『江神二郎の洞察』は学生アリスシリーズファン必読の名作短編集です!

学生アリスシリーズファンには最高の短編集、というと「逆にファンじゃないと楽しめない」と思われてしまうかもしれませんね。

なので、先に断言しておきましょう。

『江神二郎の洞察』はシリーズファンのみならず、一つのミステリ短編集として名作である、と。

収録されている短編一つ一つがものすごいクオリティを誇っています。はっきり言って贅沢すぎです。

そんな最高の短編集『江神二郎の洞察』の文庫版が先日発売しました!!やっほい!!( ゚∀゚)

単行本で既読済みですけど(しかも金欠なのに)買っちゃったよ!

早速あらすじを簡単に見てみましょう!

 

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目次

『瑠璃荘(るりそう)事件』

どこか鮎川哲也さんの『りら荘事件』に語呂が似ていますが、内容は全然違います。

『瑠璃荘』というのは、英都大学推理小説研究会(EMC)のメンバー望月の住んでいる下宿先の名前。

そこで、先輩から借りた講義ノートが盗難にあい、犯人として望月が疑われているようなのです。理由は単純。その時間、下宿先にはその先輩と望月しか居なかったから。

「これから僕らが調査するのは、瑠璃荘事件ということですね」

「それだけ聞いたら山荘で起こる華麗な連続殺人みたいやな。しかし、実態はあまりにも日常的でささやかな事件や」

P.27より

瑠璃荘に入居しているのは、ノートを貸してくれた先輩と望月の他に、下条と高畑の二人。しかしこの二人にはアリバイがあり……。

はたして、犯人は誰なのか。


まさに、華麗なるアリバイ崩し。事件現場がキャンプ場でも孤島でも山奥でなくても、江神部長の推理は論理的で美しい。

これが学生アリスシリーズの魅力ですわ。「講義ノートの盗難」という連続殺人事件に比べればささいな事件でも、ミステリー小説としても面白さは全く変わらないんですから。

 

『桜川のオフィーリア』

英都大学推理小説研究会(EMC)を設立した張本人・石黒(二年前に卒業)がアリス達の元にやってきた。ある写真を持って、相談をしに。

石黒が十七歳の時、同級生の宮野青葉という少女が川で死んだ。状況から見て事件性はないらしく、自殺と判断された。

石黒がいま手に持っているのは、その宮野青葉の死体の写真。しかも陸にあげられる前の。つまり、この写真は死体が発見されて騒ぎになる前に撮られたものということ(死体発見後は、このような写真をとる隙なんてなかったため)。

そんな写真が、石黒の友人である穂積(ほずみ)の家から出てきたのだった。

穂積はなぜ、このような死体の写真を持っているのか。こんな写真を取れるのは、殺害した犯人しかいないはず……。


切ない!!!!!!

いやしかし、めちゃくちゃ好きですこの話。

学生アリスシリーズに限らず有栖川有栖さんの短編って数多くありますけど、その中でも屈指の名作短編です。これはほんっっっとうに読んでみてほしい。

なんでしょうこの読後感は。何から何まで美しい。

『四分間では短すぎる』

タイトルでピンとくる方もいらっしゃるでしょう。

ハリイ・ケメルマンの代表作『九マイルは遠すぎる (ハヤカワ・ミステリ文庫)』をモチーフにしたお話です。

アリスが駅の公衆電話で、

「四分間しかないので急いで。靴も忘れずに。……いや……Aから先です」

P.188より

と、隣の男性が喋っていたのを耳にします。

電話で喋っていたのはその一言だけ。わずか十秒ほどです。全く意味がわかりません。

そこで、この言葉の裏には何の意味が隠されているのか?というのをEMCのメンバーで推論していくわけです。

その名も、『九マイルは遠すぎる』ゲーム。


これもとっても面白い短編。ミステリとしても、物語としても最高でした。

モチーフとなった『九マイルは遠すぎる』は、

「九マイルもの道を歩くのは容易じゃない、ましてや雨の中となるとなおさらだ」

というこれだけの文章から推論に推論を重ね、まさかの事実にたどり着くという言わずと知れた名作です。読んでおいてまず間違いはありませんよん。

ただこの『四分間では短すぎる』も同じくらい好きな短編。

『開かずの間の怪』

二年前までは病院だった洋館も今やすっかり廃墟。しかも三階のとある部屋は、板を打ち付けてあり「開かずの間」になっているという。

さらには幽霊の目撃情報なんてものもあるのだから、EMCメンバーは揃いも揃って幽霊探索にやってきたのでした。

しかし開始してすぐに織田が腹痛で退場。残った三人で仕方なく探索を続けていると、どこからかポルターガイストらしき物音が!

最初はびっくりしていたアリス達も、これは退場したと見せかけた織田のイタズラだと確信するーー。

「うわあ!」

理解できないものを見た僕たちは、揃って絶叫した。

開かずの間の隣、さっきまで僕たちがいた部屋のドアが開いて、そこからおかっぱ頭の幼い子供の顔が覗いていたのだ。生気のない死人のような、それでいて口を三日月形に開いて笑っている男児の顔。

P.261より


これもかなり好きな短編。最後とかニヤニヤしっぱなしでした。

怯えているアリス&望月を想像してニヤニヤ。彼らのやりとりがいちいち面白い。やっぱりEMCのメンツが好きだなー、としみじみ思います。

やっぱりね、学生アリスシリーズは「ミステリー小説」であり「青春小説」なんですよ。いいなあ、こういう青春。

 

その他、アリスと江神が語り合いながら延々と歩く場面を書きたかった、という理由で書き下ろされた『徐夜を歩く』や、EMCとマリアの出会いを描いた『蕩尽(とうじん)に関する一考察』など、シリーズ好きにはたまらない短編が収録されています。

ええ、最高です。

読む順番は?

この短編集『江神二郎の洞察』が最初に発売されたのは、

①『月光ゲーム―Yの悲劇’88 (創元推理文庫)
②『孤島パズル (創元推理文庫)
③『双頭の悪魔 (創元推理文庫)
④『女王国の城 上 (創元推理文庫)

という四つの長編が発売されたあとです。つまり学生アリスシリーズの五作目というわけですね。

なので一番良いのは、四つ長編を読んだあとに『江神二郎の洞察』を読むことだと思われます。

しかしながら、『江神二郎の洞察』に収められている短編は、アリスがEMCに入会するところから、長編二作目『孤島パズル』で登場するシリーズのヒロイン・マリアがEMCに加入するまでの出来事です。

なので正直言いまして、学生アリスシリーズを全く読んでいなくてもこの短編集はすごく楽しめるでしょう。

でも!!!やっぱり長編を読んでEMCメンバーを好きになってから読んで欲しいというのが本音です!!

さあ!この機会に全作品を読んでしまいましょう!

レッツ!学生アリスシリーズ!

WE・LOVE・EMC!

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この記事を書いた人

年間300冊くらい読書する人です。主に小説全般、特にミステリー小説が大大大好きです。 ipadでイラストも書いています。ツイッター、Instagramフォローしてくれたら嬉しいです(*≧д≦)

コメント

コメント一覧 (6件)

  • 出たぁ〜、珠玉の短編集ですよね。メンバーの雰囲気が好きでたまりません。完成度も高いのですから、まさに最高ですよね。買ったそは日に一気読みしてしまいました。そんな江神先輩たちの物語が、もう少しで終わってしまうのは悲しくてなりません。が、早く次の作品が読みたいとも…。複雑な心理を忘れるために、「洞察」を読んで、身も心も癒したいと思います(笑)

    • 出ちゃいました〜!ほんっっっとうに最高ですこの短編集。EMCのメンバーが好きすぎてもう。。しかもクオリティ高いし。。
      あと長編一作と短編集一作らしいですけど、嘘だと言ってほしいです。ずーっと読んでいたい。
      ほんと複雑ですよねー。早く読みたいけど終わってほしくないという究極のジレンマが。「洞察」を読んだらまた学生アリスシリーズが再熱してきて大変です。困った困った(ノω`*)

  • 買いました!
    現行のシリーズもので、他の追随を許さず最も期待値が高く待ち遠しいシリーズです(館と裏染天馬と矢吹駆が後に続く)。
    でも読み終わった頃に必ずあと少しで終わる事を思って切なくなる・・・。
    ミステリとしての質の高さは勿論の事、登場人物達が本当に愛おしいシリーズです。
    学生アリスシリーズは全作品が、作家人生の中でその内の一つでも書ければ歴史に名を残す程の名作だと思っています。
    シリーズの平均点という意味では、ミステリの歴史上No.1ではないでしょうか。

    今、以前ご紹介されていた「シャーリー・ホームズと緋色の憂鬱」を読んでいます。
    あとは一緒に収録されている短編だけですが、とても面白かったです。
    キャラが立っているので何も知らなくても楽しめる作品ですが、ホームズを知っているとさらに面白いですね。
    もう読み終わるので、その後は「洞察」です。
    ああ、楽しみ。

    • おお!やはり買っちゃいますよね!
      私にとっても非常に待ち遠しいシリーズであり、終わってほしくないシリーズでもあります。
      本当にEMCメンバーが好きすぎて、彼らの活躍をずっと見ていたい気持ちにさせてくれるんですよね〜。。それでいてミステリの質がとっても高い。これ以上なにを望めというのでしょうか!
      《シリーズの平均点という意味では、ミステリの歴史上No.1ではないでしょうか。》
      わかります。本当にそうだと思います。これほど毎回安定したクオリティを誇るシリーズってすごいですよね。
      おおお!『シャーリー・ホームズと緋色の憂鬱』!個人的にお気にの作品です。彼女たちのキャラがすごく好きで、密かに続編を期待してるんです♪
      ふふふ。ぜひ「洞察」を楽しんでください。何度読んでも面白いです(ノω`*)

  • 文庫版ではじめて読みました。
    これはもう堪らないですね。昭和から平成に移り変わる時代の空気が充満していて、自分は歳を取る一方なのにアリスたちは変わらずあの時に生きてるというのがもう……。
    ブログに書いておられた桜川や雨の街角、京都の風情などの情景描写にもうっとりです。
    月光ゲームのこともあり、作中では探偵の無力さや限界などが語られますが、最後の江神さんとEMCメンバーの活躍がもやもやを吹き飛ばしてくれました。マリアがぽつりと漏らした言葉が印象的です。
    『九マイルは遠すぎる』をアマゾンで注文してしまいました。

    • いやあ、本当にたまらないですよね、これ。
      アリスたちの活躍を一生見ていきたいと思わせる名作短編集だと思います。なんでしょうね、この彼らが作り出す空気感。EMCのメンバーが好きだなあ、改めて思わされました。
      学生アリスシリーズを読んだことがない方にも読んでみてほしいですけど、やはり長編を読んでから読むと一層面白いんですよね。
      『九マイルは遠すぎる』は買って正解ですよ!ぜひ楽しんでください( ´∀`)

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