ミステリ好きの方であれば、『2019 本格ミステリ・ベスト10』はチェックしていることでしょう。
そうです、この「本格ミステリ・ベスト10」で国内編1位を獲得したのが大山誠一郎さんの「アリバイ崩し承ります」なのです。
タイトルからしてとても興味をそそられる作品ですよね。
大山誠一郎さんは2004年に小説家デビューを果たしていますが、実はもっと前の2002年からすでに注目を集めていた実力派。
これまでにも各種ランキングでは常連となっていますし、2013年には『密室蒐集家』で第13回本格ミステリ大賞(小説部門)を受賞しています。
こちらの「アリバイ崩し承ります」もすでに4刷となっており、期待が高まりますね。
大山 誠一郎『アリバイ崩し承ります』
4月から県警本部捜査一課の刑事になったばかりの「僕」の目線で物語は語られていく。
僕は久し振りの休日に引っ越してきた鯉川駅周辺を散策しようと、鯉川商店街へと足を運ぶ。
そこで時計の電池が切れていることに気付き、商店街の中にある小さな時計店「美谷時計店」に入ることにした。
そこには20代半ばあたりの小柄な可愛らしい女性がいた。
女性は美谷時乃という名前で、先代の店主である祖父が亡くなってから時計店の後を継いでいると言う。
時計の電池交換をお願いし、店内を見ていると、時計修理や電池交換の張り紙とは別に異質な張り紙を見つける。
そこには「アリバイ崩し承ります」「アリバイ探し承ります」と書かれていた。
張り紙について思わず時乃に尋ねてみると「当店では先代店主の方針で、時計にまつわるご依頼は何でも承るようにしております」という答えが返ってきた。
アリバイ崩しは1件5000円という破格の成功報酬で、僕はちょうどそのときに抱えていた仕事でのアリバイ崩しをお願いすることにする。
かなりサッパリした安楽椅子探偵
「アリバイ崩し承ります」はいわゆる安楽椅子探偵モノのミステリです。
安楽椅子探偵とは、現場に行くことなく話を聞いただけで事件を推理する探偵のこと。
もちろん、ミステリが好きな方であればこれまでにいくつか安楽椅子もののミステリを読んでいるかと思うのですが、この作品は本当に安楽椅子探偵モノを極めたミステリと言っていいでしょう。
というのも、時乃はひとつふたつの質問だけであっさりとすべての謎を解いてしまうのです。
通常、ミステリというのは謎を解くまでにそれなりに時間をかけるもの。
しかしながら、この作品ではすぐに謎が解けてしまうので、読んでいて爽快感が得られます。
ミステリに限らず、早く結末にたどり着きたくてよくわからないまま読み進めてしまうといったことは誰にでもあると思うのですが、そういったちょっとせっかちな方には理想的な作品と言えます。
少し前置きがあったらすぐに謎解きという感じなので、すぐに結果が知りたい、結論にたどり着きたいという方はスッキリとサクサク読み進めることができるでしょう。
ミステリというのは1本の糸にいろいろな肉付けをして、その糸を見えなくするという部分がありますが、こちらの作品は極力肉付けをしないという感じですね。
必要のないものを極限までそぎ落とした新感覚のミステリといったところでしょうか。
サッパリかコッテリかで言えば、間違いなくサッパリです。
だからこそ、初心者の方でもかなり読みやすい作品と言えます。
サッパリだけど切れ味は鋭い
失礼な言い方になってしまうかもしれませんが、ミステリ作品の中にはくどいものもあります(もちろんそのくどい所が良いのですが)。
そんなくどくどしたミステリを好んでいる方にとっては『アリバイ崩し承ります』は物足りないかもしれません。
ただ、くどいミステリ作品に嫌気がさしている方にとっては、「まさにこういうものを求めていた!」と感動できる作品でしょう。
ミステリでありながらミステリらしくないとても興味深い作品です。
それでいて読んでいて気持ちが冷めてしまうということもありませんし、サクサク読めてしまうのでページをめくる手が止まらなくなってしまいます。
ドラマ化やアニメ化もできそうですし、シリーズ化してくれと言わんばかりの設定ですし、実際に読んでみるとシリーズ化してほしいと願わずにはいられません。
発売からそう時間は経っていないのにすでに4刷ですから、これからもっと注目を集める作品になっていくでしょう。
ミステリ好きにとっては新感覚のミステリとして楽しめますし、初心者には入門書のような感じになるかもしれません。
サッパリアッサリとしているからこそ読みやすく、これからも美谷時乃さんの活躍を読みたいと思ってしまうのです。
とにもかくにも、2019本格ミステリベスト10で1位なんですから面白いに決まってます。
ぜひシリーズ化してほしいですねえ(*´ω`)
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