『グラスバードは還らない』-待望のマリア&漣シリーズ第三弾は「ガラスの迷宮」での連続殺人

いま最も楽しみにしているシリーズと言っても良い、『ジェリーフィッシュは凍らない』『ブルーローズは眠らない』に続くマリア&漣シリーズ最新作『グラスバードは還らない』が発売しました!

率直な感想を言えば、安定の本格ミステリでやっぱりこのシリーズ大好きだと思わされた作品でしたね。

 

今回悲劇となる舞台は「ガラスの迷宮」だっていうんだからもうテンション上がっちゃいます。

めっちゃ楽しそうな舞台じゃないですか。そりゃ殺人も起きますよ(?)。

 

ーー鳥?

ローナが右手の壁を探った。囀りが止む。天井の灯りが瞬き、ガラスの向こう側の彼女を照らし出した。

止まり木に食い込んだ爪。
艶やかな青黒色の羽。
鋭く突き出された真紅の口の端。
宝玉のように透き通った眼球。

チャックがこれまで見たことのない、最も美しい生物がそこにいた。

「硝子鳥だよ」

P.44より引用

 

目次

市川憂人 『グラスバードは還らない』

気がついたらこの部屋にいた。

着ていた服は質素な白服に着替えさせられ、手荷物も見当たらない。

なんで自分はこんなところにいるのか。と、セシリアは思った。

 

そう思っていたのはセシリアだけではなかった。

実業家であるヒュー・サンドフォードの関係者である、イアン、トラヴィス、チャック、ヒューのメイド・パメラ、の計5人のがこの奇妙な壁に囲まれた迷宮に閉じ込められている。

メイドは言う。

「今回の件は全てヒューのご意向である」と。

なぜヒュー社長はこんな場所に我々を閉じ込めたのか。

どうしてこんな事をしたのか。

メイドのパメラはヒューの伝言を伝える。

『その答えはお前たちが知っているはずだ』、と。

P.93より

……どう言う事なのか。

そして壁は消失する。

かすかな雑音が響き、周囲の壁が消失した。

急激に視界が開け、がらりとりした巨大な空間ーーコンクリートの長大な外壁、高い天井、延々と広がるリノリウムの床ーーががあらわになる。

「……え?」

呆けた声が漏れた。瞬く間の出来事だった。部屋の壁が色を消していた。ドアノブ、蝶番ーードア回りの細かい部品だけが宙に浮いたように静止している。

壁とドアが透明化した、と認識するまで、十秒近くを必要とした。

P.107

壁が消えた。

正確には透明なガラスになった。

つまりこの迷宮の全ての部屋が見渡せる事になる。

 

そして、ほぼ中央にあるその部屋に、一つの死体が転がっていた。

殺人が、起きた。

ガラス張りの迷宮での殺人!

最高ですね。

壁がガラスになり全てが見渡せる中での殺人事件。

出口となる扉は完全にロックされているので、脱出することはできません。および犯人の侵入もできません。

しかも透明なガラスの壁であり全てが見渡せるので、犯人が隠れる場所がありません。

ということは、犯人はこのガラス張り迷宮の中にいる4人の誰か、という事になります。

 

しかもこの壁、元に戻るんです。

つまり、時間が経つと元の透明ではない灰色の壁に切り替わるんです。

 

そしてその灰色の壁がまた透明のガラスに変化した時、また一つ死体が増えることになるのです。

 

……最高に面白い設定じゃないですか!

壁が切り替わるたびに起こる殺人。

犯人はこの中にいるはずだが、1人、また1人と殺されていく……。

一方マリアたちは

U国有数の実業家であるヒュー・サンドフォードが希少動物植物の違法取引に関与している、と情報を得たマリアたちは、巨大なガラス張りの塔『サンドフォードタワー』にいた。

しかし素直には通してくれない。ヒューにも合わせてくれない。当然か。

マリアは仕方なく非常階段で三十五階から最上階まで登る事にした。

が、死ぬ思いで登っている道中、タワーで爆発が……。

 

 

というように本作は、

・タワーの中にあるガラス張りの迷宮での殺人事件の章

・外部からタワーに侵入しようとするマリア、漣のコンビの章

が交互に展開されていく形式をとります。

一作目『ジェリーフィッシュは凍らない』でもこのパターンでしたね。好きです。

やっぱり面白いド安定のシリーズ

間違いないですね、このシリーズは。

マリアと漣コンビのやり取りがまず面白い。このシリーズの醍醐味の一つです。

この2人のキャラのおかげで雰囲気が固くならずに、サクサクーっと軽く読めるのがありがたい。

ガラス張りの迷宮での事件は緊迫感が凄まじくて終始ハラハラしながら読み進めたし、爆発でマリアだけタワーに取り残されてしまって漣と一緒に活動できないのももどかしくて。

とにかく「この先どうなるの?」の連続で休憩を挟めなかった。

 

ガラスの構造を扱った科学的なトリックなのかな、と思わせておいて実はがっつりロジカルなミステリで拍手。

二つの章が徐々に繋がってきてラストに綺麗に収束する展開もさすがでした。この繋げ方が本当にうまい。

終盤は二転三転どころか五転六転ぐらいするし、そのどれもに「なるほどな」と思わせる説得力がある。

ましてや、「あれ」が「あれ」だったとわかった時の衝撃ね。「うわー!それやっちゃうかー!」って1人で叫んでました。良い意味で。

これは素晴らしき本格。2019年版このミスにランクインしてほしいなあ。

順番に読むべき?

結論を言いますと、一作目『ジェリーフィッシュは凍らない』二作目『ブルーローズは眠らない』は順番に読んでおくべきです。

三作目『グラスバードは還らない』から読んでも楽しめなくはないですが、登場人物への感情移入度が違いますし、前二作品を読んでおくとニヤリとできるネタが『グラスバードは還らない』に散りばめられています。

『ジェリーフィッシュは凍らない』と『ブルーローズは眠らない』を読んでいる前提で書かれた作品だな、と思ったくらい。

内容をあまり覚えていないなあ、という方はシリーズを再読しておくとより楽しめますね。

 

というわけで、『グラスバードは還らない』は超面白いよ、という話でした。

今年発売された中でもトップクラスにおすすめできる作品です。

ぜひ、上質な本格ミステリをお楽しみください。

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この記事を書いた人

年間300冊くらい読書する人です。主に小説全般、特にミステリー小説が大大大好きです。 ipadでイラストも書いています。ツイッター、Instagramフォローしてくれたら嬉しいです(*≧д≦)

コメント

コメント一覧 (8件)

  • いただきました! グラスバードですねえ。きっと、記事になるだろうと思ってました。こういうザ・本格ミステリみたいな本が世に出るから、僕は干からびずに済むんですよ。シリーズもので安定の面白さ、謎解きも非常に魅力的で、構成の妙を感じさせてくれる傑作でした。鮎川哲也賞受賞作家は個人的にどれも好みにドンピシャなので、これからの活躍も期待したいところです。

    • 本当間違いなしですよねこのシリーズは!
      まさに私もこのような作品のおかげで干からびずに済んでいます。
      鮎川哲也賞受賞作家さんは私もドンピシャな人多いですねー。
      特にこのシリーズは超ど真ん中なので末長く続けていただきたいです(ノω`*)

  • こんにちは。
    3作目も安定の面白さでした。
    この世界の犯人はいつも凝った殺人をしますね笑
    あと、星新一さんの私のベスト作品を少しですが思わせるところがあって、そこも好きでした。

    • 林檎さんこんにちは!
      やっぱり安定してますよんねー。
      ほんと凝ってますよね笑 まあ読者にとってはそこが大好物なわけですが(*´∀`*)
      来年が楽しみですー!!

  • 遅ればせながら読み終わりました。
    3作目が一番好きかも…と思わせるくらい大満足です。
    広げた風呂敷がキレイに畳まれていく感じがたまりません。
    今回も洋画のようなラストシーンで、余韻に浸ってしまいました。
    もう既に次回作が待ち遠しい!

    • ボリさんこんにちは!
      ほんと、これでもかと広げておいて綺麗に収束させる技術は素晴らしいですよね。
      ラストシーンには私も酔いしれました。
      今一番次回作が気になるシリーズと言っても過言ではないです!
      早く次回作が読みたいです!

  • ようやく三作目読めました!今回もすごく面白かったです。思いもよらないトリックでしたが、どれも無駄がなく思わずポカーン…(O_O)でした。
    このシリーズはどれも読みやすいのと、キャラクターに魅力がありますね!マリアと蓮の掛け合いが好きですし、今回は特にジョンのキャラクターが好きだなと思いました。次作も楽しみです(o^^o)

    • おお、とうとう読まれたのですね!
      本当にポカーンなトリックですよね、こんなのどうやって思いつくのでしょう(*゚Д゚)
      わかります!キャラクターの魅力と読みやすさが抜群で、グイグイ読ませてくれます。良いですなあ。
      私も今とっっても楽しみにしているシリーズです!早く次作が読みたいですなあ!

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