さて、学生アリスシリーズの第3弾『双頭の悪魔』です。
なんて言ったって「シリーズ最高傑作」と呼び声高い一作ですからね。気になっていらっしゃる方も多いかと思います。
でも、早まってはいけません。未読であれば、まずは第一弾『月光ゲーム―Yの悲劇’88 (創元推理文庫)』第二弾『孤島パズル (創元推理文庫)』を読んでから『双頭の悪魔』に取り掛かりましょう。絶対にですよ!
『双頭の悪魔』あらすじ
冒頭。
有栖川有栖たち「英都大学推理小説研究会」の4人の目の前にいるのは有馬竜三(ありまりゅうぞう)。推理研究会メンバーの一人・マリアの父である。
どうやら私たちに依頼があるらしい。
その依頼とはーー。
「皆さんに、娘を連れ戻してほしいのです」
僕たちは同時に背筋を伸ばした。依頼の意味がすぐには理解できない。
P.17より引用
詳しく話を伺うと、マリアは高知県の北、四国山地の奥深いところにある夏森という村の、さらに奥の集落にいるという。
どうやら前回の事件(『孤島パズル』)でひどく傷ついた様子のマリアは、ある日「旅行をしてくる」と言い、それから二ヶ月くらい帰ってこないとのこと。
で、なんとかマリアの居場所は突き止めたものの、たまに連絡が取れるだけで一向に帰ってくる気配がない。
そこでマリアと仲の良いアリスたちに「連れ戻してきてくれ」とお願いをしてきたのでした。
マリア奪還作戦開始!

というわけで、マリアがいるという「木更村」へ向かうメンバー4人。
でね、ここ描かれる何気無い「青春」の感じが好きなんですよ。「運転変わるわ」「お前の運転怖い」とか言ったり、皆でうどん食べたり、マリア奪還作戦を練ったり。
いやあ非常に楽しそうだ。私も混ざりたいなあ、なんて思ったり。
さて、無事四国についた4人。
あえて過程は省略しますが、ここでいろいろ大変なことがあって、部長の江神二郎だけがマリアと接触でき、他の3人(アリス、望月、織田)は一旦その場を離れます。
そして、大雨による濁流で村をつなぐ橋が崩壊。
これにより「木更村」にいる江神二郎&マリアと、「夏森村」にいるアリスたち3人は接触不可能になります。
「……橋が落ちた」織田がハンドルに顎を乗せて呟いた。「見たか?」
「見ました。パキッ、て」
それが何を意味するのか、ようやく理解できるようになった。木更村に行けなくなったのだ。
P.241より引用
で、その両方の村で殺人事件が起きます。
つまり今作『双頭の悪魔』では、「木更村」と「夏森村」という別々の場所で同時に起こる殺人事件をそれぞれ解決していくことになります。
ああ、なんと面白い設定でしょう。アリスたちには申し訳ないですが、私はワクワクが止まりませんでした。
読者への挑戦が・・・
第一弾『月光ゲーム』第二弾『孤島パズル』にもあったように、第三弾『双頭の悪魔』でも「読者への挑戦」が挿入されています。
しかも、3回もです。
3回も読者への挑戦が挿入されているんです。なってこったい!ですよ。
一つ目は「木更村」で起きた事件の犯人を求めよ、というもので、二つ目は「夏森村」での事件の犯人を求めよ、というもの。
そして三つ目は……、おっと、ここまでにしておきましょう。
とにもかくにも、3つも読者への挑戦が含まれるミステリ小説なんてそう簡単に出会えるものではありません。普段は読者への挑戦を読み飛ばしてしまう方も、ぜひチャレンジしてみてください。
読んでいただければ「なぜ読者への挑戦が3回も挿入されていたか」がお分かりいただけるでしょう。
推理、推理、推理。

『双頭の悪魔』に限らず、学生アリスシリーズは「推理」が非常に見どころです。
犯人を特定していく過程、論理的かつ丁寧に謎を解決していき「あなたが犯人である理由」をこれでもかと述べる江神さんの推理はもはや芸術の域。
ああ、これはまさしく「推理小説」なのだと、しみじみ実感します。
そして『双頭の悪魔』では、もう一つの探偵役が存在します。
そう。アリス、望月、織田の3人グループです。
今までのシリーズ作品では江神さん一人がメインでしたが、今回彼らの近くには江神さんがいません。そのため彼らは自ら推理をしていきます。
彼らは江神さんのような天才的な探偵ではありません。ただのミステリ好き大学生です。
しかし、けれども、だからこそ、素晴らしいのです!!
ミステリが大好きな大学生3人が懸命に知恵を振り絞り、推理を展開すれば否定され、新たな推理をしてみれば否定され、という仲間内での推理合戦が最高に面白いのです。
一つの謎に対しての徹底した試行錯誤をぜひ目にしていただきたい。
これは間違いなく『双頭の悪魔』がシリーズ最高傑作だと呼ばれる理由の一つです。
私も彼らと一緒に推理合戦してみたかった。まさに、ミステリ好きならではの青春です。
『双頭の悪魔』のポイント!
①2つの場所で同時に起こる殺人事件をそれぞれ解決していく、という設定の面白さ。
②3回も含まれる読者への挑戦。
③アリス、望月、織田グループの推理ディスカッション。
④相変わらず美しい江神二郎の論理的推理。
⑤そして漂う青春の一面。
という感じですね。
今作は単独で読んでも楽しめるとは思いますが、やはり第一弾『月光ゲーム』、第二弾『孤島パズル』の順番で読むことを強くオススメいたします。
さて!この次は文庫にして上下巻からなる大作、シリーズ第4弾『女王国の城 上 (創元推理文庫)』へと続きます。
新興宗教の聖地でアリスたちを待ち受けるものとは……!ぜひご覧あれ(* >ω<)=3
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双頭の悪魔。いいですよね〜。この作品を読むと、自分はやっぱりミステリが好きなんだな、と再認識しました。一度でいいから、こんな体験してみたいなとも。こんなに凡人が頑張る推理小説はないんじゃないでしょうか。僕が読んだ推理小説の中で、とてもミステリ愛を感じた作品です。
そうなんですそうなんです。本当に一度でいいから、こんなミステリ好き仲間と事件に巻き込まれて推理合戦したい、って思っちゃうんですよね。まあ実際に殺人事件に巻き込まれたらまずパニックに陥るでしょうけど 笑。
天才ではないただのミステリ好きが懸命に推理する姿、最高に好きです。ほんと、愛に満ち溢れていますよね。
我が故郷高知が舞台!
前二作はロジックが光る作品でしたが、これはトリックでも魅せてくれましたね。
また相変わらず青春小説としての部分も良く、最後にマリアがアリスと再開したところは意外な展開でも何でもありませんでしたが、それまでの一向に辿り着けないというフリが効いて胸が熱くなりました。
皆、頑張ったな・・・って。
あと好きなのが、有栖川先生はいつも後書きが素敵ですね。
そして何故か解説も素敵率が高い気がします。
おおお!故郷なんですか!それはテンションあがりますね笑
ほんとほんとトリックが見事でした。好きです、こういうの。まさに青春小説としても胸熱です。彼らの行く末が気になって仕方がありません(ノω`*)
わかります。あとがきの良さは間違いないです。他の作品以上にじっくり読んじゃいますもん 笑。