第二次世界大戦で功績を残したデイヴィー・フォックス大尉は、しかし、精神的な負担を負ったまま故郷であるライツヴィルに帰省しました。
彼の心の中は常に「妻を殺したい」という意識でいっぱいで、戦争での彼の活躍をもてはやす周囲とは裏腹に大尉の心は休まりません。
恐ろしい衝動の理由に、大尉は自身の両親に問題があると考えていました。
彼の父は12年前に彼の母を毒殺し、現在刑務所に入れられています。自分はそんな人殺しの血を受け継いでいるのではないかと感じていました。
大尉の妻であるリンダは、そんな彼の悩みを解決すべく、探偵のエラリイ・クイーンに相談を持ちかけます。
エラリイ・クイーンはまず大尉の父のもとへ面会に向かいました。
12年前の事件は本当に彼が起こしたものなのか?違うとすれば真犯人は一体誰なのか?答えがすべて明らかになったとき、切ないながらも胸が暖かくなる物語です。
エラリイクイーン『フォックス家の殺人』
作者と同名の探偵が登場するエラリイ・クイーンシリーズの名作です。
今回もライツヴィルという架空の街を舞台に、探偵エラリイ・クイーンが事件を解決します。
今回解決する事件は12年前に起きた殺人事件で、犯人もほぼ確定しています。
本人の「自分は無実だ」という証言だけで冤罪である証拠がなく、どのようにして真犯人を導き出すのかが最大の見所。
派手な殺害方法や連続殺人などはなく、一見すると地味な印象がありますが、エラリイ・クイーンが少ない情報から謎を解き明かすまでの方法が非常に秀逸です。
ほんのささいな日常の動作から過去の謎が解き明かされていく構成に驚かされることでしょう。
地味な展開が続くのにグイグイ読まされるし、後半の二転三転するあの展開は数あるクイーン作品の中でもトップクラスではないでしょうか。
一つの街の中、家族間、夫婦間という、非常に狭い関係を繊細に描き出しているので、読みながら登場人物たちの時間が静かにゆっくりと進んでいく様子を一緒に味わうことができます。
デイヴィー・フォックス大尉やその妻、彼の家族たちそれぞれに事情がありますが、丁寧な描写でそれぞれに感情移入してしまうのです。
物語は第二次世界大戦直後が舞台で、戦争についての生々しい描写があります。
アメリカは戦争に勝利しましたが、それでも大尉のように心に傷を負った人はたくさんいるのだということを改めて思い知らされます。
このようなテーマを扱った今作が第二次世界大戦終了直後の1945年に発表されているというのも驚きです。
田舎の街ならではの近隣住民の悪意も生々しく描写されており、そんな人々とどう向き合うべきなのか、いざ自分が住民たちの立場になったときどう行動すべきなのかを考えさせられます。
主人公のエラリイ・クイーンシリーズは前作に引き続きこの街に住み続けていますが、どんな魅力のある街なのかを空想してみるのも楽しいかもしれません。
探偵エラリイ・クイーンシリーズは1929年から1970年代まで続く人気シリーズです。
中でも架空の街ライツヴィルが登場するのは「災厄の町」に続く二作目で、他には「十日間の不思議」「ダブル・ダブル」「帝王死す」「最後の女」があります。
「最後の女」は探偵エラリイ・クイーンシリーズの最後の作品でもあり、いかに彼がこの架空の街を気に入っていたのかがわかります。
他にも「ローマ帽子の謎」を始めとする国名シリーズや短編集も人気があります。

派手な殺人や豪快なトリックはほとんど登場しませんが、登場人物のそれぞれの感情の描き方が巧みで、知名度は低いもののコアなファンを世界中で獲得しています。
探偵エラリイ・クイーンがシリーズを通して徐々に心の内を見せる、30年以上前の事件の真相に気づくなどの展開は他の作品には類を見ず、一度読めば心を掴まれるはずです。
まだ読んだことがないという方はぜひチェックしてみてください。
作品数は非常に多いですが、どの作品から読んでも探偵エラリイ・クイーンが醸し出す空気に飲み込まれてしまうことでしょう。
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