国内ミステリー小説

市川憂人『断罪のネバーモア』- 警察小説と本格ミステリーが奇跡の融合を果たす

度重なる不祥事から警察の大改革が行われた日本。

変革後の警察にブラックIT企業から転職した新米刑事の藪内唯歩は、茨城県つくば警察署の刑事課で警部補の仲城流次をパートナーとし殺人事件の捜査にあたります。

しかし刑事課の同僚たちの隠しごとが唯歩の心を曇らせ、7年前の事件が現在の捜査に影を落とす。

ノルマに追われながらも、持ち前の粘り強さで事件を解決した先に、唯歩を待ち受ける運命とは。

本格的な近未来犯罪捜査ものの物語が、後半でミステリー展開になるという警察小説と本格ミステリーを掛け合わせた、凝った作りの本作。

警察の不祥事が多数明るみになり、警察制度の大改革が行われた近未来の日本が舞台となっており、斬新かつ新解釈の警察モノのミステリー小説を読むことができるというのが一つの魅力となっています。

そして隠蔽体質の同僚達や、見え隠れする7年前の事件など複雑な相関図が交わり物語をかき回すため、二転三転する展開には、どんな落としどころが待っているのか予想することができません。

ページをめくるごとに明かされる真実や、そこに至るまでの物語の流れに、読者は大いに驚かされることになるでしょう。

読み進めるにつれて物語の世界観に呑み込まれていく

物語の全体はリアルな警察小説なのですが、中盤から終盤にかけての怒涛の展開は端正な本格ミステリーとなっており、しっかり作り込まれた世界観はとても中毒性があります。

そのため、警察モノの雰囲気の中で本格的なミステリーを楽しむことができるというのが魅力となっています。

本格的でありながら短編形式で進むためとても読みやすく、1話解決モノと見せかけて実は各話繋がりを持っている……という複雑な展開になるため、楽しく騙されながら読み進める形になります。

複雑な因果関係にある登場人物たちのあいだで起こる事件は、警察という社会の中での男尊女卑や、偽装工作など組織の薄暗い部分を追求していく描写を織り交ぜつつ、巧妙に仕組まれた謎がいくつも散りばめられているため、思わず唸ること間違いなしです。

翻弄させられる展開や、最後まで読み終えた時点で明かされる事件の意外な真相、白黒が反転する予想のはるか上を行く結末となるため、物語の世界観に呑み込まれながら、話に振り回されるような楽しさを感じられることでしょう。

自己肯定感が低い主人公を応援したくなる雰囲気と真相の破壊力

主人公である唯歩は自己肯定感の低さから失敗を重ねてしまうのですが、それでも正義を追い求め賢明に前を向いて奔走しする姿に思わず「頑張れ、負けるな!」と応援したくなることでしょう。

真実を追い求めることは被疑者を踏みにじる行為ではないのか、自分のやっている捜査は欺瞞ではないのか……と迷い苦しみながら真実を追い求め、失敗を重ねながら、それでも腐った組織の中で己の正義に従い解決へと奔走していく姿に、主人公の背中を後押ししながら掛け声を送りたくなること必須です。

主人公が仲間の怠惰ぶりに心を曇らせながらも粘り強く解決へと向かった結果、とんでもない方向へ転がっていく展開は、どんな落としどころが待っているのか予想できません。

最後までこの設定ならではのストーリーが展開していくため、掛け合わせ小説ならではの独特の雰囲気と、ラストのどんでん返しに驚かされる“主人公を応援したくなる警察小説でありながら本格的なミステリー小説”である魅力が、本作には詰まっているといえるでしょう。

白黒が全反転する奇跡の終盤に瞠目せよ

小説でしか味わうことのできない独自の世界観を確立し、警察小説と本格ミステリーの魅力が存分に詰め込まれている本作。

発売されたばかりですが、すでに掛け合わせ小説の傑作として絶大な評価を得ており、警察小説やミステリー好きはもちろん、本格的な掛け合わせ小説を読みたい方にとってはもはや必読と言っても過言では無いでしょう。

物語は社会派でありながらも巧妙に仕組まれた謎、読み進むと最終的に反転する特殊な展開など、警察小説と本格ミステリーの良いとこ取りな設定と題材が目白押しです。

リアル警察小説が軸となる中で中盤から後半にかけて本格ミステリーの雰囲気を放つ中、謎がパズルのように散りばめられています。

そして一旦解決と見せかけて違和感を残しながら各話を読み進めると、事件の内容も数々の矛盾が明るみになるため、ジグソーパズルがはまっていくかのような展開が待っています。

読み進めるにつれて情報がどんどんアップグレードされる展開は、胸が熱くなる事間違いなし。

警察小説とミステリー小説を掛け合わせた作品に興味が無くても引き込まれるほどに、本書は“リアル警察小説”そして“本格ミステリー小説”としての面白さも十分に兼ね備えているのです。

ミステリー好きの方、他とは一味違う掛け合わせ小説に興味が湧いた方、ただただ読み応えのある小説を読みたい方など、読書が好きな方は読んで損はないハズ!

新刊が出版されたこのタイミングで、ぜひ一読してみてください。

他にも、『ジェリーフィッシュは凍らない』から始まる 〈マリア&漣〉シリーズもとってもおすすめです。

気になった方は是非!

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