シリーズ第4弾となりました。『女王国の城』です。
文庫にして上下巻を合わせて800ページを超える大作。ですが、まったく気にならないほどの面白さと読みやすさを誇ります。もしろもっとボリュームがあっても良いくらい!
今回は、とある宗教団体の聖地にある「城」を舞台に殺人事件が巻き起こります。
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『女王国の城』あらすじ
このたび英都大学推理小説研究会メンバーが向かうのは、とある新興宗教団体の聖地・神倉。UFOの飛来地としても有名な場所です。
決して楽しい旅行でも合宿でもありません。目的はただ一つ。
我らが部長、江神二郎に会うためです。
というのも、江神さんはある日「ちょっと遠出するかもしれん」などと言って他のメンバーの前から急に姿を消したのです。
行き先も告げずに。
状況証拠から判断するに、行き先は木曾山中の神倉ではないか、ということまでは推測できたましたが、果たして本当にいるのかどうか。
ましてや江神さんがそんな家出みたいなことをするだろうか。しかも行き先は宗教団体の聖地です。心配だあ!
マリアを連れ戻しに行った前回『双頭の悪魔』と状況が似ているように思えますが、マリアの場合は父親に「連れ戻してくれ」と依頼されたのに対し、今回は誰かに頼まれたわけではありません。こちらの勝手な判断で行っているわけです。
本当にただの一人旅かもしれないし、実際会えたら「何しに来たの?」と怪訝な顔をされるかもしれない。
しかし、彼らは行く。嫌な予感がするのだ。
神倉、到着。

かくして、無事に神倉へと到着した一同は、そこで「11年前にこの地で起きた密室殺人」と「江神二郎はやはり神倉にいる」という情報を得ます。
すぐに彼らは江神と会って話をするため「城」と呼ばれる人類協会総本部を訪ねます。
しかし。
「江神様は、昨夜から百時間の瞑想に入っていらっしゃいまして、今はどなたともお会いになれません。どうかご諒承ください」
P.76より引用
なんと江神さんは百時間の瞑想に入っているという。少なくとも、あと七十三時間は会えないらしい。
怪しい。怪しすぎる!
どうにかして進入できないか、などと頭を悩ませる一同。
しかし、翌日状況が一変。
宗教団体から「我々が誤解をしていた」などと謝られ、アリスたちは「城」へと招かれることになる。
不審に思いながらもとりあえず「城」に入ることができたアリスたちは、そこでようやく江神と会うことができた。江神の無事な姿に安堵する一同。
だが、安心したのもつかの間。
この作品がミステリー小説である以上、どうあがいても悲劇は起きてしまうのです。
閉じ込められたアリスたち。
さて、案の定殺人事件が起きてしまいました。
幸いにもここは孤島でもなく、大嵐に見舞われているわけでもなく、外へつながる唯一の橋が壊れているわけでもありません。
ところが。
この宗教団体は警察に通報することを頑なに拒否。事件が解決するま城の外に出だしてもらえなくなったのです。
第一弾『月光ゲーム』では、火山の噴火によりアリスたちは閉じ込められました。
第二弾『孤島パズル』では、大嵐により孤島に閉じ込められてしまいました。
第三弾『双頭の悪魔』では、土砂崩れによって山奥の村に閉じ込められてしまいました。
そして第四弾の『女王国の城』では、宗教団体の意思で城に閉じ込められてしまいます。
これが「学生アリスシリーズ」の大きな特徴です。
お分かりの通り、いずれの作品も脱出できない状況での殺人事件、すなわち「クローズド・サークル」ばかりを描いているのです。
ミステリ好きにはたまりませんね!
しかも、今までのクローズド・サークルは「自然現象」によって脱出不可能になったのに対し、今回の『女王国の城』では「人為的」に脱出不可能となります。この違いもポイントです。
なぜ宗教団体はアリスたち城の中に閉じ込め、警察を呼ぶことを拒否するのでしょうか。
銃はどこから?

言ってしまいますと、今回の殺人で使われる凶器は「銃」です。これだけでは、特に問題はありません。
問題なのは、この銃が「どうやって城に持ち込まれたか?」です。
城の警備は万全で、城に入る際には全ての人物の入念な持ち物検査を行われていました。
さらに今回の事件が起きる一ヶ月前に爆弾騒ぎがあり、警察が城の内部を入念に捜査しました。その時は何も不審なものはありませんでした。
では、犯人はどうやって犯行に銃が使うことができたのか。
この銃の持ち込みトリックはかなり見所です。
さらに、「11年前に起きた密室事件」も江神さんは華麗に推理していくことになります。
もちろん江神さんは11年前にその場にいなかったので、当事者の情報だけを頼りに解決していきます。そう、これはミステリでいう「安楽椅子探偵」です。
なんて贅沢なのでしょうか。現在の事件に加え安楽椅子探偵まで!しかも「11年前に起きた密室事件」のトリックがまた面白いからたまりません。
もちろん読者への挑戦もあるよ!
今までのシリーズ作品と同様に『女王国の城』にも読者への挑戦があるのですが、今回はかなり難しいです。
この物語がすべて現実の出来事だったのならば、揺るぎない論理と動かぬ証拠をもって真犯人を指摘することはまず不可能だろう。
P.317より引用
「土台なしで家を建てるようなもの」とまで言っています。
ただ、それでも犯人を指摘してみよ、と。なんという挑戦でしょう。
今までの読者への挑戦が簡単だったかのように思えてきます。
これ、ホントに解けちゃう方っているんですかね?
『女王国の城』のポイント
①殺人の舞台となるのが「宗教団体の聖地」という特殊な環境であること。
②これまでの事件と違って「人の手によって」クローズド・サークルが完成されているというところ。
③凶器となる銃の持ち込みトリックが面白すぎる。
④11年前の密室事件解決、という安楽椅子探偵も楽しめちゃう。
⑤読者への挑戦が今まで以上に難しすぎる。
⑥英都大学推理小説研究会のメンバーが相変わらず面白い。
という感じ。
今までのシリーズ作品を楽しく読んでいただけたなら、今回も読んでいただいて違いないです。ホント、安定して面白いですねこのシリーズは。
現在までに出版されている「学生アリスシリーズ」の長編は、この第四弾『女王国の城』までです。(他に短編集が一冊出てます)
そして「学生アリスシリーズ」は、長編5冊、短編集2冊で終了する予定とのことです。
つまり、長編は、次が、最後です。
うわあああああ!
早く読みたいけれどおお!読んだら終わってしまううう!
非常に複雑な気持ちです……。はあ……。
もしまだお読みでなければ、シリーズ最終巻が出るまでに、今一度読んでおくことをオススメします……(ノω`*)

普通は800ページもあったら迷っちゃいますけど、この作品は迷わず読もうと決意しました。このシリーズは期待を裏切りませんから。詰め込みすぎっ、とか思いましたけど、やっぱりいい意味でお腹いっぱいになれた作品ですね。異色のクローズドサークルとかも結構好みです。これほど贅沢な推理小説が読めるということに、感謝したほどです。最後の作品が出るのは怖い気もするけど、やっぱり楽しみが先に立っちゃいます。
ほんと私も読むのを迷わなかったです。絶対に面白いのがわかっていましたから。
確かに詰め込みすぎって感じですよね、でもそれがいい。むしろ800ページが少ないくらいの濃厚さです。
私も早く読みたいんですけど、終わってしまうのがどうしても嫌ですー!笑(* _ω_)
anpo39さんの記事を読み、読書熱に駆られて全作品を再読しました。女王国の城はミステリーとしての完成度はもちろんのこと、人為的なクローズド・サークルという設定を活かした脱走劇も魅力ですよね。私も、次の長編を早く読みたいけど、読んだら終わってしまうという板挾みで苦しんでいます(;_;)
あらー本当ですかー!良かったです笑。
私も今回の記事を書くにあたって再読したんですけど、何度読んでも面白いですよね。
そうそう!脱走劇も楽しいポイントでした。ハラハラさせてくれましたねー。
いやほんとどうしましょうね。このシリーズが終わってしまうとか考えたくないですが、早く読みたいし。。。
本当にもっと分厚くても良かったです。
EMCの皆が愛おし過ぎて、読み終えたくないと思いました。
長編があと一冊の予定というのは実に淋しいですね。
だらだら乱作されて質が落ちるのは嫌ですが、何とも・・・。
本当そうですよねー。この分厚さが苦にならない長編小説ってなかなかないですもん。
読み終わるのもあっという間で、もっともっと読んでいたい!って思いました。私も完全にEMCファンです。
確かに乱作は嫌ですねー。。どうにか、この質を維持してあと長編5作品は読みたいです。笑