舞台となるのは、荒廃してしまった東京。
全世界を襲ったゾンビパンデミックから5年が経過し、人類はほぼ全滅の状態でした。
そんな荒廃した東京をひとりさすらっていたのが少年ユキトです。
ユキトはある日、少女エコに出会います。
エコは、「死ぬまでにやりたい10のこと」のために北海道を目指して旅をしていました。
ただ、このエコという少女は普通の少女ではありませんでした。
というのも、エコはゾンビ化していないゾンビだったのです。
もちろん、他に例のない話です。自我は保っているものの、エコは人類の敵とも言える存在でした。
しかしながら、ユキトはそんなエコとふたりで旅に出ることにしました。
人類そのものが存亡の危機にある中でも旅をしていく中で、さまざまな人々と出会います。
さまざまな人々との出会いの中での経験や感動、そして何よりもエコの天真爛漫さによってユキトの心がどんどん変化していきます。
ラストは生き残った人類で……と、どんなラストになるかお楽しみです。
終末の世界観が素敵。鳩見すた『地球最後のゾンビ』
地球最後のゾンビ -NIGHT WITH THE LIVING DEAD- (電撃文庫)
「地球最後のゾンビ」の見所としてまず挙げられるのは、やはりこの世界観ですね。
この作品はいわゆる終末ものになるかと思うのですが、あの終末もの独特の世界観を味わうことができます。
ただ、一般的な終末ものとは違って希望や明るさといったものも感じられるんですよね。
一般的な終末ものでは、いかに荒廃して夢も希望もないか……みたいな描かれ方をすることが多いと思うんですが、荒廃した世界の中でもほんのりと明かりが灯っているような感じです。
なんというか、その絶妙なバランスがいいんです!
設定自体は重たいのですが、その設定が思たくなり過ぎないような世界観になっているんですね。
あとは、ユキトの心の変化も見所ですね。実際にこんな世界だったらユキトのように心が死んでいる状態になってもおかしくはないと思うんです。
でも、それでもユキトは死んだ心でも生きようとしているし、その心を照らしてくれるのが天真爛漫なエコであったり、旅の途中で出会う人々だったりするわけですね。
心の雪解けとも言えると思うんですが、これがしっかりと描かれているんです。
率直な感想
表紙のイラストからはちょっと想像できないストーリーでした。
いい意味で期待を裏切られた感じですね!
これは完全に主観で申し訳ないんですが、イラストのエコを見たときに強気な女の子が周りを振り回す系の話かな?と思ったんです。
ただ、実際に読んでみるとエコはまぁいい子でしたね。本当に天真爛漫な子なんですが、天真爛漫な子って案外描きにくい部分があると思うんですね。
バランスを間違ってしまうと馬鹿っぽくなりすぎてしまったり、うざい感じになりすぎてしまったりすると思うんです。
それが気になって受け付けない……みたいなこともあると思うんですが、エコに関しては本当に純粋にいい子だなと思えました。「そりゃあユキトも心を開かざるを得ないわ」という感じです。
あとは、絶妙な世界観の描き方ですね。終末ものとしてのなんとも言えない物悲しさもありつつ、そこにエコの明るさがあるので、とても受け入れやすいです。
個人的に終末ものはバッドエンドになるものが多いと思っているんですが、これはちょっとだけビターなハッピーエンドですね。ちょっとだけビターというのがポイントです。
人によってはご都合主義に感じるところもあるかもしれませんが、それがこの作品ではいい方向に働いていると思いますね。
ラストの余韻がなんとも良い……
個人的には表紙のイラストの先入観があったものの、「地球最後のゾンビ」というタイトルからしてわかりやすくてGOODです。
終末ものがちょっとしたブームになっている中で、終末ものとしてはちょっと異色になるのかな?
荒廃した世界観はいかにも終末ものらしくて、ちょっとした風刺も感じられるのですがしつこくなくてそのあたりもいいですね。
重たい設定にエコというキャラクターの明るさ、世界観、ラストまでの展開とすべてにおいてとてもバランスのいい作品だと思います。
エコという太陽によってユキトの心が雪解けしていく感じは、やはりぐっと引き込まれるものがあります。
読んでいる途中までは「ハッピーエンドはなさそうだな……」と思わせつつ、ラストにはちょっぴりビターテイストのハッピーエンドが待っています。
この作品はいろいろなサイトで評価されていますが、どれも高評価ばかりです。その評価に恥じない素晴らしいライトノベルに仕上がっていますね。
終末ものが好きな方はもちろん、ライトノベル初心者の方にも自信を持っておすすめできる1冊です。
地球最後のゾンビ -NIGHT WITH THE LIVING DEAD- (電撃文庫)

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