『“文学少女”と死にたがりの道化』-『人間失格』をテーマとした、ラノベと文学の融合。

 

さて、名作ライトノベルの一つ『“文学少女”と死にたがりの道化』です。

実在する文学小説を題材としており、その小説にそって物語が展開したり、登場人物がその小説に強い影響を受けたりしているシリーズです。

短篇集や外伝を含めて全16冊からなる人気作品で、漫画化や劇場アニメ化もしています。

 

今回は、そんなラノベ好きなら知らない人はいない「文学少女シリーズ」の一作目、『“文学少女”と死にたがりの道化』をサクッとご紹介。

ズバリ、読書好きなら「必読」と言っていいほどの名作なのです。

 

野村 美月『“文学少女”と死にたがりの道化』

 

文学が大好きで、本を食べちゃうくらい愛している文学少女:天野遠子に、井上心葉は強引に文芸部に入部させられた。

心葉は隠していたが、以前は天才小説家と呼ばれるような作品を書いた人物だった。

しかし、心葉は中学生の時に起こった事件を切っ掛けに小説を書くのを止めていた。

物語を愛している遠子は唯一の後輩である心葉に毎日デザートの小説をねだってくる(その小説を食べる)。

しぶしぶ短編を書いていた矢先、遠子が設置した恋愛相談ポストにより恋愛相談が持ち込まれる。

 

そんなわけで、片思いしている人へのラブレターの代筆をすることになった心葉。

毎日、ラブレターを渡しているうちに、その相手である片岡愁二が10年前に死んでしまっていると知ることに。

 

太宰治の「人間失格」に似た手記を残した片岡愁二の死の秘密に心葉と遠子は迫る。

なぜ片岡愁二は死んだのか。手記を書いた理由はなんなのか。

「人間失格」の主人公と重ねているのは誰なのか。

文学少女と元天才小説家が解き明かす、ほろ苦い物語。

 

「人間失格」は一体誰なのか?

文学と聞いた思い浮かべる人物は、人によると思います。

夏目漱石や宮沢賢治、芥川龍之介など好きな作品によって出てくる名前は様々です。

それでも文学好きの人でこのフレーズを聞いたことがない人はいないでしょう。

「恥の多い生涯を送ってきました」

(P.5)

元々は太宰治の「人間失格」に出てくる一文です。

「文学少女と死にたがりの道化」は、このフレーズを中心に話が展開していきます。

本好きの身としては、それだけでぐっと引き込まれてしまう作品です。

主人公が元天才小説家で、その先輩が文学少女です。

ただの文学少女ではありません。物語が好きすぎて本を食べてしまうほどの、文学少女です!

最初はこの二人による、コミカルな掛け合いが見どころの一つになります。

 

その後、恋愛話を味わいたいという先輩の発案で恋愛相談が持ち込まれ、ある謎に引き込まれていくことになります。

主人公である井上心葉の視点で進む物語と、誰が書いたかわからない手記が交互に挟まれる形で話は進んでいきます。

このせいもありライトノベルと言うより、文学に近い雰囲気を味わえるんです。

 

「人間失格」がいたる所でオマージュされているので、時折垣間見える暗さと人間に対して造詣を深めているところが面白さになっています。

本好きならば誰もが知っている作品を、上手にライトノベルに組み込んだ作品なわけです。

最後の方で、文学少女である遠子が怒涛の勢いで太宰治の作品を解説するところも必見!

読んだことがあるものから、読んだことがないものまで、太宰治をもう一度振り返りたくなる小説です。

「人間失格」ってなんとなく知ってるけど、ちゃんと読んだことないな、という方。絶対読みたくなります。

ほろ苦い物語に引き込まれていく

ラノベの体裁をとっていますが、読んでいて非常に文学に近い内容に感じることでしょう。

文学を今風に砕いて書き上げるとこういう作品になるんだと思います。

本好きならば誰でも知っている太宰治の「人間失格」を上手いこと取り入れ、その上にラノベの軽妙さを足しています。

その中心にあるのは、おそらくこの一文です。

「そうして、自分は今も、仮面をかぶり、道化を演じ続けています」

(P.47)

「人間失格」も所々に印象深い言葉が散りばめられた名作です。

作中でも取り上げられているように、誰でも一度は感じたことのある部分が見つかるのが太宰作品。

ただ文体や時代設定によって今の子供にはとっつきにくい部分もあります。

それをラノベの個性的なキャラクターによって、コメディ調にしあげているのに感服します。

普通に進めれば重くなりがちなテーマをバランスよく進めている力量は流石!

話の展開が主人公視点と手記が交互に展開される構成で、それも独特な味になっているのが上手い所でもあります。

私自身「人間失格」は好きな作品の一つでなので、読み進みながら共通点などを発見するたびテンションが少し上がりました。

「文学少女と死にたがりの道化」というタイトルどおり、文学大好きの少女がいい味を出しています。

「文学少女と人間失格」と言い換えても良いんじゃないくらいの内容です。

太宰を読んだことがない人も、読みたくなる内容になっています。

もちろん、既読の人も新しい視点を持って読むことができると思います。

人それぞれの楽しみ方ができる一冊です!

生きることについて考えさせられるラノベ

「人間失格」のオマージュとしてはかなり完成度が高い作品です。

太宰治という名前を聞いただけで引いてしまうような人は、一度この作品で確認してみるといいかも。

面白いと感じられれば、間違いなく太宰治の作品も楽しめるでしょう。

オマージュとは言っていますが、この2つの作品は根本のテーマ以外は丸切り違う作品です。

何より締め方が違います。この作品では、主人公は最後こう言っています。

「どんなに苦しいことや辛いことがあっても、今日と違う明日が必ずやってくる」

(P.251)

これは「人間失格」を最後まで読んだ人ならば、全く違う終わり方をしているのがわかるでしょう。

同じテーマを表現していながら、まったく違う終わり方になる。

これぞ文学とラノベの違いなのかもしれません。

テーマがテーマなので明るさ一辺倒の話ではありませんが、じっくりと読んで楽しめる作品になっています。

ラノベの皮を被ったとても奥深い物語ですので、本好きであるならばぜひお手にとっていただけたら幸いです。

 

4 Comments

林檎

こんにちは!
面白そうな作品ですね。
anpo39さんも人間失格お好きなんですね。
私ももちろん太宰大好きです。
人間失格やお伽草紙など何度読み返したか。。
永遠の名作ですよね。

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anpo39 anpo39

林檎さんこんにちは!
はい、私も人間失格はもちろん太宰治が大好きです。
何度読み直しても深みがあって、読むたびに心に染みるんですよねえ。。。
人間失格がお好きであれば、『“文学少女”と死にたがりの道化』も楽しめると思います(*´∀`*)

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林檎

読みました!遠子先輩瑞々しくて素敵ですね。
ほんと人間失格が上手く取り入れられていて、
読後、太宰作品が読みたくなって、人間失格、駆込み訴え、斜陽等読み返しました。
高校生の時全集を読みましたが、また読んでみようかな。楽しい読書の機会ありがとうございます。

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anpo39 anpo39

読まれましたか!
遠子先輩、いいですよね。
私もこの作品を読んだ後に大宰作品を読みなおしました。
時間を空けてから読むと、また違った感情を抱くものですよね。
こちらこそ、嬉しいコメントをありがとうございますした(*´ω`)

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