真下みこと『あさひは失敗しない』- 第61回メフィスト賞受賞作家、待望の第二作目

「あさひは失敗しない」──あさひは、母親からそう言い聞かされて育てられた。

これまであさひが人生で失敗してこなかったのは、母親が先回りして心配事を避けたり、片づけておいたりしてくれたから。

そして、あさひが不安になった時はいつでも、おまじないのように言ってくれるのだった。

「あさひは失敗しない」と。

しかしいつしかその言葉はおまじないではなく呪文のようになっていく。

“絶対に失敗したくない”あさひが取った驚くべき行動とは?

母親とも友達ともだんだんとうまくいかなくなっていく中で、あさひが最後に下した決断とは?

親は子どもの為を思い、子どもは親の期待に応えたい。

ただそれだけのことが恐るべき結果を生むとは──。

目次

異常な人間関係が生み出す最悪の状況から目が離せない

この作品に登場するのは、娘への関わり方がどこかおかしい母親と、そんな母親に依存してしまっている娘という母子。

主人公のあさひは、大学二年生になっても母親に洋服を決めてもらい、スマートフォンに位置情報アプリを入れられても抵抗しない。

母親はいわゆる“毒親”とも言うべき様子であさひに過干渉してくるのです。

子どもの精神的・身体的成長にとってまさに「毒」としか言いようのない毒親は、近年子ども側の告発とも言える告白によってその存在が知られるようになりました。

あさひに過干渉しその失敗の芽を先回りして摘み取ってしまう母親と、その母親の元で「失敗しない」ことを至上主義として無気力に生きるあさひ。

ある出来事によってこの異様な関係にさらにあさひの友達まで加わり始め、どんどんと最悪の状況に進んでいってしまいます。

事態がどこまで進んでしまうのか、読者を引き付けて決して離さない一種の“魅力”がこの本にはあると言えるでしょう。

失敗しないことを求められてきたあさひの決断とは

母親の「あさひは失敗しない」という呪縛に囚われ、取返しのつかない事態にまで陥ってしまったあさひ。

これまで失敗することを許されなかった彼女が最後にどんな決断を下すのか、というのがもう一つの本書の見どころです。

あさひのように、20歳までいびつな環境で育った人間は、果たしてもう二度と“正常”な人生に戻ることはできないのでしょうか。

人生における失敗・成功とは、いったい誰がどのように決めているのでしょうか。

読者はいろいろなことを考えながら、彼女の行く末を見つめることになります。

あさひの下す結論は、果たしてあさひや読み手自身を救うきっかけになるのか。

それはぜひ本書を実際に読んで確かめてみてください。

読み終わった時、「あさひは失敗しない」というタイトルが読む前とは少し異なる雰囲気を放つと感じるのではないでしょうか。

誰もがどこか“どきり”とする、母子の闇を描いた作品

大きくゆがんでしまった母子の関係性とその顛末を描いた本作。

程度の差こそあれど、誰もが読みながら自身と親との関係性を振り返ってみることになるそんな強いリアリティを持った作品です。

作者の真下みことさんは、2019年に『#柚莉愛とかくれんぼ』で第61回メフィスト賞を受賞し、当時大学生ながらもそのままデビュー。

まだ20代という驚きの若さで、現代社会の問題を取り入れたミステリーを発表しています。

受賞作・デビュー作の『#柚莉愛とかくれんぼ』では、ネットやSNSが極度に発達した現代におけるアイドルと周囲の人々の関係性をテーマに取り上げ、ミステリー要素も絡めてエンターテイメント性と疑問の投げかけを見事両立しました。

作者本人もアイドルが好きという点が、アイドルの裏側を描いたミステリーに大いに影響を与えていると言えます。

そして今回で『あさひは失敗しない』で取り上げたのが、異常な過干渉と共依存によって成立している母子の関係。

母と子との異常な関係性については昔から多くの作家がテーマにしてきていますが、本作では子ども側を取り巻くリアルな大学生活や思惑を取り入れることで、より現代の問題に寄り添った内容になっていると言えます。

特定の人と人との関係性そのものに焦点を当てて紐解いていき物語として構築していく、という表現力が、真下みことさんの魅力の一つなのです。

デビューから2年ほどしか経過していないので、真下みことさんの単著での出版は『あさひは失敗しない』と『#柚莉愛とかくれんぼ』の2作品のみ。

これからどんな作品を発表していくのか、楽しみな作家さんです。

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この記事を書いた人

年間300冊くらい読書する人です。主に小説全般、特にミステリー小説が大大大好きです。 ipadでイラストも書いています。ツイッター、Instagramフォローしてくれたら嬉しいです(*≧д≦)

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