連続殺人鬼にシカゴ中が震撼していました。
「四猿」と呼ばれるその殺人鬼は、「見ざる、言わざる、聞かざる」になぞらえた殺人を次々に起こします。
遺族に被害者の身体の一部分が四猿から送られてきますが、その部位は生きている内に切断、えぐり出されたものでした。(悪の猿)
四猿の姿がシカゴから消えて四ヶ月、また猟奇殺人が起こります。
四猿の再来だと騒ぎ立てられる中、刑事ポーターは慎重に捜査を進めます。しかしそこにはある違和感がありました。(嗤う猿)
四猿と刑事ポーターがかつて知り合いだったと思われる写真が発見されます。
ポーターは身に覚えがないのに拘留され、思うように捜査ができなくなってしまいます。
次々に発見される「祈る死体」は、四猿からの最後の挑戦状でした。(猿の罰)
壮大なノンストップスリラー三部作です。
J・D バーカー 『悪の猿』
ミステリー小説にはシリーズものがたくさんありますが、一般的には一つの作品で物語が完結し、また新しい事件が発見し、登場人物が謎を解いていくというものが多いです。
途中から読んでもある程度楽しめるものがほとんどです。
しかし今作は本当の意味での三部作であり、一作目の「悪の猿」から「嗤う猿」「猿の罪」と順番に読まなければなりません。
一作目での謎が三作目で明らかになる大掛かりなトリックも仕込まれています。
一作一作も長編でかなりの情報量があるので、読み始める際は気合いを入れて一気に読み進めることをおすすめします。
「悪の猿」では犯人である四猿の日記と被害者の視点で物語が進んでいきます。
日記の内容が肉体的にも精神的にも非常にグロテスクで、人間の狂った一面を垣間見た気分になります。
派手なトリックは少ないものの細かい仕掛けが多く、少しでも気を抜くと騙されてしまうことでしょう。
ラストはすっきりするものではなく、むしろ後味は悪いです。サイコホラー的な恐ろしさを楽しめる方におすすめです。
「嗤う猿」は三部作の中間ですが、だからと言って中だるみするような内容ではありません。
前作とは違う四猿が登場し、一旦解決に思えた事件が再び動き出します。
より異常性の高い犯行にポーターたちの戸惑う様子が伝わってきます。
前作で解けたと思われた謎が続いており、スリリングな展開が続きます。
次はどんな事実が発覚するのか、四猿の正体は何なのか、どこにいるのか…と気になる描写が多いまま三作目に突入します。
すぐに三作目の「猿の罰」に進みましょう。
「猿の罰」は三部作を締めくくる怒涛の展開が待っています。
前二作とも長く複雑な物語ですが、三作目でそれぞれの謎が一気に明るみに出る構成は圧巻です。
最初はシカゴを賑わせた殺人事件だけでしたが、二作目、三作目に進むにつれて世界中を巻き込む大事件に発展していきます。
人間関係の問題だけでなく、社会の歪み、人間の本質的な悪の部分についてなど、より深くに切り込んだ壮大なストーリーに仕上がっていました。
三作を読みきったあとの達成感はありますが、問題がすべて解決してもなおすっきりすることはなく重苦しい気分になるかもしれません。
本当に事件は解決したのか、四猿がまた現れるのではないかと恐怖してしまうことでしょう。
作者のJ・D バーカー氏はアメリカ在住の作家ですが、三部作の前に「Forsaken」という作品でデビューしたばかりです。
この「Forsaken」は日本では翻訳されておらず、原文で読むしか今のところ方法はありません。
しかしこの作品は幻想小説界では話題となり、この続編も発表されています。
「悪の猿」「嗤う猿」「猿の罰」三部作は、そんな幻想小説の暗い部分にミステリー要素を加えた作品です。
一作目だけでも十分に良質なサイコサスペンスを楽しめますが、三作すべてを読み切る頃には作者の才能に驚くことでしょう。
緻密に計算され尽くした壮大なストーリーを、ぜひその目で確かめてください。
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