1940年代、ソ連とドイツが血みどろの戦いを日夜繰り広げていた時代。
モスクワ近郊の農村が、突如ドイツ兵に襲撃される。
たった一人生き残った少女セラフィマは、強姦寸前のところを赤軍の女兵士イリーナに救われる。
「戦いたいか、死にたいか」
との問いにセラフィマは、復讐を誓い、戦いに生きることを決意する。
血反吐を吐くような訓練を経て、凄腕の狙撃兵になったセラフィマ。
次々に戦果を挙げ、殺した数を誇る殺戮マシーンへと変貌していく。
みるみる失われてゆく人間性。その中で芽生えていくひとつの疑問。
「何のために戦うのか」
国のため?復讐のため?
それとも、何かを守るため?
やがてセラフィマは、自分にとっての真の敵を見出す。
圧倒的な戦闘描写!まるで映像のようなリアリティ
『同志少女よ、敵を撃て』は、第二次世界大戦を舞台とした物語です。
戦争モノということで、戦闘シーンが多く登場します。
そのどれもが秀逸!
文字を追っているにもかかわらず、まるで映画やアニメを見ているかのようなリアリティがあります。
飛び交う銃弾、湯気がもうもうと立ち上る血の海、兵士たちの苦悶の表情。
それらが映像となって、頭に浮かんできます。そのくらい描写が丁寧で、真に迫っているのです。
手に汗を握るとは、まさにこのこと。読み手は序盤から、グイグイとこの世界へ引き込まれていきます。
特にリアルなのは、狙撃の描写。
狙撃ですから、勝負は一瞬。ゼロコンマ何秒という世界で、生か死かが決まります。
当然、潜伏場所が先にバレた方が負け。だから行動中は、常に死と隣り合わせ。
この緊迫感が、行間からジリジリと迫ってきます。
まるで心臓を掴まれているかのように緊張し、つい息を殺しながら読んでしまう人も多いのではないでしょうか。
その中でも、市街地スターリングラードでの攻防は圧巻!
戦場という異常なフィールドのスリルや生々しさを、圧倒的な臨場感をもって追体験させてくれます。
戦場で失われる人間性と、芽生える葛藤
『同志少女よ、敵を撃て』は、戦争モノではありますが、ドンパチやって終わりという単純な物語ではありません。
復讐や友情、性差別といった、様々な要素が絡んできます。深く重い人間ドラマなのです。
その中でもとりわけ見どころと言えるのは、主人公セラフィマの葛藤です。
セラフィマは最初、農村で暮らす心優しい少女でした。
しかし村が襲撃され、母親も村人も目の前で死に、自らも殺されそうになり……。
その窮地において、生き延びるために選んだ道が「戦い」でした。
戦うしかないじゃないですか。
あどけない少女でも、この状況で生き抜くには、心を殺し、人を殺すしかない。
この選択があまりに痛々しく、だからこそ読み手は物語に没頭し、ページをめくる手を止められなくなります。
救いを求めるかのように。
そしてセラフィマは訓練学校に入るわけですが、そこでも悲しみのドラマが繰り広げられます。
同士はみんな少女で、それぞれが過酷な経験やドラマを持っていました。
しかし壮絶な訓練に耐えきれず、一人、また一人と脱落していきます。
そして残った仲間たちの命も、実戦では当然のように、次々に失われていく……。
この展開は本当に胸が痛み、やるせない気持ちになります。
どうしてこんな愛らしい少女たちが、これほどまでに残酷な運命を背負わなければならないのだろうか、と。
この戦場という異常なフィールドの中で、セラフィマの心はどんどん凍りついていきます。
命の重みを忘れ、殺戮するだけの怪物に変わっていくのです。
でも、人としての心が完全になくなったわけではありません。だからこそ、新たな葛藤が生まれます。
自分は本当は、何と戦うべきなのか。真の敵とは、一体何なのか。
その答えは、ラストで明らかになります。
読み手をあっと言わせるほどの、衝撃的な結末です。
しかもその結末は読み手に、あるテーマを投げつけてきます。この物語の真髄とも言える問いかけです。
セラフィマの出した答え、そして本書の真のテーマ。
どちらも、ぜひご自分の目で確かめてみてください。
渾身の力作!壮大なカタルシスをぜひ感じてほしい
逢坂冬馬さんの『同志少女よ、敵を撃て』をご紹介しました。
戦場のリアルな描写に加え、これでもかこれでもかと胸をえぐり続けてくるストーリー展開。
読者に息をつかせる暇なく読ませていく、非常にパワーのある作品と言えます。
驚くべきことに『同志少女よ、敵を撃て』は、逢坂冬馬さんのデビュー作です。
第一作目で、これですよ。末恐ろしいものを感じますね。
さらにこの作品、第11回アガサ・クリスティー賞大賞に選ばれました。
しかも選考委員が全員満点をつけたという、前代未聞の受賞!
その後、第166回直木賞の候補作にも選出され、書店では飛ぶように売れ、あっという間に発行部数は7万2000部に!
この異例の評価と評判が、『同志少女よ、敵を撃て』がいかに傑作であるかを物語っていますね。
それでいて、決して堅苦しくはなく、読みやすい。
テーマが重くても文章のテンポは良く、本当にアニメ映画を見ているような感覚で一気に楽しめます。
外国の史実が絡んできますが、予備知識がなくてもスムーズに読めますので、ご安心を。
そしてラストで繰り広げられる驚愕の展開が、また秀逸です。序盤から随所に散りばめられていた伏線が、一気に回収されるのです。
この鮮やかさは、戦争モノでありながらも、ミステリー小説を思わせます。
「なるほど、そうだったのか!」と読者をうならせてくれるのです。
本書が、長編推理小説を対象とするアガサ・クリスティー賞を受賞したのも、この颯爽とした終盤展開ゆえでしょう。
この渾身の力作『同志少女よ、敵を撃て』、ぜひ手に取り、壮大なカタルシスを感じてください。
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