『新しい世界で~座間味くんの推理』- お酒を飲み干す度に推理が冴えわたる短編ミステリー!

女子大生の聖子、警視庁の幹部である大迫、そして中年の会社員である「座間味くん」が、毎回違う店で不可解な話を肴にお酒を酌み交わし、素人である筈の座間味くんの口から事件の思いがけない真実が次々と推理される様子を描いた作品集。

独特な作風が光る作者・石持浅海さんが放つ、人の心の奥深くに焦点を当てた大人気シリーズの続編として話題を呼んでおり、今までに解決した「終わった事件」の真相を推理するという展開はとても中毒性があるため、個性的かつ本格的な短編推理ミステリー小説を読むことができるというのが一つの魅力となっています。

しかし切れ味抜群な座間味くんの事件解析は、二転三転し物語をかき回すため、どんな落としどころが待っているのか予想することができません。

ページをめくるごとに明かされる真実や、そしてそこに至るまでの物語の流れに、読者は大いに驚かされることになるでしょう。

目次

読み進めるにつれて異例の展開に翻弄される!

1作目に収録されている『新しい世界で』は、2006年に発売された「月の扉」の続編という立ち位置ではあるものの、登場人物の関係性や人物像がわかりやすく描かれているため、自己紹介作品として前作を読んでいない読者も楽しめるようになっています。

世代も性別もバラバラで、複雑な縁で繋がっているものの気のおけない三人が、何気ない会話から、誰も気づかなかった真相を座間味くんが解き明かしていきます。

物語は、繁盛しているとはお世辞にも言えないパン屋さんを、お昼時には会計待ちができる程の人気店へと変えた女性が、常連さんと恋を育みながら生き生きと働く描写からはじまります。

この女性は離婚歴があり、現実にもありそうな夫婦の「そもそも愛はあったのだろうか?」というテーマを題材にした短編なのですが、物語は酒を酌み交わす女子高生・聖子の不幸な生い立ちを絡めながら、読み進めるうちに座間味くんの推理の渦に巻き込まれるような楽しさを感じられます。

呑みながら語るその一連の展開は、異例ともいえる救済の推理のため、思わず唸ること間違いなしです。

爽やかな空気感と真相の破壊力

ラストを飾る『お揃いのカップ』では、時間は流れ、聖子が大学生から社会人へと成長していく様子が描かれています。

赤子時代に命の危機に陥り、不幸な少女時代を過ごした彼女が幸せを掴むことができるのか、読者は親戚のような目線で物語を覗き見ることができるというのが本書の印象を決定づける大きなカギの一つ。

思いも寄らない展開は本格ミステリーのツボをしっかりと押さえつつ、座間味くんが発する一言で静まりかえり沈黙を呼ぶコミカルなタッチや、後半で二転三転する物語にはどんな落としどころが待っているのか予想できず、未完成な情報が飛び交います。

謎がジグソーパズルのように散りばめられている中、不意打ちのようなサプライズが待ち受けており、読み進めるにつれて情報がどんどんアップグレードされていきます。

たった一言で真相を見抜く座間味くんの鋭い着眼点と小気味の良さ、途中からなんとなく予想はつくものの、ここまで綺麗に伏線回収できるのか!と思わず唸ってしまう程の鮮やかさ、そして読後感の爽快感が、この物語の一つの魅力となっています。

「やられた!こんな面白いミステリーがあっていいのか」と思わず唸ってしまう独特の雰囲気と脱帽感を味わえる“爽やかなミステリー”としての魅力が、本作には詰まっているといえます。

短編本格ミステリーを読みたいならコレ!

前回の出版から約5年ぶりに新刊が出されることとなった本作。

発売されたばかりですが、既にミステリー小説ファンから絶大な評価を得ており、毎回違う店で酒を酌み交わしながらいわゆる「安楽椅子探偵」ものが好きな方にとってはもはや必読の作品と言っても過言では無いでしょう。

7編の短編はライトなものからヘビーな題材まで幅広く読み応えがあり、たった一言で真相を見抜く座間味くんの鋭い着眼点と小気味の良さ、事件の背後に隠されていた意外な善意や悪意が浮かび上がる様子は思わず癖になること間違いなしです。

普段ミステリを読まない方でも、この本を読むことによってミステリの面白さに目覚めることができるかもしれません。それくらい面白いです。

どの短編も不可解な謎が鮮やかに反転する描写が強烈な後味を残すため、推理小説に興味が無くても引き込まれるほどに、本書は“ミステリーとしての面白さ”も十分に兼ね備えているということができるのです。

読書好きの方、推理ミステリーが好きな方、ただただ読み応えのある推理ミステリーを読みたい方など、ミステリーや読書が好きな方は読んで損はないです。

新刊が出版されたこのタイミングで、ぜひ一読してみてください!(๑>◡<๑)

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この記事を書いた人

年間300冊くらい読書する人です。主に小説全般、特にミステリー小説が大大大好きです。 ipadでイラストも書いています。ツイッター、Instagramフォローしてくれたら嬉しいです(*≧д≦)

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