伊坂幸太郎さんの「殺し屋シリーズ」最新作『AX アックス』が発売しましたね!
まあ一言でいえば伊坂さん最高だなってわけでありまして、今も余韻に浸っているわけですが、この機会に「殺し屋シリーズ」の読む順番とかあらすじなどを簡単にご紹介させてください。
結論を言うとこのシリーズは、順番に読んだ方が細かいところまで楽しめるので、ぜひ①『グラスホッパー』②『マリアビートル』③『AX アックス』の順番で読みましょう。

1.『グラスホッパー』
『押し屋』……線路の上や車道に相手を「ぽんっ」と押して、殺害するのを仕事としている謎の人物。
『鯨』……自分で直接手は下さず、相手を自殺させるプロ。
『蝉』……ナイフを使うことを得意とした殺し屋の若者。
『鈴木』……妻を殺した男に復讐しようと思っていたら、目の前で『押し屋』にその男を殺されてしまった一般人。そんなことをきっかけに、3人の殺し屋同士の戦いに巻き込まれていく。
という殺し屋同士の戦いに鈴木が巻き込まれちゃった、という物語。一見物騒ですが、伊坂さんの作品なんだから当然そんなことはない。
スリルあるサスペンスで、ハードボイルであってエンターテイメント性抜群で、いろんな伏線がラストに回収されてスッキリ!って言う伊坂ワールド全開の作品。
最初はバラバラだったいろんな人物の視点が、ちょっとづつ繋がっていっき最後には……という展開はやっぱり面白いし、そこに伊坂さんならではの「巧さ」がよく現れています。
初めて読んだとき面白すぎて3回くらい続けて読んだ記憶が…。
2.『マリアビートル』
酒好きの元殺し屋「木村」。性格最悪の中学生「王子」。腕利きの二人組「蜜柑」「檸檬」。運の悪い殺し屋「七尾」。
そんな物騒で個性的な5人が同じ新幹線に乗り合わせてしまったことで繰り広げられる、ドタバタエンターテイメントの名作。
「新幹線の中」という限られた空間が舞台だからこその面白さもありますね。
人が殺されるのにもかかわらず、悲しんでいる暇もなく爽快に進められていくストーリー展開。一気読みは間違いないでしょう。
殺し屋たちのやりとりは読んでいて非常に愉快なのですが、中学生「王子」の存在が最高にイライラします 笑。伊坂さん、「人を不愉快にさせる人物の描き方」がお上手すぎです。
「殺し屋」と「中学生」。普通に考えればどう見ても「殺し屋」の方が悪い奴らですが、この作品では「中学生」の方が殺し屋よりも悪魔に見えるから面白いです。
相変わらず、終盤に近づくにつれの伏線回収、二転三転する展開はさすが。改めて伊坂作品の面白さを思い知らされるのです。
前作『グラスホッパー』を読んでいるとさらに楽しめますので、ぜひ順番にお読みください。
3.『AX アックス』
そしてシリーズ最新作。
殺し屋《兜》を主人公とした、『AX』『BEE』『Crayon』『EXIT』『FINE』5編からなる連作短編集です。
《兜》は凄腕の殺し屋なのですが、妻には全く頭が上がらない。
常に妻の機嫌をうかがい、何かあればすぐ妻の言う通りにする。口答えなんてとんでもない。
夜帰ってくるときだって妻を起こさないように、鍵を開けるわずかな音にも気をつけ、静かに靴を脱ぎ、すり足で廊下を進む。
もちろん家族には自分が殺し屋であることは知られていない。普段は文房具メーカーに務める営業マンだ。
そんな兜は家族を持つようになり、いつしか「殺し屋」という仕事を辞めたいと思うようになる。
しかし、この世界から簡単に逃れられるはずがない。
はたして、兜は無事に殺し屋を辞めることができるのか……。
『AX』『BEE』『Crayon』は他の雑誌などに既に乗せられた短編ですが、残りの『EXIT』『FINE』は本作書き下ろし。
で、やっぱり書き下ろしの『EXIT』『FINE』からグイッと面白くなってくる。もちろん『AX』『BEE』『Crayon』があっての『EXIT』『FINE』なので、短編集というより一つの長編小説という感じですね。
ストーリーに関しては何も言うことはありません。
殺し屋《兜》の日常を描いた短編が続くのかな?と思いきや、中盤からグイグイきて、最後の最後で「やっぱり伊坂さんだー!!」と思わせてくれる展開。これを待っていたんですよ。
結局、人がいくら死んだって最後は「優しい物語」なんですよね伊坂さんは。安心しました。
おわりに
ストーリーももちろんですが、なにより「兜と妻のやりとり」を見ているだけでも楽しいですね。
「いかに妻を不機嫌にさせないか」を常に最優先で考え行動している『兜』を見ていると、殺し屋といえども一人の人間なのだなあ、とニヤニヤしてしまいます。
ま、伊坂さんの作品だから言えることなんですけどね(*´ω`)
「え、そうなのか!」と、「信じられないなあ」と派手な相槌を打つ。自分でも、少々やりすぎではないか、と怖くなる瞬間もあるのだが、妻からすれば、「度が過ぎた反応」は気にならぬのか、そのことで苦情を言われたことはなかった。
P.27より
「明々後日の朝、キャンプに行くでしょ。ほら、佐藤さんのところと一緒に」
「うんうん、そうだったよな」兜は当然のように、至って冷静を装い、うなずく。実を言えば、そのキャンプの予定についてはまったく記憶になかったが、妻の口ぶりからするに、それはすでに兜に知らされている情報なのだろう。ここで、「何のことだ?」などと聞き返してはならない。「あなたは、わたしの話をいつも聞いていないわよね」と不満の吐露がはじまるに決まっていた。
P.60より
今作は単体で読んでもおそらく楽しめますが、せっかくの機会ですので①『グラスホッパー (角川文庫)』②『マリアビートル (角川文庫)』③『AX アックス』とシリーズを順番に読むことを強くおすすめします。
その方が絶対楽しめますので。
これは『殺し屋』であり、『一人の父親』の物語ーー。

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