雪の降る森の中に聳え立つ硝子の塔。
そこにはかつての功績で富を築いたある生物学者が住んでいます。
ミステリ好きでもある彼は「重大な発表がある」と言って、刑事、霊能者、名探偵や医者など、癖のある知人たちをその塔に招待。
この催しの中で次々と起きる殺人事件をめぐる四日間を描いた作品となっています。
催しに赴いた人間たちの一人で主人の担当医でもある医師の男の独白のシーンから本書は幕を開けます。
塔の一室で自分の犯した過ちに思いをめぐらせる彼。
そこから時は戻り場面は初日へ。
「重大な発表」を待つ招待客たちの間で次々と起きる凄惨な事件。
毒殺される塔の主人、ダイニングルームでは火事が発生し、そこには血に塗れた遺体。
そしてダイイングメッセージのように記された13年前の事件。
一人の名探偵と冒頭に登場した医師の男が塔の謎を追いかけ、事件解決に動きます。
張り巡らされた伏線、塔の中で渦巻く登場人物たちの思惑の中で少しずつ明らかになっていく真相。
クローズドサークル、密室殺人など、ミステリ好きにはたまらないシチュエーションで起きる事件を華麗な論理展開で解き明かしていく本格ミステリ作品となっています。
物語を盛り上げる過去の本格ミステリ作品たち
本書には実在する過去の本格ミステリ小説への言及が多く出てきます。
綾辻行人氏や島田荘司氏、アガサ・クリスティやコナン・ドイルの作品に対する評価やミステリ業界の流れについてミステリフリークな登場人物たちが話をしていて、ミステリ小説が好きな読者にとってとても興味深く共感もできる幕間の余興となるでしょう。
そしてこれはそのまま著者のミステリ愛や知識の豊富さをうかがえる要素となっており、本書に対しても信頼と好感を持ちながら読み進めていくことができます。
また、単なる余興におさまらず、ある有名作品がそのまま作中に起きる事件の手がかりとしても登場します。
その作品を知っていることで事件解決への手がかりとなるので、小説を読んだ経験がある人にとっては特に心躍る場面となること間違いなしです。
また作中、事件の推理を担う自称名探偵の女性は重度のミステリマニアで、「薄いブラウンでチェック模様の英国風スリーピーススーツ」を着ていたり「鹿撃ち帽」をかぶっていたりと、シャーロック・ホームズそっくりの格好をしています。
身も心もミステリに染まった彼女の、しかし生来の鋭い観察眼や蓄積された豊潤な知性が硝子の塔の殺人の全様を暴いていく様は、まさに往年の有名ミステリ作品に登場した名探偵たちを彷彿とさせ、読者はそんな彼女と共に興奮と驚きの中で物語を追いかけていくことになるでしょう。
絶対に予想できないラストのどんでん返し
本書の最大の魅力は、ラストに起こる大どんでん返しです。
作中起きる事件はどれも凄惨で不可解なだけあって魅力的で、そのトリックを簡単に見破ることは難しいでしょう。
しかしミステリ好きにとってはいくらか定番とも言えるシチュエーションなこともあり、得られる手がかりと伏線をしっかりと見極めることさえできれば犯人の用いたトリックを解き明かすことは可能です。
そして物語は特大の展開もなく終盤まで進み、最後の事件の解決を迎えるので、そこまで自力で推理できていた読者にとっては「面白かったけど、なんだか物足りない」という気持ちがするでしょう。
そしてなんとなく気の抜けた様な気分になり始める読み手の前に、本書は想像もつかない真相を提示してくるのです。
全ての事件が論理的な推理とそれを裏付ける証拠によって解決し、肩の荷を降ろす主人公たちに突然明かされる新たな真実。
これまで進行してきた物語の裏側に隠れた真の論理を開示していく圧巻のラストはまさに「大どんでん返し」で、読み手も時が立つのを忘れて次々とページをめくっていってしまいます。
ただ驚かすためだけに用意された小手先の飛び道具的手法ではなく、巧妙にカモフラージュされたいくつかの決定的な伏線が最後の最後で結びつき、「硝子の塔の殺人」の全貌が見えた時、本書の本当の魅力が圧倒的なスケールで開花します。
二度読み必至 傑作ミステリ小説
2015年に「仮面病棟」で啓文堂大賞(文庫部門)を受賞した作家・知念実希人のデビュー10周年、実業之日本社創業125年記念作品、「硝子の塔の殺人」。
主人公の独白から始まるプロローグ、塔で起きる謎めいた殺人を巡る四日間、そしてエピローグの構成で描かれた本作は過去の有名ミステリ作品も絡めながら作家のミステリ愛によって紡がれた超本格ミステリ小説となっています。
毒殺された塔の主人、ダイニングで起きた火災と血塗れの遺体。
そして13年前の事件を回顧させる、犯人からのメッセージ。
さまざまな手がかりや伏線を、作中に登場する「名探偵」とともに拾い集め、手繰り寄せていった先に明らかになる衝撃の事実。
さらにそれだけでは終わらない、終わらせない、物語の裏に隠された真の論理が語られる時、驚きのあまり嘆息を漏らしてしまうでしょう。
作中に起きる事件の手がかりの中には現実の過去有名ミステリ小説の設定が使われていたりもするので、ミステリ好きの方が十二分に楽しめる内容となっています。
まためくるめく展開と本作で狂言回しの役を担う「名探偵」の軽快な話術のおかげで、ある種映画を見ているような感覚で作品に没入することができます。
なのでミステリ小説に馴染みのない方、そもそもあまり小説を読んだことがない方でも楽しんで最後のページまで読み進められること間違いなしです。
ミステリ小説界の巨匠、島田荘司も「今後このフィールドから、これを超える作が現れることはないだろう。」と太鼓判を押す知念実希人 著「硝子の塔の殺人」。
ミステリ好きならば読んで間違いなしの作品です。
是非ご一読ください!
コメント
コメント一覧 (2件)
待ってました待ってました(*Ü*) 古今東西ミステリー好きならたまらんかったっす 危うくヨダレが出るところでした…
屍人荘やオリエント急行などのネタバレギリギリをかすめているところがニヤつきポイントでした ラストの返しもまさかそういう事か… と全然予想の斜め上でした( ˙-˙ )
兇人邸といい今年を代表する本格クローズドサークルもんですよね 今年は豊作すぎます(歓喜)
こはるさんこんにちは〜(*’▽’*)
いやあ、本当にこういうのたまらないですよね笑
ニヤニヤする場面が多いし、ラストの返しも見事でした。
ほんと今年は豊作ですよね!
今年のランキングが楽しみです(*゚∀゚*)