新道依子は、複数人のヤクザ相手にも一歩も引かずに対抗できる才能の持ち主である。
そんな依子はある日、暴力団会長の邸宅に拉致されることになる。
これまでの行いにより暴力団から報復を受けることを覚悟していた依子だったが、その喧嘩の腕を買われ、暴力団会長の箱入り娘・尚子のボディガードをすることになったのだ。
擁護される側に立った尚子は、父親に溺愛されて何不自由なく育てられてきたがゆえに、真面目で保守的な性格の持ち主である。
まったくの正反対の存在である依子と尚子は、数々の抗争を乗り越えていく中で、それぞれの運命へと立ち向かっていく……。
軽快なテンポで描かれる、ド派手なバイオレンスアクション小説です。
馴染みやすい文体で誰もが楽しめるストーリー展開
本作の物語では、喧嘩好きで気性の荒い女性・依子と、お嬢様気質でおしとやかな組長の一人娘・尚子が主人公となって、数々の困難や危険に立ち向かっていきます。
そんな正反対の2人が協力して着実に絆を築いていく過程は、小説のジャンルの好みに関係なく誰もが楽しめる作品といえるのではないでしょうか。
物語の冒頭からテンポ良く繰り広げられていく依子の派手な喧嘩シーンは読者の興奮を呼び覚まし、最後までワクワクした気持ちで読み進めることができる魅力を持ち合わせています。
スラスラと頭に情景が浮かんでくるほどの読みやすい文体のもとでバラエティ豊かなアクション描写が軽快なテンポで進んでいくため、ヤンキー映画やアクション映画を観ているかのような感覚で非現実的な世界観を楽しむことができるでしょう。
また本書は200ページに満たない構成になっており、数々の作品の中でも比較的短めのストーリーに仕上がっているため、文章を読むのが苦手な方や途中で断念してしまいがちな方でも、スキマ時間でサクッと読み終えることができるはずです。
読みやすい文体やド派手な喧嘩アクション、先が気になるストーリー展開など、つい一気読みしてしまいそうになる要素が盛り沢山なので、最近小説にはまり始めた方にはぜひおすすめしたい1冊です。
正反対の人生を生きる主人公の苦悩と不思議な関係性
依子と尚子はそれぞれ相反する性格の持ち主で、「暴力団会長の一人娘とそのボディガード」という立場を除いては何ら共通点のない人物達です。
半強制的に取り交わされた契約がなければ、2人が対面することはまず有り得なかったといえるでしょう。
しかし、そんな正反対の2人が生活をともにしていく中で、徐々に進展していく関係性の変化は見所の1つといえます。
2人には「女性としての苦悩を抱えている」という共通点があります。
周囲の男達を圧倒的な力でねじ伏せる依子は何の悩みも持っていないように見えますが、喧嘩が強いがゆえに暴力団の男達から常に命を狙われるリスクを抱えています。
一方でお嬢様の尚子は何1つ不自由なく暮らしている女性ですが、女性らしさや従順な性格を強要されることに窮屈さを感じています。
こうしたお互いの苦悩が両者の相互理解へと繋がることで、離れそうで離れない関係性を次第に築き上げていくのです。
本作では、そんな絆の強さがうかがえる描写が喧嘩シーンの合間にバランス良く散りばめられているため、2人の過去や背景を知れば知るほど感情移入してしまうことでしょう。
派手なアクションと繊細な関係性の描写を両立させた物語
著者の王谷さんは1981年に東京都で生まれ、PlayStation2専用ゲームソフト『猛獣使いと王子様』のノベライズ作品を出版した後に作家デビューを果たしました。
これまでには、女性ならではの視点を活かした短編集やミステリー小説、エッセイなど、幅広いジャンルの作品を残しています。
その作品の多くは読みやすい文体とコンパクトなページ数で仕上げられており、小説にあまり馴染みのない方でも、気軽に手に取って読むことができるのが特徴です。
今後は長編小説の出版も検討されており、読者層はますます幅を広げていくことになるでしょう。
そんな小説家とエッセイストの顔を持つ王谷さんが執筆したシスター・ハードボイルド小説『ババヤガの夜』は、周囲の男達を凌駕する力を持った主人公・依子が繰り出すド派手な喧嘩シーンが特徴的なストーリーです。
「クローズ」や「東京リベンジャーズ」など、喧嘩物の映画やアニメを観るのが好きな方にとっては、冒頭からハマりやすい作品に仕上がっているでしょう。
小説の性質上、ある程度の想像力を持って読み進める必要はありますが、読みやすさの観点からストレスを感じることはほとんどないように感じられます。
また豊富なアクション描写だけでなく、主人公2人の女性が作り出す関係性の変化を緻密に描いたストーリーもまた、見逃せない点の1つといえるでしょう。
友人でも恋人でもなく名前を付けるのが難しい不思議な関係ではありますが、その結束力はとても強く感情を大きく揺さぶられること間違いなしです。
最後までワクワクできる作品を探している方はもちろん、登場人物の背景や価値観に焦点を当てた物語に感情移入したい方も、ぜひ読んでみてくださいな。