物語の主人公は4人の女性。
千夏子はネットでの称賛を得るために、嘘の育児ブログを書き綴る毎日を送っていました。
一方で結子は新婚でありながら年下の夫との性生活に悩みを抱えていました。
春花は恋人と結婚することだけを夢見て、職場でのストレスを過食で解消していました。
そして柚季は幸せな家庭の中で過ごしているように周囲からは思われていました。
闇を抱えているのはこの4人の女性だけではなく、彼女たちを取り囲む人物たちも同様です。
これらの問題が複雑に絡み合い、事件が発展していきます。
それぞれはどのように展開していくのか、最後に彼女たちの問題は解決するのか、ラストまでページをめくる手が止まらない一冊です。
宮西真冬『誰かが見ている』
生きることの難しさを繊細に描く心理サスペンス
働きながら育児をすることの難しさ、どれだけ努力しても認められることのない家事、理解のない夫、輝いて見える他人の人生などなど、現代に生きる女性なら誰しも経験し得る問題を明確に描いています。
読んでいて思わず胸が痛くなる、目をそらしたくなるような描写もありますが、それぞれの問題が絡み合っていく様子にはハラハラドキドキが止まりません。
女性が読んでも共感を感じる部分がたくさんありますが、男性にもぜひ読んでほしい一冊です。
男性が何気なく発している一言も女性に消えない傷を残しているかもしれません。
夫婦という共同生活をこなすためには女性が我慢すればいいというわけではなく、男性も女性の立場を考えることが大切なのだと痛感させられました。
途中まではこのように4人の登場人物の悩みや苦しみが繊細に描かれており後味が悪い作品なのでは…と思ってしまいますが、読み進めるにつれてどんどん登場人物を応援したくなります。
ラストは希望も感じられて、爽やかな風が吹くようでした。悩みを抱えていない人なんていない、こんな人生でも捨てたものではないと思える作品です。
4人の視点で物語が進み、それぞれで物語が成立するほど作りこまれています。
登場人物も多く、意外な人物が別の主人公とつながっていたりもするので読み飛ばさずきちんと把握していかなければなりません。
最初は慣れるまで大変かもしれませんが、それぞれの人物像をきちんと把握しながら読み進めていきましょう。
こんな事件が自分の周りでも起きているかもしれない、自分もこうなるかもしれないと思いながら読んでみても楽しいでしょう。
メフィスト賞受賞のデビュー作!
宮西真冬氏は今作品でメフィスト賞を受賞しデビューしました。
今作品で宮西氏のことを知ったという方も多いのではないでしょうか。
メフィスト賞はミステリーやファンタジー、SFなど幅広いジャンルに対応している新人賞ですが、今作のような本格的なミステリー小説が賞を受賞するのは珍しいことでした。
メフィスト賞の発表を毎年楽しみにしているという方には少し意外な作品かもしれません。
本格的なミステリー小説を読みたいという方にも満足していただける一冊です。
インターネットやSNSの発展によって、自分の人生と他人の人生を簡単に比較できるようになりました。
その息苦しさや女性同士の確執、夫婦生活のすれ違いなど、誰もが共感できるポイントにスポットを当てているのも高く評価された理由の一つです。
宮西氏はその後『首の鎖』、『友達未遂』などの作品を発表しています。
2017年にデビューしたばかりの新人作家ですが、繊細な心理描写や巧妙なトリックなどがすでに話題となっており、今後が楽しみな作家でもあります。
今作が気に入った方は、他の作品もぜひチェックしてみてください。
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