宮内悠介『超動く家にて』-最高に頭良い人が最高にふざけた物語

最近は忙しい人も増えてきて「5分後に意外な結末」シリーズなどに一定の人気があります。

2013年12月にシリーズ第1巻が刊行されてから、2021年3月時点でシリーズ累計発行部数は330万部を売り上げているそうです。

ショートショート小説、また短編小説には長編小説とは違う魅力がありますよね。

本作『超動く家にて』は全16編からなるSF短編集です。

長くて30ページ(「トランジスタ技術の圧縮」「ゲーマーズ・ゴースト」)、短くて10ページ(「犬か猫か?」「弥生の鯨」)で読むことができます。

宮内悠介氏は日本SF大賞、吉川英治文学新人賞、三島由紀夫賞などの受賞を経験している俊英の作家です。

SFはサイエンス・フィクションの略であり、科学的な空想にもとづいたフィクションの総称です。

本作は一言で表すと最高に頭が良い人が、最高にふざけて出来上がった作品と言えます。

面白い要素を掛け合わせて、さらに面白く昇華したような作品。そこに堅苦しさはありません。

たとえば16編の内にある「今日泥棒」は、お父さんが気に入っている日めくりカレンダーを破った人は誰かという、どうでもいい事柄を家族の中で懸命に推理していく物語です。

また「星間野球」はとある命運をかけて宇宙で野球盤をするという物語です。

──ぶっとんでいませんか?(良い意味で)

ただ、面白いだけで突き抜ける物語もあれば、そこに情感を残し、心を打つ物語もあります。

今回は16編の中でも掲題作『超動く家にて』と『エターナル・レガシー』についてご紹介できればと思います。

『超動く家にて』超動く<メゾン・ド・マニ>殺人事件の真相は?

ルルウとエラリイはふたりで探偵事務所を運営している。ルルウは所長で、エラリイは事務方。

仕事は暇なことが多くルルウは時折ミステリ小説の類を書いてきます。

ある日、ルルウは<メゾン・ド・マニ>という家で起こる殺人事件についての記載をエラリイに見せる。

この家には十人住んでいる。犯人は一体誰なのか。

エラリイとルルウは考察を続けていくが、ルルウはこの内容が手記であるということを告白する。

そしてエラリイにこのように告げます。──本事務所は<メゾン・ド・マニ>とドッキングし、全員を拘束する。と。

ルルウとエラリイの運命はいかに。

このように書くとシリアスなミステリーのように感じますが心配しなくて大丈夫です。

30ページの本作で7枚ほど図が挿入されていますが、最初の数ページを見たら物語の雰囲気がすぐにわかります。

ひとつ言いますと<メゾン・ド・マニ>という家、玄関がなく建物が回ります。

普通の家ではないということがよくわかりますね?

会話文が多く、ルルウとエラリイの掛け合いが軽妙でスラスラ読めます。

「そうか」とエラリイはうなずいた。
「そうだ」とルルウが真面目な顔で言った。(作中引用)

というふたりの会話が約20ページの作中に8回出てきます。

奇想天外な情報をルルウが、涼しい顔で伝えてくるので、読者はエラリイと同じように驚き、声をあげることでしょう。

読んでいるうちにクセになることになること間違いなしです。

ミステリーを読むというよりも発想の面白さに着眼をもって読まれると良いとでしょう。

ひとつひとつ情報が明かされていく度に全体像が見えてきて、作者の発想の豊かさに度肝を抜かれます。

『エターナル・レガシー』レガシーがぶつかる先に『未来』は開かれる

主人公、葉飛立(ヨウフェイリー)は囲碁棋士です。

囲碁で生計を立てるために日本にやってきて新人王の称号を獲得します。

しかし、対コンピューター戦に敗北しそれがトラウマとなってしまう。

地元の飲み屋のカウンターで、とある男と出会います。

男は自らを1970年代に発表された8ビットのマイクロプロセッサの『Z80』と名乗ります。そしてひょんなところからふたりの共同生活することになります。

男の正体とは?また葉飛立はトラウマを乗り越えることはできるのか。

この作品も『Z80』と名乗る男と共同生活と、驚くような面白い設定から展開していくのですが、そこに込められたテーマに釘付けになります。

レガシーとは過去の歴史的な遺産のことです。

人の人生には限りがあって、生きていくに連れて歴史という大海の一部になっていきます。

主人公も例外ではなく、また存在意義を見出すためにもがいています。

そして人だけではなく物、また技術といった目に見えないものにも脈々と受け継がれていくもの。

名前として忘れられてしまっていても、確かに存在していたものというのは認知できないだけで数多くあります。

そしてそれをぶつけて、繋ぎ合わせていくことで、新たな可能性が生まれる。その集合体が『未来』なのではないか。

情感漂う素晴らしい物語です。

傑作に孕むは作者のバッグ・グラウンド

本作は、凄まじいほどのイマジネーションが発揮された作品であり、唯一無二の魅力が詰まったものです。

その出どころは一体どこにあるのか。

それは宮内悠介氏の人柄にも関わっているのではでしょうか。

作者は幼い頃にニューヨークに住んでおり、帰国後に早稲田大学高等学院、早稲田大学第一文学部英文科を卒業されています。インテリな学歴を持っていると言えるでしょう。

しかし、卒業後はインドやアフガニスタンを放浪したり、麻雀プロを目指していたり、プログラマーとして就職されるなど様々なものに取り組まれている方です。

その経験というのがふんだんに使われてこのような作品ができるのかと感銘を受けました。

数々の栄誉ある賞された注目作者、宮内悠介。

その初短編集『超動く家にて』。

ぜひご一読くださいませ。

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