ゴリラのローズは高校生並みの知能を持っており、特殊なグローブを使った手話で人間と会話もできた。
アメリカの動物園で夫のオマリと幸せに暮らしていたが、ある日事件が起こった。
オマリの檻に4歳の子供が入り込み、動物園側は子供を守るためにオマリを銃で殺したのだ。
ローズはとても納得できなかった。
オマリには子供を襲う気はなかったはずだし、たとえ襲う可能性があったとしても麻酔銃を使えば済んだはずだ。
そもそも人間の子供を助けるためにゴリラを殺してもいいのか、ゴリラの命は人間の命より軽いというのか。
ローズは動物園を相手に裁判を起こしたが、しかし陪審員からの理解を得られず、結果は敗訴。
「正義は人間に支配されている。裁判は動物に不公平だ」
人間の倫理観に絶望したローズは動物園と決別し、新たな生き方を始めるが―。
第64回メフィスト賞を満場一致で受賞した超話題作!
人間と対等に付き合えるゴリラ
『ゴリラ裁判の日』は、2016年のアメリカで実際に起こった「ハランベ事件」をモチーフとした長編小説です。
「ハランベ事件」とは、動物園のゴリラの檻に落ちた男児を救うために、やむなくゴリラを射殺したという事件です。
世界的に報道され、注目を集めたことから、ご存知の方も多いかと思います。
『ゴリラ裁判の日』は、この事件にヒントを得ながら「命に優劣はあるのか」「正義とは何か」といった深いテーマをドラマチックに描いた感動巨編です。
実話がモチーフではありますが、物語としては完全にフィクション。
なんせ主人公のローズはゴリラなのですが、タダのゴリラではなく知能がズバ抜けて高く、人間の言葉を理解できるのです。
しかも手話を音声に変換する特殊なグローブを装着することで、人間と会話できます。
ジョークも言えますし、恋バナだってしますし、恥ずかしがったり嫉妬したりといった普通の女性らしい反応もするので、人間とほとんど変わりません。
体の構造が違うだけで、頭脳や心は完全に人間と言っていいくらいのメスゴリラなのです。
そんなローズだからこそ、夫のオマリが射殺されたことで「裁判は動物に不公平だ」と憤ります。
中身が人間とほぼ同じということは、ほとんど対等と言えるわけですから、動物園が「人間を救うためにゴリラを犠牲にした」ことがどうしても許せなかったのですね。
そして判決が下るのですが、この判決が本当に正しいと言えるのか、動物の命は本当に人間の命に劣っているのか。
ローズ自身が、動物園を出て人間社会で生きることで、実証していくのです。
揺れるアイデンティティと再度の裁判
物語中盤では、ローズが人間社会でいろんな人々と関わる様子が描かれます。
見た目こそゴリラですが中身は人間の女性と変わらないローズは、ごく自然に人間と友情を育みます。
特に韓国系のラッパーのリリーとは親友になり、ガールズトークに花を咲かせたり、おしゃれを楽しんだりと、華やかな青春の日々を過ごします。
その様子は普通のティーンエイジャーの女の子のようで、可愛らしくてホッコリしますし、「このまま人として生活できるのでは?」と思えるくらい。
でもやっぱり体の構造はゴリラなので、中には恐れたり、見下したり、利用しようと企んだりする人もいるのですよね。
もうこれは、仕方のないことかもしれません。
考え方や感じ方は人それぞれですし、様々な価値観があってこその人間社会ですものね。
もちろんリリーを始めローズの理解者もたくさんいますから、彼らから元気と勇気をもらうことで、ローズは徐々に自己のアイデンティティを確立させていきます。
「自分は人なのか、ゴリラなのか。人として生きるべきなのか、ゴリラとして生きるべきなのか」、この答えを見つけていくのですね。
そして物語終盤に、もう一度裁判のシーンがやって来ます。
今度は敏腕弁護士ダニエルが味方となり、キレッキレの戦略で法廷にリベンジ!
ダニエルはどう戦うのか、ローズは何を主張するのか。
勝負の結果は、読んでからのお楽しみです。
クライマックスからラストにかけての展開は激アツで、涙腺が大崩壊すること間違いなしなので、ハンカチを用意しておくことをおすすめします!
発売前から話題になったメフィスト賞受賞作
『ゴリラ裁判の日』は、作家・須藤 古都離さんのデビュー作であり、第64回メフィスト賞受賞作です。
メフィスト賞というと、ジャンルやテーマを問わず面白さ重視で作品を選出する文学賞で、ある意味「面白ければ何でもアリ」な賞と言えます。
そのため過去の受賞作では、新たな切り口で物語を展開させていく個性派作品が目立っていたのですが、『ゴリラ裁判の日』もまさにそのような作品です。
人語を理解するゴリラの女の子が、人間を相手に裁判を起こす物語なんて、未だかつてお目にかかったことがありません。
しかもどう見ても真っ黒でいかついゴリラなのに、中身は可愛らしいティーンエイジャーのようであり、恥じらう乙女であり、それでいてやっぱりゴリラなので、時にはパワフルに野性味たっぷりに暴れたり。
それでもって、命や正義、人権といった深いテーマを追求していくのですから、もう本当に「何でもアリ」な面白エンターテイメントと言えます。
あまりにメフィスト賞にピッタリな作品であることから、受賞は満場一致で決定となったとか。
そのため巷やネット上では、書籍としての販売を待たずして話題沸騰!
実際の事件をモチーフにしているところから、社会派小説としての注目も集めています。
これほどの作品ですから、読んでみて損はないはず。
とにかくローズが魅力的なので、読めばきっと彼女を好きになるし、動物(特にゴリラ)に対する思い入れも変わってくると思います。
ぜひご一読を!
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