刑事オリヴァー&ピアシリーズ3『深い疵』- ナチス時代からの因縁が引き起こした殺人事件に挑む

アメリカ大統領の顧問を務めていたゴルトベルクが射殺された。

ゴルトベルクは、かつてホロコーストを生き残ったユダヤ人だが、捜査により実はナチスの武装親衛隊員だったことが判明。

続いて起こった第二の事件でも、被害者を調べるとナチスの信奉者だったことがわかった。

これらの事件にナチス時代の凄惨な過去が関係しているのは間違いなさそうだが、犯人は一体誰で、何の目的で犯行に及んだのか。

刑事オリヴァーとピアは、膨大な数の容疑者を洗い出し、迫る危険をかわしつつ、真相を探るが―。

歴史と人々の心に刻まれた根深い疵(きず)に迫る、本格派ミステリー!

目次

前二作をはるかに超えるスケールの難事件

『深い疵』は「刑事オリヴァー&ピアシリーズ」の第三弾です。

第一弾と第二弾では、事件の捜査を主軸としつつ、オリヴァーとピアのプライベートにもスポットを当てていましたが、今作『深い疵』ではそういったサイドストーリーは少なめ。

その分ミステリー色が強く、事件の規模は大きいですし、謎もテーマも深い、コテコテの推理モノとなっています。

まず被害者に共通項があり、ナチスの親衛隊員だったり信奉者だったりと、それぞれがナチスに関わりを持っています。

しかも最初の被害者ゴルトベルクは、ナチスが迫害していたユダヤ人ですから、何やら裏がありそうな匂いがプンプンしますね。

さらに殺害方法も、わざわざ第二次世界大戦期の銃を使って頭を撃ち抜いており、処刑さながらのやり口に犯人の妄執を感じます。

加えて現場には必ず「16145」という犯人の血文字が残されているのです。

しかもこの事件、被害者のゴルトベルクがアメリカ大統領の顧問だったことから、アメリカ領事館やCIAまで絡んできます。

そのためドイツ警察の上層部は「このままでは国際問題になりかねない」と考え、捜査の打ち切りを断行します。

このような状況で、主人公の刑事オリヴァーとピアは真相究明のために捜査を進めていくのです。

間違いなく、今までのシリーズ中で最もスケールの大きい難事件であり、二人がどう対峙していくのかが、最大の見どころとなっています。

見事なミスリードと驚愕の真相

『深い疵』は、全体が2つのパートに分かれています。

まずはオリヴァーとピアによる捜査パートで、ここでは事件の現場検証や容疑者のリストアップなど、刑事たちが奮闘する様子が描かれます。

もうひとつは女性実業家ヴェーラ・カルテンゼーのパートで、彼女は実は被害者たちやナチスとも関わりがあった重要人物。

このカルテンゼー本人や、息子や娘、出入りの建築士たちの行動が、こちらのパートでは描かれます。

2つのパートが交互に入れ替わることで物語が進んで行くのですが、特に興味深いのがカルテンゼーのパート。

一家の面々がそれぞれ怪しい動きをしている上に、隠し子問題が出てきたり、自殺に見せかけた他殺事件が起こったり、とにかくハラハラするようなことが続くので全く目が離せません。

事態はどんどん複雑化し、一体どこに真実が隠されているのか、捜査するオリヴァーやピアはもちろん、読者も一緒に翻弄されることになります。

そして終盤には、この2つのパートがひとつに繋がって真実が語られるのですが、そのシーンは圧巻!

それまでの数多くの伏線がきれいに回収され、意外すぎる犯人が明らかになり「まさかこのような真相だったとは!」と驚愕すること必至です。

それまでのモヤモヤを全て吹っ飛ばし、この上なくスッキリと終らせる手腕は流石!

著者のネレ・ノイハウスさんは、ドイツミステリーの女王と謡われているのですが、その理由が心底理解できるような見事なミスリードと結末となっています。

ミステリー好きには、ぜひ読んでいただきたい一冊です。

「慎重に読んでいたつもりでも、気がつけば幾多の仕掛けにはまっていた」というミステリーならではの心地よい悔しさを、存分に味わってください。

シリーズの試金石となった傑作

『深い疵』はシリーズの三作目ですが、日本では一作目や二作目よりも前に翻訳出版されました。

その理由は、訳者のあとがきによると「作者の真価がわかる今作から紹介」するためだそうです。

つまり『深い疵』は、シリーズの魅力が特に強く出ている作品であり、出版社はこれを日本語版の第一号にすることで、日本でどのくらい評価されるかを試したわけですね。

その結果、一作目や二作目のみならず、四作目以降も続々と刊行されていますから、日本での評価はかなり高かったのでしょう。

もちろん他の国々でも出版され、現在はシリーズ累計1000万部を突破しているほど!

これほどの人気シリーズの試金石とされた今作『深い疵』は、間違いなく秀逸な作品と言えます。

また本書は、ドイツがどのように自国の負の歴史と向き合ってきたかを知るためにも読んでいただきたい本です。

というのも、作中では登場人物のほとんどがナチスを嫌悪し、とことん否定しているのです。

これはつまり戦後のドイツの人々が、世界からの批判の声を真摯に受け止め「ナチス=過ち」という認識と「もう二度と繰り返さない」という強い意志とを持ってきたということです。

この潔い姿勢は、日本にも見習うべき点があるかもしれません。

もうひとつ、『深い疵』で注目していただきたい部分があります。

ミステリー色の強い今作ですが、主人公オリヴァーとピアのプライベート面での描写も多少あります。

しかもかなりセンセーショナルな内容なので、ここはファンなら必見!

チラッとだけお話ししておくと、まずオリヴァーのもとには、奥様が頑張った結果、ある特別な人物がやって来ます。

そしてピアは、前作『死体は笑みを招く』で知り合ったある人物との仲が進展し、時々お泊りをする関係になっています。

ここらのネタは、次回作以降でさらに膨らみそうですので、期待大です!

ぜひ読んでみてください!

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この記事を書いた人

年間300冊くらい読書する人です。主に小説全般、特にミステリー小説が大大大好きです。 ipadでイラストも書いています。ツイッター、Instagramフォローしてくれたら嬉しいです(*≧д≦)

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