阿刀田 高(あとうだ たかし)さんの『ナポレオン狂』という作品を初めて読んだ時、わたしはまだ中学生でした。
その頃わたしは星新一さんのショートショート作品をほぼ全部読んでしまっており、常に「面白いショートショートが読みたたくて仕方がない」という中毒に陥っていました。
そこで出会ったのがこの作品です。
星新一さんの以外のショートショート作品を知らなかったわたしは、『ナポレオン狂』を初めて読んだ時、「星新一さん以外にもこんなに面白いショートショートを書く作家さんがいるのか!」と感動したのを今でも覚えています(ノω`*)
阿刀田 高『ナポレオン狂』
今作は13編の話が収められたショートショート集です。
今回はその中から4つのお話を少しご紹介しちゃいます。
1.「ナポレオン狂」
このお話では二人ほど狂気的な人間が登場します。
一人は、収入のほとんどをナポレオンのために消費する男・南沢金兵衛。
彼のナポレオンに対する執着心はまさに「ナポレオン狂」とも言えるほどで、彼のコレクションが並べられた「ナポレオン記念館」と呼ばれる4階建ての建物まである有様。
そしてもう一人は、自らを「ナポレオンの生まれ変わりだ」と言う村瀬という男。
そんな二人が出会った時、一体どうなってしまうのか、というお話。
表題作というだけあって『ナポレオン狂』の中でも一番好き。キレもオチも読後感もたまりません。
ただの飯より野球の好きな人を野球狂と言い、女色にうつつをぬかす男を女狂いと呼ぶのと同様意味合いで南沢氏も”狂”の部分を持っている。さしずめナポレオン狂とでも呼ぶべきであろうか。
『ナポレオン狂』P.5,6より引用
2.「来訪者」
真樹子の家に度々やってくる中年の女。
この女は真樹子が子供を産んだ直後、熱でうなされる真樹子の代わりに、少しの間だけ赤ん坊の世話をしてもらっただけの女だ。
が、女はそれからも何ヶ月に一回のペースで真樹子の家に訪れ、赤ん坊の世話をしたがるのだ。ごく当たり前のように。
さすがに何かがおかしい。一体この女の本当の目的は何なのか……?というお話。
これもまた、オチが強烈。ゾッとさせてくれます。
薄気味わるいと言うのは、少し強すぎる表現かもしれないけれど、真樹子の側から見るとなんとなく納得のできない部分がある。
親切すぎるというのか、押しつけがましいというのか、表面は世話好きな、人のいいおばさんなのだが、ともするとそれが度を越して真樹子の城の中までドカドカと土足で踏み込んで来るような、そんな気配があった。「来訪者」P.35より引用
3.「サン・ジェルマン伯爵考」
父が病気で死ぬ間際に残した言葉。
「再来年の十二月二十六日、夜の八時、帝国ホテルのロビーに行ってくれ」「十一年前にパリで約束した。サン・ジェルマン伯爵が待っている」
調べてみるとこのサン・ジェルマン伯爵という人物は、「不老不死」を手に入れた男としてオカルト界でも有名な人物らしい。
なぜ父が、そんな人物と、なんの約束を?バカバカしい。そんなことがあるわけない、父の妄想だ。
と思いながらも、約束の日時、父の言っていた帝国ホテルのロビーに来てしまった相沢。
すると、そこには……。
ボーイは軽く会釈をしてから、振り向いてインフォメーション・デスクのほうへ手を差し伸べた。
「サン・ジェルマンさまがお待ちです」
「サン・ジェルマン伯爵考」P.71より引用
6.「甲虫の遁走曲」
愛車のフォルクス・ワーゲンで白タク業を営んでいたが、タクシーに追突され鞭打ち状態になってしまった北村。
すると入院中、なんと愛車のフォルクス・ワーゲンが話しかけてきた。ワーゲン曰く、「これまでの恩返しとして、自分一人で白タクをやってみる」とのこと。
半信半疑で任せてみると、わずかながら売り上げを上げて北村の元に届けてくれた。これからもまだまだ頑張るという。
ちょっとファンタジー要素の入った良いお話。頑張れ、頑張れワーゲン!と思っていたら。まさかの、ね。
「この体じゃ……。医者にはまだしばらく安静にしていろと命じられているんだ」
ワーゲンはブルブルと首を振って、
「わかってます。だから、あなたは寝ててください。私がひとりでやってみますから」
「甲虫の遁走曲」P.130より引用
ブラックユーモア炸裂。これぞ阿刀田高!
阿刀田高さんの好きな作品は何作かあるのですが、その中で一番好きな作品は?と聞かれたらやはり『ナポレオン狂』でしょう。
何が好きかって、オチですよね。
わずか数ページの物語にグッと引き込まされて、最後の数行でゾクッとさせてくれるブラックユーモアが詰まったお話の数々がたまらなくクセになります。
キレッキレなんですよ。こうなるのかな?と思っていても、予想外のオチが待っている。くう〜。
そして同じく『冷蔵庫より愛をこめて (講談社文庫)』というショートショートもブラックユーモアに満ち溢れた名作です。
阿刀田さんの作品を読んだことがないという方は、ぜひこの『ナポレオン狂』や『冷蔵庫より愛をこめて』から読んでみていただきたいですね。
その他には『青い罠 (集英社文庫)』『黒い回廊 (集英社文庫)』などの短編集も、阿刀田さんらしさ満点の世界観が味わえるのでオススメですよん。
少し空いた時間などに気軽にサクッと読めるので、「面白いショートショートが好き!」という方は是非読んでみてくださいな(* >ω<)=3
関連記事
コメント
コメント一覧 (2件)
anpoさん、あけましておめでとうございます。
新年早々、阿刀田高氏とはブラックですねぇ笑
私も大好きなんですよ。一番はじめはたぶん小学生...
ワニブックスから出ていた短編を要約したものとショートショートを集めたものでした。
その後、普通に文庫でも出ていることを発見し、とびついた次第。
中学生から大学くらいまでの間に結構読みましたね。
読後感がすごくいいんですよ。最後のどんでん返し、というか、やっちまったな、っていう感じが。
後の作人になるにつれてブラックユーモア感が減少していくので、初期の「ナポレオン狂」と
「冷蔵庫より愛をこめて」はたしかにオススメですね。
ちなみに私のお気に入りは「あやかしの樹」(「冷蔵庫より愛をこめて」に収録)ですね。
ここんとこ人の死なない話を結構読んでいて、それはそれでおもしろいのですが、
やっぱりミステリーに戻って来てしまいますね笑
この間ブックオフで入手した「奇面館の殺人」読了しました。
あと本棚には「水族館の殺人」(青崎有吾)と「蠅男」(海野十三)が未読で残っています。
anpoさんの紹介されいる書籍に気になるものがいくつかあるのですが、なかなかたどりつきません。
また長文になってしまいました、すいません。
すっかりお友達気分です笑
あけましておめでとうございます!
bigcanonさんも阿刀田高さん好きなんですね〜♩私も短編のブラックな感じが最高にツボなんですよね。
私は中学生くらいの時に初めて読んで、そこから一気に読み漁りました。
そうそう、やっぱり初期作品のブラックさが良いですよね。「ナポレオン狂」と「冷蔵庫より愛をこめて」はもう何回も読んでいますがやっぱり好きです。
私も人の死なない小説も大好きですが、どうしても刺激が欲しくなってしまって、ミステリーを定期的に読まないとダメですね 笑。
おお!「奇面館の殺人」も「水族館の殺人」も「蠅男」も良いですねえ!どれも好きですわ〜。
いえいえ、長文大歓迎です笑。お友達と思っていただけて大変嬉しいです!今年もどうぞよろしくお願いいたします〜(*´∀`*)