斉木香津さんの『幻霙(げんえい)』が文庫化されました。
斉木さんといえば『凍花 (双葉文庫)』という作品が有名で、読んで以来とても気になっている作家さん。
そんな斉木さんの「一気読み必至のミステリー」だというのだから読まないわけにはいきません。
結論から言えば、まさにタイトル通りの『幻霙』な物語だったのです。
斉木香津『幻霙』
「びっくり。そーたかと思った」
この一言から全ては始まった。いや、すでに始まっていた。
同棲している桃里(ももり)が放ったこの一言が、蒼太(そーた)の耳から離れなかった。
桃里が見ていたのはテレビのニュース番組で、繁華街で起こった無差別殺傷事件を報道していた。
犯人は三澤兼人(みさわかねと)、26歳。
公開された防犯カメラの映像を見て、桃里はそう言ったのだった。
しかし、わからない。
年齢は同じだけれど、顔つきや体格はまるで違う。どこをどう見て「そーたかと思った」なんて口走ったのか。
これをキッカケに、蒼太は殺人犯・三澤兼人のについて執拗に調べはじめる。
すると、自分と殺人犯・三澤との共通点があることが判明していく。
一方、バイト先で知り合ってから、どんどん蒼太に惹かれていく桃里。
桃里の部屋で同棲して、部屋代も光熱費も蒼太は出してくれないけれど、それでも蒼太が好きだった。
だから、さっきの一言で蒼太の様子が変わってしまったことを心配しはじめる。
二人が見ていた世界は、幻霙。
蒼太の視点を「Blue」、桃里の視点「Pink」として、交互に物語が展開されていきます。
おなじみのパターンですね。
ミステリー小説だというのに、序盤から中盤までは二人のすれ違いを描いた恋愛小説のよう。
心理描写もうまくて、「痛いところついてくるなー」とか思いながらもページをめくる手は止められず。
確かに若干不穏な空気はありましたが、面白い人間ドラマとしてグイグイ読まされ、ミステリー要素どこやねんと思っていました。
だからこそ、あの展開には驚いた。
どんでん返しとか、やられた!というトリックではなくて、最初から二人の見ていたものが違っていたという衝撃。
ラスト数十ページで怒涛の展開となり、心をえぐられたまま終わりを迎えるという、なんとも後味の悪い結末です。
文庫の帯に『やるせなくて、苦しくて、精神的にグサリとくる』と書いてありますが、これほど帯通りの作品も珍しい。
もう一度最初から読み直すと、さらに「ああ、これはそういう意味だったんだ」というシーンやセリフだ多々ありました。
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そもそも、蒼太はあの一言でなぜこれほど殺人犯・三澤に執着するのか?
という疑問がついてまわりますよね。
取り憑かれたように三澤のことを調べる蒼太。彼の過去に一体何があったのか。
そして、このままでは終わらないだろう、という予感。
ミステリー小説である以上、このまま恋愛小説として終わるわけがないので、「この先に何が待っているんだろう」と期待させるんです。
それで結末が気になって、帯通りの一気読みしてしまうわけです。
文庫で266ページくらいなのでサクッといけます。ただしサクッとは終わらないです。
読後感はよろしくないので、読む際はお気をつけて。。。
コメント
コメント一覧 (2件)
たびたびhitomiです❗
先日このblogみてすぐ買いに行って、一気読みしました。
最初、セカンドラブとか、イニシエーションラブみたいな?
とか予想してたけど、見てたものが違う、、かぁ。。
なんか、普通のラブストーリーにも読めるけど、辛い話ですね。
と、私は思いました。
次は、多島さんの『症例A』を買ったので読もうかと思ってます。
読んだらまた、今さらのコメントしにきます。強制的にしにきます!(笑)
そうそう、私もセカンドラブ系とやつかと思ったんですけど、ストレートに辛い物語でした。
もし育つ環境が違っていたら変わってたのかなあ、と思うとやりきれないです。
最初からハッピーエンドは期待してませんでしたが、やっぱり悲しいですよねえ。
おお、症例A!良い作品ですねえ。物語と設定に深みがあります。
もちろん待ってますよおおお!(゚∀゚*)