夫と共に新居に引っ越してきたヘンは、隣人マシューに食事に招かれた時、ある物を発見して愕然とする。
それは、2年半前に殺された高校生ダスティンのトロフィーだった。
犯人が現場から持ち去ったと言われていたのに、なぜマシューの家に?もしやマシューがダスティン殺しの犯人なのか?
疑念を抱いたヘンは、独自に調査を開始。そしてマシューが新たに人を殺している決定的瞬間を目撃し、彼が殺人犯だと確信する。
ところがヘンがいくら夫や警察に事を伝えても、彼女が双極性障害を患っていることから、なかなか取り合ってもらえない。
ヘンはどうすれば、隣人が殺人鬼であることを周囲に信用してもらえるのか。
衝撃の展開が続き、真実に見えていたことが二転三転するスリルフルなサスペンスミステリー!
スリルを圧倒的に高める複数の視点
もしも隣家の人が殺人犯で、家族や警察に言っても信じてもらえない時、あなたならどうしますか?
『だからダスティンは死んだ』は、まさにその状況に陥った主婦ヘンリエッタ(愛称ヘン)を描いた物語です。
見どころは、次から次へと問題が起こり、ヘンも読者もギョッとさせられ続けるところ。
引っ越し早々に隣家で殺人の証拠品を見つけてオロオロし、翌日にはそれが完全に隠されていてゾッとして、調べてみたら隣人が実際に殺人を犯しているところを目撃してしまうとか、息をつく暇もないほど怖い急展開ですよね。
その上このことを夫も警察も信じてくれないので、ヘンはますます苦しみ、不安になっていきます。
しかも面白いことに、『だからダスティンは死んだ』では時々視点が切り替わり、読者にはマシュー側の状況や考えもわかるようになっています。
たとえば、マシューはヘンが自分を殺人犯と疑っていることを察知し、彼女が精神的に不安定であることを逆手に取って、警察に「ヘンの言うことは信用できない」と根回しします。
ヘンが警察に取り合ってもらえないのはそのせいですし、読者はこの裏事情を知っているからこそ、よりハラハラしながらヘンの行動を追うことができるのです。
ちなみにヘンの夫ロイドの視点もあるのですが、それを読むとロイドがいかに頼りにならないかが、よ~くわかります。
これが一層、ヘンが孤立無援でヤバい状況であることを示し、読者に冷や汗をかかせてくれるのですよね。
この不安をあおりまくる視点切り替え、絶妙です!
このように『だからダスティンは死んだ』では、複数の視点によってスリルや緊迫感が大幅にアップしています。
また各人物の語りに妙に真実味があるので、「もしやロイドやマシューの言っていることが正しくて、全てはヘンの病的な妄想ではないか?」とすら思えてくるのが見事。
「誰が真実を言っているのかわからない」という暗闇感が、読者をますます緊張させ、物語の深みへと引き込んでいきます。
犯罪者と目撃者の奇妙な関係
物語が進むと、ヘンとマシューとの間に意外な関係ができ、読者はさらにギクギクしながら読むことになります。
マシューの立場なら、自分を殺人鬼と知っているヘンを始末しそうなものですが、なんとむしろ逆で、彼はヘンに自分の犯行について詳細を打ち明けるのです。
なぜなら、ヘンがたとえ通報しても、信用されないとわかっているから。
つまりヘンになら安心して打ち明けて、スッキリすることができるわけですね。
いや~、えげつないけど、面白すぎます!
信用されない目撃者と、それを嘲笑うかのように目撃者に全てを告白する殺人犯。
しかもマシューは、打ち明けることで精神を保っているようなフシがあり、ある意味ヘンに依存しているのですよね。
ヘンはヘンで徐々にマシューへの理解を深めていくし、この不思議な人間関係に、読者はもうドキドキヒヤヒヤして、全く目を離せなくなります。
しかも視点人物がだんだん増えていき、これがまた面白さに拍車をかけます。
たとえばマシューの妻マイラですが、自分の夫が隣家の妻と何やら密談的な交流をしていれば、そりゃ~心中穏やかではなくなり、色々と考えてしまいますよね。
それから、マシューの弟であるリチャードの視点。
これがまた胡散臭いというか、違和感がありまくるというか、とにかく気味悪いです。
この視点に読者はかなり振り回され、真相から遠ざけられてしまうのですが、だからこそ五里霧中っぷりを楽しませてもらえるとも言えます。
終盤に真相が明かされた時には、もうビックリの極致!
全ての辻褄が合い、電撃を受けたかのような感覚で、ラストシーンを迎えることができます。
歪んだ人による狂った世界がクセになる
作者ピーター・スワンソン氏はアメリカの人気作家ですが、日本でも「週刊文春ミステリーベスト10」や「このミステリーがすごい!海外篇」で上位にランクインしており、注目を集めています。
なぜ人気なのかというと、心理描写が実にきわどくサスペンスフルであり、特にどこか歪んだ人間を描かせたら天下一品だからです。
過去作の『そしてミランダを殺す』しかり、『ケイトが恐れるすべて』しかり、登場人物たちは皆どこか異常な部分を持っており、それが歯車をみるみる狂わせていく感じが、読者をたまらなくゾワゾワさせてくれるのです。
今作『だからダスティンは死んだ』の場合、ヘンも精神的に病んでいますが、犯人も明らかに価値観が異常で、その思考は限りなくエゴで、行動は極めてグロテスク。
この常人では推し量りようのない不気味さが、一種の毒や珍味のように読者を虜にするのですよね。
一度読んだらクセになって、この歪んだ世界をますます覗き込みたくなってしまいます。
ミステリーとしても魅力的で、犯人は最初から分かっているようなものですが、ダスティンやリチャードなど不透明な部分を持つ人物が多く、その謎を追う楽しみは紛れもなく極上レベル。
ハラハラやワクワクをノンストップで味わえること請け合いですので、ぜひ読んでみてください!
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