよろしくお願いいたします。