前作『希望が死んだ夜に』は「こどもの貧困」がテーマでしたが、今回は虐待をテーマにした社会派ミステリーです。
正直、虐待の描写には胸が痛む節がありました。
さらにいえば、虐待されていた子どもが親を庇うという情景には本当に心苦しくなり、ミステリーだとか伏線だとかそういったものは忘れてしまっていました。
それでも、ミステリ小説としてとても素敵な作品だったので、こちらをレビューしていきたいと思います。
天祢涼『あの子の殺人計画』あらすじ
物語は小学五年生の椎名きさらの視点からスタートする。
母子家庭で母親から虐待をうけているきさらだが、彼女はそれを『虐待』だと認識してはいない。
同じく、クラスメートから『いじめ』にもあっているのだがそれも『いじめ』だと認識してはいない。
そんなきさらだが、同じような境遇であった翔太との出逢いにより、自分が『いじめ』にあっていること、母親から『虐待』をうけていることを自覚していく。
そんな中、付近の地域で風俗店のオーナーが殺されるという殺人事件が起きる。
その容疑者がきさらの母親である椎名綺羅だった。
しかし、椎名綺羅には完璧なアリバイがあった。
事件の担当は真壁と仲田、そして宝生という警察官。
果たして彼等は彼女の完璧なアリバイを崩すことができるのかーーーーーーー。
読んでいて辛くなる場面もある。だけど、面白い。
虐待をテーマにした社会派ミステリーである本著は、ところどころ心苦しくなる節がありました。
ですが、読み進める手は止まらず…一気読みしてしまいました。
そして事前知識全くなく読んでしまったため、他の方のレビューにもあるように私もしっかりミスリードされてしまい、最後は混乱しました。
そのため、一気読みしてさらにまた読み返すという作業をすることになったわけですが、しっかりと構成がされていて驚きました。
と、同時にやっぱり心苦しいというか、悲しみが残る作品でもあったような気がします。
貧困から心の弱さから虐待にはしってしまい、またそれをうけた子どもたちが大人になり虐待を繰り返すという連鎖…誰が悪いというわけではなく、状況がそろえば誰にでも起こりうることだということになんともいえない悲しみを感じました。
そんな中、最後の締めくくりで真壁刑事が残した「いまは、まだ」という言葉。
その部分にこれからの希望があるのではないのかなと感じました。
悲しみを残しつつ、最後の一言に希望をのせたいい結末だったと思います。
そして物語のクライマックス、ある一言から真相に迫っていくのですが、その一言もなかなか秀逸だったと思います。
その一言から「え?え?」ってなり、今までのミスリードに気がつくわけなのですが、ここから終盤まで怒涛に過ぎていきます。
この一言からは一気読みがおすすめですね。
そして全てが終わってから読み直すと落ち着いてまた少し違った視点で読むことができておもしろいのかなと思います。
物語は真壁刑事視点と、きさらの視点と、途中断章として母親の視点が少し入る構成となっていますが、真壁刑事視点のときは事実が淡々と語られているのでミステリー小説として楽しむことができます。
そして、きさらの視点では虐待されている子どもの視点となっていくので感情的であり、虐待の描写につらくなります。
この視点の違いからくる緩急が絶妙だなと思います。とてもおもしろかったです。
内容が内容なだけに、読み終わったあとにくる爽快感はありません。
犯人がわかって謎が解けてスッキリ!というミステリー小説ならではの爽快感がないのは少し残念ですが、とても考えさせられるいいテーマだったと思います。
社会派×本格ミステリーの見事な調和なんじゃないかなと。
読み終わった後味から考えると、このタイプは少し癖のある感じかなと思いますが、ハマる人にはハマりますね。
切ない・やるせない・読んでいてつらいなど、虐待をテーマにしただけあって明るさや爽快感は一切ない、重苦しい感じですが、それでも最後に読んでよかったなと思える作品でした。
良くも悪くもこの作品は記憶に残る作品となっていると思います。
伏線の回収も見事なので時間がある時にぜひ一気読みをおすすめしたいです。
天祢涼さん関連記事

コメント