月原渉『炎舞館の殺人』- 炎の完全犯罪は何を必要とし、何を消したのか。

時は明治、欠損を抱える若者たちが集まり、陶芸で身を立てる山奥の館。

あるとき突然師匠が姿を消してしまい、残された弟子たちの間で後継者をめぐる確執が生じてしまう。

諍いが決定的となったそのとき、陶芸の窯の中でばらばら死体が発見される。

奇怪なことにその死体からは胴体が持ち去られていた。

その後も次々と、一部が持ち去られた遺体が発見され、容疑は行方不明の師匠にかけられるが……。

内部に窯を持つ異形の館、閉鎖的な空間で続々発見されるばらばら死体、そこから持ち去られた遺体の謎。

そもそも師匠はなぜ姿を消したのか?

犯人はなぜ遺体の一部を持ち去ったのか?

明かされる過去の事件とこの事件との関連とは?

事件と残酷な宿命が絡み、狂気が進んでいく。

月原渉の大人気『館』シリーズの第五作目!

目次

『館』シリーズファンにはたまらない!探偵・シズカの過去が明らかに

いまや月原渉さんを代表する大人気シリーズとなっている『館』シリーズ。

毎回違う館に従事する使用人探偵・シズカが、いろいろな館で起こる事件を解決するシリーズの最新作が今作です。

今作が今までと違ってきているのは、探偵役シズカの過去が少し明かされているところ。

今までの『館』シリーズでは、シズカの詳細はほとんど明かされず、ミステリアスなキャラクターが突き通されてきました。

シズカの過去などもわからない上で、それでも読者はシリーズを楽しんできたのです。

そこにきての突然の今作!

詳しくはネタバレになってしまうので控えますが、彼女の過去が垣間見える本作はファンにとってたまらない展開なのではないでしょうか。

そうはいっても完全にシズカの謎が解けるわけではなく、雰囲気は保たれたまま。

基本的にはどの巻からでも読める『館』シリーズですが、シリーズを初めて読むという方は、他の巻から読んだ方が今作の感動を十二分に味わえるかもしれません。

使用人探偵・シズカの謎も、シリーズの魅力の根幹となっている今作。

これからもその展開から目を離せません。

随所に織り込まれている名作ミステリへのオマージュが楽しい!

「館での密室殺人」と言えば、数あるミステリの中でも特に王道と言える設定の一つ。

○○館、と言って他の推理ものの題名を思い出すミステリファンも多いのではないでしょうか?

本作では、往年のミステリ作品へのオマージュがたっぷり仕込まれており、そこもミステリファンにはたまらないポイント。

ミステリを読んでいればいるほど、随所で楽しめる作品となっているのです。

使用人探偵という設定・毎回登場する特殊すぎる館など、何かと個性的な面がピックアップされることも多いですが、本来は本格ミステリとしての性格も持ち合わせている本シリーズ。

そこに作品へのオマージュが織り込まれるのですから、楽しくないわけではないですよね。

本格ミステリ×個性的な設定×本作へのオマージュ。

ミステリ好きの方はぜひ読んでみてください!

シリーズファン・ミステリファンどちらにも嬉しいシリーズ最新作!

2017年の『使用人探偵シズカ―横濱異人館殺人事件―』の発刊から始まった、この『館』シリーズ。

それから毎年新作が発表され、今作は2021年8月発刊の五冊目と、大きなシリーズとなりました。

今回も、内部に窯を持つ館を舞台に、陶芸を生業とする山奥の集団、連続殺人事件と遺体の持ち去りと、本格ミステリの名にピッタリな雰囲気で物語が進んでいきます。

最後まで読んだときの衝撃と切なさは、これまでの同シリーズの作品と勝るとも劣らず。

そんな内容の面白さ自体もさることながら、本作の大きな特徴となっているのが、探偵・シズカの謎と有名ミステリ作品へのオマージュ。

これまでシリーズを読んできたファンと、これまでたくさんのミステリを読み込んできたミステリファン、どちらも満足できる内容となっているのです。

第20回鮎川哲也賞を受賞して2010年にデビューしてから、2012年を除き毎年新作を発表してきた、本格ミステリの新鋭・月原渉さん。

彼の今年発刊となる本作は、確実にシリーズの集大成の一つとなる作品と言えそうです。

まだ今シリーズを読んだことのない人はぜひ第一作目から、読んだことのある人はすぐにでも、今作を読んでみてください。

とはいえ、シズカの謎もシリーズの展開もこれからどんどん繰り広げられていくはず。

今のうちに今シリーズにはまっておくのがおすすめです!

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この記事を書いた人

年間300冊くらい読書する人です。主に小説全般、特にミステリー小説が大大大好きです。 ipadでイラストも書いています。ツイッター、Instagramフォローしてくれたら嬉しいです(*≧д≦)

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