『天の川の舟乗り 名探偵音野順の事件簿』-人気短編推理小説、待望の第3弾!

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第24回メフィスト賞を受賞された北山猛邦氏が手掛ける、名探偵音野順の事件簿シリーズ第3弾。

前作から10年の時を経ての刊行となります。

この物語の主人公は、非常に気が弱い名探偵の音野順。

そして、その主人公を支える助手兼ミステリー作家の白瀬白夜。

前作同様、この名コンビが数々の事件に巻き込まれていきます。

目次

〘事件簿① 天の川の舟乗り〙

今回の表題となる「天の川の舟乗り」では、謎の怪盗マゼランからの「祭りの夜 金塊を頂く」という予告状から事件が始まります。

舞台は、空飛ぶ舟や謎の巨大生物の目撃情報が飛び交う金延村。

この村の歴史や、登場する村人の想いが交差する時、世界一気弱で優しい名探偵の音野順がこの事件にどのような終止符を打つのかが注目です。

〘事件簿② マッシー再び〙

前章「天の川の舟乗り」の事件後に、同じ村でまたもや繰り広げられる難事件。

謎の巨大生物の存在を信じて止まない金延村に再び誘われる名探偵音野順が、金延村のミステリーに決着をつけます。

〘事件簿③ 人形の村〙

助手白瀬の友人でミステリー雑誌の編集社に勤める旗屋千一から相談された内容は、なにやら怪談めいた人形の話。

髪が伸びる人形の謎と、不思議な雰囲気を持つ田島美和子という女性が、この事件簿を衝撃のラストに導きます。

〘事件簿④ 怪人対音野要〙

この事件簿の主人公は、音野順の兄となる音野要。

気弱な音野順とは対照的に、王道の探偵像を彷彿とさせる国立楽団指揮者の音野要が、古城を舞台に痛快なサスペンスを繰り広げます。

名探偵音野と助手白瀬の微笑ましい関係性

このシリーズの見所は、ネガティブな名探偵音野と、アグレッシブな助手白瀬が繰り広げる息の合ったコンビネーションにあります。

音野が名探偵といわれる所以は、他とは頭一つ抜けた推理力なのですが、非常に内気で内向的な性格からか、自分自身が名探偵であるとは思っていません。

むしろ探偵活動に消極的で、依頼が来ると現実逃避のような行動をする事が多々あります。

そういった音野をサポートするのが助手の白瀬であり、推理力こそ音野に劣りますが、探偵活動に非常に意欲的である事から、人との関わりを避けネガティブな性格の音野になんとかやる気を奮い立たせようと悪戦苦闘します。

その様子が非常に微笑ましく、音野と白瀬が互いに足りない部分を補い合いながら事件解決に向け奮闘する姿は、王道の探偵小説には無いある種の人間臭さを感じさせ、このコンビネーションこそが、他の推理小説とは一線を画す理由となっているでしょう。

今回の事件では、音野がシリーズ史上最も探偵活動から遠ざかろうとする描写が描かれており、白瀬がいかにして音野を元気づけるか、音野がどうやって立ち直っていくかが、今作の見所の一つとなっています。

短編小説ならではの読者を飽きさせない展開

短編小説の良い点として、物語が各章毎に違うため飽きる事なく読み続けられる事がありますが、今回の4つの事件簿は、全ての舞台が大きく異なります。

表題にもなっている「天の川の舟乗り」と「マッシー再び」は、金延村という田舎の村が舞台となり、限定的な村で起こる出来事や地形が話の鍵となっていきます。

一方「人形の村」は、音野が拠点とする事務所が舞台となっており、訪問してきた人物が過去の奇妙な話を音野達に相談することで、回想を元に真相を暴くという話の展開に。

なので話の展開が非常にスピーディーで、他の章とは違った楽しみ方が出来る構成となっています。

「怪人対音野要」に関しては、主人公が音野順から音野要に変わり、バーンズ城と呼ばれる古城で怪人の正体を解き明かすというなんとも王道な探偵小説が描かれていきます。

この音野要という人物は、音野順の兄という設定になっており、名探偵音野順の事件簿ファンは注目の内容となっています。

優しい世界観に驚きのトリックが…

名探偵音野順の事件簿シリーズは、主人公の性格からそうさせているのか、一貫して柔らかく優しい世界感で話が進んでいきます。

探偵小説なので人が命を落とす場面もありますが、そういった場面を残酷に描く事はなく、どちらかというと、登場人物の感情の描写にフォーカスを当てている作品ですね。

特に主人公音野順の心理描写は、助手の白瀬を介して上手く表現されています。

現実離れした才能のある人物が主人公なのではなく、私たち現実世界の人間と同じくネガティブ思考になり、探偵としての自信も無く、その癖に他人に感情移入しやすく優しい一面を持つ、そういった主人公の精神的葛藤が色濃く描かれているので、幅広い層の方が世界観に入り込める作品となっています。

また今作では、一人の友人として主人公を想う助手の白瀬が非常に良く描かれているのもポイント。

音野順が弱気になっている描写は時に見ていてもどかしさを覚える事もありますが、そういった読者の気持ちを制するかのように、音野を想って最善の行動をとる白瀬が導く本作のラストは、いままでの音野順に対するもどかしさを全て払拭し、非常に暖かい気持ちになれる展開となっております。

しかし油断していると、登場人物からまさかのどんでん返しをくらう事になるでしょう。

作者の北山猛邦氏は元々物理トリックに定評のある小説家なので、機械的なトリックに関しては目を見張るものがあります。

他の推理小説とは一味違った、気弱な名探偵が繰り広げる事件簿を是非一読してみて下さい!

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この記事を書いた人

年間300冊くらい読書する人です。主に小説全般、特にミステリー小説が大大大好きです。 ipadでイラストも書いています。ツイッター、Instagramフォローしてくれたら嬉しいです(*≧д≦)

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