政界に進出すると言われていた上級検事が散弾銃を口に咥え、自らの頭を撃って死んだ。
同じ頃、展望タワーの下で、20代の若く美しい女性の遺体が発見された。
こちらも自殺かと思われたが、現場に急行した刑事のオリヴァーとピアが調べたところ、遺体から薬物が発見され、毒殺だったことが判明。
つまり自殺ではなく、自殺に見せかけた他殺だったのだ。
しかもこの美女はとんでもない悪女で、身近な人々に毛嫌いされているばかりか、夫とも犬猿の仲。
誰に殺されても不思議はなく、犯人を絞るのは至難の業だった。
この悪女の死と、上級検事の死、二つの事件には何か繋がりがあるのだろうか。
ドイツの大ブレイク中の刑事シリーズ第一弾!
どんどん広がっていく謎
『悪女は自殺しない』は、ドイツで超絶人気を誇る「刑事オリヴァー&ピアシリーズ」の一作目。
貴族出身の刑事オリヴァーと、馬をこよなく愛する女性刑事ピアという一風変わったコンビが、数々の事件を解決していくシリーズです。
起こる事件もありきたりものもではなく、フェイクやミスリードがたっぷり練り込まれているので、推理を存分に楽しめます。
まず冒頭で上級検事が自殺し、直後に若い美女の毒殺が発覚するのですが、この美女が相当なクセ者です。
高慢ちきで強欲で、ハニートラップを仕掛けては金を巻き上げ、自分の子供さえ売り飛ばそうとする悪女中の悪女。
当然周囲からはとことん嫌われていて、夫ですら「あの女は人の人生を地獄に変えた」「自分の得しか考えない」と言いたい放題。
しかもこの夫、職業が獣医なので動物の安楽死用の毒物を入手できる立場であり、悪女が盛られていた毒はまさにそれでした。
そのため夫が犯人として真っ先に疑われるのですが、オリヴァーとピアが捜査をしたところ、夫以外にも疑わしい人物が出るわ出るわ!
周囲の誰もが悪女を恨み、犯行の動機を持っているような状態。
しかも詐欺だの人身販売だの、他の犯罪が次から次へと出てくるのです。
容疑者の数も罪の数もハンパなく、読めば読むほど推理脳が刺激され、慌ただしくもワクワクしながら読めますよ。
全ての謎が解けるのはかなり終盤になってからで、謎が多かった分だけ読了後はスッキリ気分を味わえます。
魅力たっぷりの主人公二人
『悪女は自殺しない』は物語や推理だけでなく、主人公二人のキャラクター性も面白味たっぷりです。
まずオリヴァーですが、彼は貴族の称号を持ち、さらにはお城まで持っているというブルジョワな人。
ハンサムでエレガントで有能なオリヴァー刑事は「上司にしたい男NO.1」であり、周囲の憧れの的です。
…が、それは表の姿であり、実は何気に残念なイケメンだったりします。
たとえば当てずっぽうで捜査を進めたり、愛妻家でありながら他の女性も好きで、事件の関係者とつい一夜を過ごしてしまったり、拳銃を持っているのにバットを持つ相手に負けて、あげく拳銃を奪われてしまったり。
エリートなのに完璧ではなくて、どこか一本抜けているキャラクターなのです。
一方女性刑事ピアは、オリヴァーとは逆で異性にあまり興味がなく、夫とは別居中ですし、馬の方が断然好きという変わり者。
7年ほど休職していましたが、念願の牧場を手に入れて動物たちと一緒に暮らせるようになり、このたび元気いっぱいに刑事の仕事に復帰しました。
しかも被害者である悪女が乗馬クラブに勤めていたり、その夫が動物病院の医師だったりしたものだから、動物好きに拍車がかかって、それはもうテンション高くエネルギッシュに捜査を進めます。
このように、二人とも個性的で魅力的なキャラクター。
シリーズ第一作目ということで、二人は最初のうちは他人行儀ですが、だんだんと息が合うようになり、時にシリアスに、時にユーモラスに、事件を解決へと導いていきます。
とにかくオリヴァーは抜けてるし、ピアは元気があり余っているし、どちらも面白くて違う意味で目が離せません。
二人のキャラクター性が、物語をますます楽しませてくれます。
自費出版からのスタート
『悪女は自殺しない』は、「刑事オリヴァー&ピアシリーズ」の第一弾であるとともに、著者のネレ・ノイハウスさんの処女作でもあります。
実は最初は出版社からではなく、著者自らが地元でひっそりと自費出版した作品でした。
ところがあまりの面白さに地元で評判となり、口コミでどんどん広まり、ついに大手出版社の目に留まり、商業出版されるに至ったのです。
『悪女は自殺しない』はそれほどの話題作であり、事実その後、第二弾、第三弾と続けたところ、いずれも大ヒット!
ノイハウスさんは今や、ドイツミステリーの女王と呼ばれるほどの大人気作家となっています。
シリーズが進むにつれて知名度も高まり、第三弾『深い疵』が出版されると、世界的に話題になりました。
そのため日本では、この第三弾『深い疵』が最初に翻訳されました。
その頃はまだ『悪女は自殺しない』は日本に上陸しておらず、『深い疵』の方をシリーズの第一作目として読んだ方も多いと思います。
が、真の第一作目は『悪女は自殺しない』であり、これこそがオリヴァーとピアの始まりの物語です。
既に第三弾を読まれた方には、順番が前後してしまいますが、ぜひ本書を読んでいただきたいと思います。
もちろんまだシリーズを読んだことがないという方は、本書からスタートしてくださいね。
広がる謎と、全てを回収していく見事なストーリー展開、そしてオリヴァーとピアの人間的魅力に、読了後にはきっとシリーズのファンになっていることでしょう!
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