芦沢央『バック・ステージ』-晴れやかな舞台の裏には、それぞれの知られざる物語があった

芦沢央さんの最新刊が登場です。

芦沢さんといえば『許されようとは思いません』『罪の余白 (角川文庫)』『悪いものが、来ませんように (角川文庫)』など、いわゆる後味悪い系の、重い雰囲気の作品が特徴、とわたしの中では思っていました。

それが今回、なんと「気分爽快ミステリー」だと言うのです。

え?!芦沢さんが気分爽快?!そんなバカな(失礼)!と思っていたのですが、これがなんと、実に楽しく、泣けてしまう部分もあり、ニヤニヤもできる作品だったのです。

いやービックリです。芦沢さんのイメージが覆ったというか。こんな作品もお書きになるんですね……(´∀`*)

 

目次

『バック・ステージ』

新入社員の松尾はある晩会社で、先輩の康子がパワハラ上司の不正の証拠を探している場面に遭遇するが、なぜかそのまま片棒を担がされることになる。翌日、中野の劇場では松尾たちの会社がプロモーションする人気演出家の舞台が始まろうとしていた。その周辺では4つの事件が同時多発的に起き、勘違いとトラブルが次々発生する。

バラバラだったパズルのピースは、松尾と康子のおかしな行動によって繋がっていき……。

すべてのピースがピタリとはまったラストに、思わず「ビンゴ!」。毎日ストレスフルに働くあなたを、スッキリさせる「気分爽快」ミステリー!

『バック・ステージ』帯より引用

 

まず序章。

新入社員の松尾(まつお)はある晩、先輩の康子(やすこ)がパワハラ上司・澤口の机を漁っている現場に遭遇。

何をしているのかと思えば、澤口が行っている不正の証拠を探しているようで、なぜかそのまま、松尾もその手伝いをさせられることに。

しかしその場では証拠は見つからず。

どうにかして証拠を抑えたい康子は、松尾を引き連れて後日、再集合する。しかも変装して。

なんと康子は、澤口の子供に会って証拠をつかもうとしていた……!

 

というわけで今作は、上司の不正を暴こうとする康子と松尾のコンビの裏で同時進行で繰り広げられる、

第1章・離婚したばかりのシングルマザーとその子供の話『親友の友達』

第2章・再会した同級生との恋を描いた『始まるまで、あと五分』

第3章・舞台に抜擢された新人俳優の葛藤を描く『舞台裏の覚悟』

第4章・認知症の兆候が表れた大女優のマネージャーの話『千賀稚子にはかなわない』

という4つのお話が収録されております。

 

結論から言えば、ミステリーというより、一つの短編集として大変楽しい作品でした。

芦沢さん、こういう作品もお書きになるのだなあ、凄いなあ、としみじみ。

4つの短編はどれも後味が違うのですが、楽しくテンポよく読めるのにどこか感動してしまう、という点で一貫していました。

 

特に第1章の『親友の友達』にはヤラレましたね。涙腺が。

小学校に通う兄とその弟を育てるシングルマザー目線のお話で、子供に対する不安や葛藤がリアルすぎるくらいに描かれていて、そのラストに胸をうたれました。

こういう子供の話に弱いんです。

 

また第2章『始まるまで、あと五分』は、楽しみにしていた舞台を目前に彼女に振られてしまった男性の話で、なぜ男性は振られてしまったのか?という点がミステリしていてよかったですね。

うわー、これ切なく終わっちゃうのかなー、と思いきや、最後はヒャッホーウ!!ヾ(‘∀’o)ノって感じでした。最高ですやん。

舞台の裏で、物語は進む。

一見バラバラな話が実は少し繋がっていて最終的に……っていうと、伊坂幸太郎さんの『ラッシュライフ (新潮文庫)』や恩田陸さんの『ドミノ (角川文庫)』のような作品を想像していたんですけど、それらとは良い意味で違いましたね。

繋がりがどうとかの前に、純粋に一つ一つの短編がしっかりしていて面白い。

あくまで「短編集」であり、そこにちょっとした繋がりがある。

康子と松尾が行動したことによって、少し世界が動き出す。

もちろん彼女たちは、自分たちのした事が、他人にこのような影響を与えたことなど知る由もないでしょう。

それで良いのです。だから、楽しい。

帯に書いてある、

人生も、面白いのはいつも舞台裏。見えている部分なんて大したものじゃない。

という道尾秀介さんのコメントが全てを物語っていました。

 

終章では、終わらない。

終章を読んで「あーすっきり、楽しかったー」と思いきや、まだこれで終わりじゃないのです。

帯にも書いてあるのですが、本を買った人だけが「すぐに」「必ず」読めるお楽しみ掌編が特別収録されているんです。

なんと、本のカバーの裏に『カーテンコール』と題した松尾と康子のエピローグ的なものがあって。

しかもそれが、ニヤニヤさせてくれるじゃあないか!!( ゚∀゚)

と叫んでしまう内容で、オマケにしては結構重要というか、最高の締めなんですよね。

何度も言いますけど、今までの芦沢作品とはまるで別の後味。

もちろん後味が悪い作品も大好物なんですけど、こっちのパターンもやっぱ良いよね!

おわりに

笑いあり、涙あり、ドキドキあり、で最終的にニヤニヤしっぱなしの大変楽しい作品でした。

読み終わった後のわたしの顔は、そりゃもうニンマリ笑顔で、はたから見ればかなり気持ち悪かったことでしょう。

電車やカフェなどの公共の場で読んでいなくてよかった……。

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この記事を書いた人

年間300冊くらい読書する人です。主に小説全般、特にミステリー小説が大大大好きです。 ipadでイラストも書いています。ツイッター、Instagramフォローしてくれたら嬉しいです(*≧д≦)

コメント

コメント一覧 (4件)

  • hitomiです!
    私も芦沢さんは、後味悪い系のイメージありました。
    一見関係ないようで、繋がってるみたいなのすきなんですよね。
    例にあげられてる、恩田さんの「ドミノ」とか。
    これはこれで、すごく面白そう!
    しかも、嬉しいサービスですね。
    いやあー、、また、金欠が!本の山が!(笑)
    いつもの事ながら、紹介うますぎです!!
    図書券降ってこないかな~。

    • hitomiさん!!こんばんは!!
      ですよねー芦沢さんといえば後味悪い系ですもんね。まさかのビックリです。
      私も、実は繋がっていました系のお話が好きで。。ドミノとか最高ですよね。
      『バック・ステージ』はドミノとはまた違う感じの繋がり方で、純粋に短編集として楽しめました。
      そう言っていただけて大変嬉しいです!!泣。本望です。
      共に本の山に埋もれましょう!( ゚∀゚)
      私も図書券が欲しい……。

      • あー、やっぱり!いいですよね!
        もう、めちゃくちゃ本の話を一緒に語りたいですよ!!!

        • いやーほんとですね!hitomiさんとなら何時間でも語りあかせそうです。
          とりあえず『かがみの孤城』を語り尽くすにの丸一日かかりそう……(´∀`*)

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