弁護士エリスの事務所には、「合法的に恨みを晴らす」という裏メニューがあった。
一般的に素人が感情に任せて復讐しても、非合法的な手段だと警察沙汰になりかねず、合法的だと効果が薄くなるきらいがある。
しかし法律の抜け穴を熟知しているエリスなら、違法スレスレだがギリギリ合法的というきわどい手段で、憎き相手を効果的に痛めつけることができるのだ。
言うなれば「合法復讐屋」、これが弁護士エリスの裏の顔だった。
今日もエリスは、晴らせない恨みで苦しむ人々の復讐を代行する。
彼らの気持ちに、ハッキリとケリをつけるために。
第21回『このミステリーがすごい!』隠し玉に選ばれた、痛快リーガルミステリー!
合法的でもえげつない仕返しが面白い
『復讐は合法的に』は、弁護士エリスが依頼人の恨みを晴らすという、リーガルミステリー短編集です。
世の中、法律だけでは解決しないことってありますよね。
たとえば、加害者が法的に妥当な罰を受けても、被害者の気持ちは浮かばれず、傷も痛みも残ってしまうとか。
そのような人に代わってエリスが合法的に復讐するのが、『復讐は合法的に』の大筋です。
面白いのが、この「合法的」という部分。
合法にはピンからキリまであって、完璧に法律の範囲内という合法もあれば、限りなく違法に近い合法もあるわけで。
エリスはこの「ほとんど真っ黒だけどかろうじてグレーな合法手段」で、ガッツリと復讐するのです。
これがまたえげつなくて、エリスがターゲットをコテンパンにするたびに、「え、これって本当に合法?」と驚かされます。
でもあくどい奴らがバッサバッサと成敗される様子は見ていて清々しく、読者はこのギリギリ合法な復讐を、どんどん応援したくなってきます。
しかもエリスのキャラクター性がまた面白くて。
見た目はサラサラのロングストレートヘアで彫りが深く、まるで女神のような美女なのですが、実際はベリーショートでガタイの良い、物腰優雅なおネェだったりします。
いつもは女神だけど、時として荒々しい男神になるというギャップがたまりません(笑)
他のキャラクターも、小学生4年生にして万能すぎる秘書のメープルちゃんとか、エリスの活動が違法スレスレだと知っていながら協力する現役刑事のケンとか、それぞれに個性があって魅力的!
全4編あり、いずれもスルッと一気に読めてしまえる面白さです。
各話のあらすじと見どころ
Case1『女神と負け犬』
彼氏と同棲していたOLが、妊娠したとたん捨てられて、貯めていた結婚資金まで使い込まれてしまいます。
彼女は復讐したいと思いつつ、こんな男のために人生を棒に振るのもためらわれて―。
エリスのやり口が痛快すぎて、拍手したくなる第一話!
もちろんエリスは正面から殴ったり蹴ったりという違法な復讐は、美しくないのでやりません。
でも代わりに嫌がらせレベルのことを、キッチリねっちり容赦なく徹底的にやってくれます。「ウソみたいだろ、合法なんだぜ、それで」と言いたくなるような復讐劇です。
Case2『副業』
一人息子が殺人を犯し、逮捕されてしまったという親からの依頼です。
息子が利用していた携帯ショップの店員が何やら不審な行動をしており、それが発端となって事件が起こったようなのですが―。
最初から悪事が露呈していた第一話と違い、こちらでは携帯ショップの店員が「どんな悪事を働いていたか」が焦点となっています。
なかなかボロを出さない慎重な犯人を、ガッチリ証拠を掴んで、グウの根も出ないほどやり込めるエリスが素敵!
Case3『潜入』
ある雑誌記者からの依頼です。
議員の息子が、小学3年生の女の子への強制わいせつで逮捕されたのですが、父親が権力で揉み消します。
依頼主はそれが納得できず、エリスのもとに相談に来たのです。
この物語では、スーパー小学生の秘書メープルちゃんが大活躍!わいせつ男が講師を務める英会話教室に潜入し、捜査します。
ちなみに小学生を雇うのは、「タレント」としてなら法的に問題ないそうです。
さすがはエリス、この点でもしっかりグレーな合法を貫いています。
Case4『同類』
ミスキャンパスに選ばれた女子大生が暴露系Twitterで晒され、それが原因で殺されてしまいます。
犯人は逮捕されたものの、その女子大生の母親は、暴露系Twitterの主にも恨みを抱いており―。
今作の焦点となっているのは、暴露系Twitterアカウントの特定、つまりフーダニットですね。
厄介なことに犯人は、自分がしていることを悪事どころか正義だと思っています。
ある意味エリスも「同類」と言えるのですが、でもエリスにはエリスなりの流儀や信念があります。
両者の対決の結末はいかに?
コロナ禍が生み出したリーガルミステリーの傑作
『復讐は合法的に』は、三日市 零さんのデビュー作であり、第21回『このミステリーがすごい!』隠し玉に選ばれた作品です。
隠し玉とは、僅差で大賞は逃したものの、編集部が「このまま世に埋もれさせるのはあまりに惜しい」と考えて出版する作品のことです。
その隠し玉に選ばれただけあって『復讐は合法的に』は、物語よし、キャラクターよし、テンポよしで、一気読み不可避の傑作です。
オチもきれいで、悪党を成敗する勧善懲悪モノですから、読後感はスッキリ爽快!
さらにすごいことに作者の三日市さんは、この作品を「コロナの自粛中で暇だから」執筆したのだとか!
動機にもビックリですが、そのノリでこれほどのクオリティの作品を執筆し、デビューまで成し遂げたことがすごすぎます。
世の中に暗い影を落としたコロナ禍ですが、こういうお話を聞くと、あながち悪いことばかりでもなかったのかなと思えてきますね。
とにかく『復讐は合法的に』は、色々な面で読み手を楽しませ、スッキリさせてくれる作品です。
リーガルミステリーが好きな方にはもちろん、日頃の鬱憤を晴らしたい方にもおすすめです!
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