誰でもたまに、無性に平山夢明さんの作品を読みたくなる時あるじゃないですか。
あの狂気的な世界に飛び込んでみたくなる瞬間があるじゃないですか。
そんな時は、『デブを捨てに』『ヤギより上、猿より下』を2作一緒に読めば解決するよ!という話です。

『デブを捨てに』
4編からなる短編集です。
1.「いんちき小僧」
思わず「どういうことだ?」と顔をしかめてしまう話。
あらすじをどう説明すればいんだろう。
まず、キャラメルを万引きしたおれが公園で女にビンタされている。
そしたら前歯のない男に「キャラメルをくれ」と言われ、あげたら「甘いからキャラメルは嫌いだ」なんて呟かれる。
さて帰ろうとしていたら、さっきキャラメルをあげた男が首を吊っていたので、とっさに助けるおれ。
助けられた男は散らばったキャラメルをほどんど口に放り込んで、おれにめがけてブッと吐き出した。
これからキチザという小僧が現れて、男と一緒にある仕事をすることになるのだが……。
んんん。わけわからん。
とりあえず狂っているとしか言えない。
2.「マミーボコボコ」
同じ現場で働いているおっさんに相談を持ちかけられるカモやん。
35年前に捨てた自分の娘から「逢いに来てほしい」という手紙をもらったのがだ、一人でいく勇気がないから一緒に来てくれという。
詳しく話を聞くと、感動の再開の様子を撮るらしく、テレビ局の取材も入ることがわかった。
いざ家についてみると、娘一家は7男5女の子どもがいる大家族。
これが悪夢の始まりだった。
よくある大家族番組をテーマとした話ですね。
ユーモアと狂気の混ざり具合が絶妙。
平山さんの皮肉り具合が面白いです。
3.「顔が不自由で素敵な売女」
とあるお店で、チョチョミという強烈な女性と出会った。
女はたったそれだけで、ひどく嬉しそうな顔をになに身を起こすと頭を触りカチカチ音をさせ、そのままペロリと頭皮を剥がすと携帯の脇に置いた。女の頭は天辺が丸く禿げていた。夏の日のコーヒーフロートそっくりだった。
P.89より
つまりめちゃ頭がハゲていた。
それから、知り合いのマンキューが経営している呑み屋『でべそ』で飲むのが習慣となる。
経営者マンキューと主人公、チョチョミの3人はすぐに仲良くなりました。
しかしある日、「ウチダユキ」が好きだと言う男が現れたことにより、マンキューが追い詰められていくことになる。
マンキューを脅かすこの男は何者なのか。
謎の男の出現で友人のマンキューが大変な目に。
チョチョミはチョチョミで、ヒモに耳をかじり取られたりと大変なことにあう。
さあチョチョミがとった行動は。
っていうお話で相変わらず狂っているんですけど、読後は謎の爽快感に包まれます。
平山さんの作品の中でもシンプルでスカッとしたわかりやすい短編ですね。かなり好きです。
4.「デブを捨てに」
借金の返済期限を守れなかった俺は、火の気のない修理工場に連れて行かれ、ボコボコにされる。
さあ、ではこれから腕をおりますよ、という時に、相手から「腕とデブ、どっちがいいか」と聞かれる。
わけのわからない質問だったが、腕を折られるよりマシだろうを「デブ」を選択する。
その「デブ」の内容とは、とあるデブな女性を車に乗せて「処分屋」のところまでいき、デブを引き渡すという内容だった。
簡単に思える話でしたが、まさかこんな珍道中になるとは思いも寄らず。。。
タイトル通り「デブを捨てに」行くだけのお話なんですが、なんでこんなに面白くなるのでしょう。
汚さに満ち溢れているのに、読んだ後は壮大なロードムービーを観たような、感動と切なさが混じり合った感情に浸ることになります。
なぜだ。なんでこんないい話になっちゃうんだ。しかもスカッとするし。
平山さんの短編は山ほど読んで来ましたが、トップクラスに好きな短編です。
『ヤギより上、猿より下』
短編3篇と、中編くらいの表題作1編。
1.「パンちゃんとサンダル」
父親に暴力を振るわれる母を見守る少年の日常を描く、痛くてスカッとする話。
最後の方のアレには絶望しましたけど、少年が成長したってことでいいんですかね。最後は「めでたし、めでたし」で終わってるし。
いや、何がめでたいんじゃーい!!と全力でツッコミを入れましょう。
2.「婆(ババ)と輪舞曲(ロンド)」
娘が行方不明になって30年、すっかり頭がボケてしまった婆さんに付き合う主人公。
婆さんは今でも街に聞き込みをしたり、昨日娘から電話が掛かってきたなんて言っている。
妄想もいい加減にしてほしい、と思ってた矢先、主人公もある事件に巻き込まれてしまう。
シンプルで強烈な切れ味の短編。
衝撃的な後味でしばらく「うわあ」ってなる。
3.「陽気な蝿は二度、蛆を踏む」
殺し屋を主人公としたハードボイルド・アクションでありながら、相変わらずの狂気とユーモアの融合が楽しい一編。
最後は泣ける。なぜか知らないけど涙がでる。
4.「ヤギより上、猿より下」
舞台が売春宿であり平山作品なので、下品な単語しか出てこない。しかもあらすじが書けない。
読めば「何がヤギより上で猿より下なのか」がちゃんとわかります。
ね?知りたくなっちゃうでしょ?「何がヤギより上で猿より下なのか」。
まあ深い意味はないですが、狂っていることだけは確かです。
でもさすが表題作、一番面白いです。
両方読んじゃいなよ!

シリーズモノっぽいですが、続編ってわけではないのでどちらから先に読んでも大丈夫です。
でも両方の全短編合わせて一番好きなのは「デブを捨てに」かなあ。
平山さんといえば残酷さが良いのですが、最終的に良い話っぽく終わるパターンもあるから油断できないですよね。
相変わらずヒドイ人物しか登場してきませんが、なぜか憎めないし。
というか、『独白するユニバーサル横メルカトル (光文社文庫)』や『ミサイルマン (光文社文庫)』、『他人事 (集英社文庫)』の頃の平山作品よりもマイルドになってます。
グロさも残酷さも控えめです。一応これでも。
これをマイルドって言うのも変ですけどね。
『独白する〜』『ミサイルマン』辺りは無理だった人も、『デブを捨てに』なら読めるんじゃないかな。
責任はとりませんけど!!

はじめまして
いつも更新を楽しみに拝見させていただいてます
平山作品は『ダイナー』や『ロケットマン』、『他人事』などで知りました
平山作品の言い知れない奇妙さが好きです
『デブを捨てに』面白そうですね
今度の機会に読んでみます
また同じホラー ? の系統で、三津田信三の刀城言耶シリーズなどの特集を密かに期待しております
これからもブログ更新頑張ってください
ダイサンさんはじめまして!
いつも見ていただいているとのことで、大変嬉しく思います。本当にありがとうございます。
『ダイナー』『ロケットマン』『他人事』などが好きであれば、きっと『デブを捨てに』も気に入っていただけるはずです!ぜひぜひ。
三津田信三の刀城言耶シリーズ好きなんですね!実は私も大好きなんです。特に3作目の『首無の如き祟るもの』は最高です。
http://300books.net/kubinashinogotokitatarumono/
実はすでにシリーズの読む順番などの記事を書いちゃったのですが、内容が薄いのでまた新しく書き直しますね!
よろしくお願いいたします〜(*´ω`)