『飛行機墜落事故から消えた130人の犠牲者の遺体』
『雪の密室で口から剣を刺されて死んだ男』
『監視者の目の前で次々と人が消える宗教施設』
『身元不明の死体ばかりを選んで集める男』……。
これら4つの別々の事件が、現代において合わさって一つの道筋を作り出し、ある真実を浮かび上がらせる。
上記の事件を含め全国で死体が消えているのはなぜか?誰が何の目的で事件を起こしているのか?
そして、それぞれの事件の陰で暗躍する謎の教団・『奇蹟の光』の正体・目的とは?
建築士兼探偵の蜘蛛手とその“助手”の宮村がともに真相を追う中、あるおぞましくもむごたらしい真実が姿を現します。
第11回鮎川哲也賞を受賞した前作・「建築屍材」を超える衝撃の結末が、読む人全てを襲います。
門前典之『浮遊封館』の見どころ
一部のミステリ愛好家をうならせた自費出版作・『死の命題』、第11回鮎川哲也賞を受賞したデビュー作『建築屍材』に続く、作者第三作品めの『浮遊封館』。
飛行機の墜落事故から消えてしまった130人分もの遺体、人がどんどん行方不明になる怪しい宗教施設、身元不明の死体ばかりを選んで引き取っていく謎の人物など、読んでいるだけで不安になってくるような言葉ばかりが並んでいます。
「大量の死体が消える」なんて、とても不気味で考えたくないことですよね。
そして見どころの一つは、工学部建築学科卒という作者の経歴を致したいわば“建築トリック”とも言えるトリックの数々。
各事件の仕掛けが建築家目線で実に詳しく述べられていき、その熱量とち密さに圧倒されていきます。
始めは何が起きているのか、この事件がどうつながっていくのかすらわからない状態からまとめ上げる力量はすさまじいものです。
そして、事件のトリックや動機の謎解き・犯人の解明だけでは終わらないのがこの作者の真骨頂!
前作を超える目を覆いたくなるような惨劇が、読者の眼前にさらされるのです。
その描写のすさまじさは、作者が伝えたかったのはミステリの話ではなく「人間の倫理の無さ」「倫理感のない集団の怖さ」だったのではないかと疑ってかかってしまうほど。
人間の持つ倫理感や尊厳を度外視した惨劇の描写に、「これほどまで……」と驚嘆するか辟易とするかは、かなり人が分かれるところでしょう。
人によってはかなりの「トラウマ」ミステリになることも否定できませんので、心臓の弱い方は少し注意が必要かもしれません。
これらの残酷描写からは意外(?)かもしれませんが、探偵の蜘蛛手と助手の宮村との掛け合いにも面白さがあります。
「性格に難ありの高飛車な探偵」と「そんな探偵に振り回されながらも何だかんだと指示を聞いてしまう貧乏くじの助手」は、いつの時代の需要があるのかもしれませんね。
今作においては、そんな探偵&助手のユニークなやり取りと事件の凄惨さ・むごたらしさの間のギャップが、ある種のスパイスとなって効いている感もあります。
定番のバディものミステリと、作者の力の入った残酷シーン、伏線回収を超えたアッと驚く真相解明、この3つが絡み合った本格ミステリということが出来るでしょう。
門前ワールドを余すことなく堪能できるはずです。
読者を選ぶ、だからこそ面白い!
同作者の前作・前々作に引き続き、一言で言えばある種「読者を選んでしまう」タイプの作品となっています。
直接的な描写はないものの、文章を読んで想像するのも嫌になるような凄惨で残酷な惨劇の記述の数々は、初めて門前作品を読まれる方などにとってはかなり強烈なものに映るかもしれません。
しかし、裏を返せばそういった普通であれば厭うはずの凄惨なシーンを真正面から書ききっているという点が、まさにこの「浮遊封館」を含めた門前作品の魅力の一つとなっているとも言えます。
もちろん、この作品の魅力はそういった徹底した残酷描写だけではありません。
読者に対してフェアすぎるくらいにヒントを与えた上で、読者の予想をはるかに上回るような驚きの結末を用意しているというのも、門前作品の魅力の一つです。
これほどまでに描写とインパクトに力が入れられている「浮遊封館」ですが、他の方のレビューなどを見ていると、「ありえなさすぎる」と一刀両断するか「衝撃的で面白い!」と絶賛するかの二パターンに分かれている印象があります。
ここからも読者を選ぶ小説であることがわかると思いますが、それらのレビューに共通しているのが、「ラストに明かされる秘密のインパクトはすごい」という点。
不気味な事件・宗教組織の暗躍が続きついに明かされる衝撃の展開がどれほどすさまじいものなのか、感じていただけるのではないでしょうか。
この展開・この結末がミステリとして「アリ」なのか、そしてミステリ界きっての陰惨な残酷描写に耐えられるかどうか、ぜひあなた自身の目で確かめてみてください。
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