張東昇は、妻の実家の財産を狙って、義父母を山で殺害する。
しかしその現場を、偶然ビデオカメラに収めた子供たちがいた。
優等生の朝陽と、孤児院から逃げてきた丁浩と普普だ。
3人はこれをネタに張東昇を脅迫し、大金をゆすり取ろうとする。
そして張東昇は、財産欲しさに妻まで殺害するが、それもまた3人の知るところとなる。
子供たちは張東昇をさらに脅し、自分たちの都合の良いように操ろうとするが―。
行き場を失った子供たちが、生きていくために数々の悪事に手を染めていく、異色の華文ミステリー!
ダークサイドへと堕ちていく子供たち
『悪童たち』は現代の中国を舞台としたミステリー作品です。
見どころは、主人公の朝陽がどんどん悪の渦へと入り込んでいくところ。
朝陽は14歳の少年で、優等生ですが友達がおらず、貧しい母子家庭で寂しく暮らしていました。
そこにかつての友達だった丁浩と普普が、孤児院から脱走して来るのです。
彼らは、自立して生活するための資金を欲しがっていました。
そのため、偶然カメラに収めた殺人事件をネタに、犯人である張東昇をゆするわけです。
朝陽は腰が引けつつも、友達を切り捨てる勇気がなく付き従います。
学校で友達がいない少年ならではの悲しい選択ですね。
ところが朝陽は、その後みるみる悪の道へと進むようになります。
きっかけは、ある少女をトイレの窓から落として殺してしまったこと。
故意ではなく、バカにされてつい、という衝動的な殺人でした。
しかしそこで何かが吹っ切れたのか、朝陽は内に籠っていた優等生から、狡猾で非道徳的な悪童へと一気に変貌します。
張東昇を脅して自分の父親と再婚相手を殺害させたり、晶晶を別の人物が殺したかのように仕立て上げたり。
持ち前の明晰な頭脳で、自分の手を一切汚すことなく、悪事を働いていくのです。
その計画や手段には、さすがに丁浩と普普も疑問を抱くほどでした。
このように『悪童たち』には、子供たちがダークサイドへとどんどん沈んでいく様子が描かれています。
丁浩と普普もですが、特に朝陽の堕ちっぷりが恐ろしい。
内気な優等生が、みるみる冷徹な悪鬼へと変わっていく様子は、なんとも不気味でスリリングです!
悪童がつけた驚愕の決着
『悪童たち』では、クライマックスで、大きなどんでん返しが起こります。
それまでの状況、立場、人間関係などが、一気にひっくり返るのです。
さわりだけご紹介しておきますと、終盤になって張東昇は、朝陽たち3人を殺そうと画策します。
うまく殺せば、もう脅されることはなくなります。
また、脅迫のネタにされていたビデオを回収すれば、誰にも妻一家の殺害がバレることはありません。
もちろん財産も、思うがままです。
そこで張東昇は、まずは丁浩と普普に毒を仕掛けます。
ところが朝陽は、いち早くそれに気づき、逆に張東昇を倒そうとするのです。
悪党と悪童との大勝負、果たしてどちらが勝つのか。
全てが予想外の方向へと進んでいくので、面白くてハラハラして、もう全く目が離せません!
何よりすごいのか、朝陽が日頃から書いていた日記です。
この日記が、2人の勝敗を決定的なものにするのです。
詳細は伏せますが「これが14歳の子供のすることだろうか」と、ギョッとせずにはいられないとんでもない内容です。
個人的にはこのクライマックスが『悪童たち』の最高の見どころだと思います。
「悪童の真髄」とでも言うのでしょうか、その知恵と心の闇とをまざまざと見せつけられて震撼すること間違いなしです!
ドラマ版も大ヒットした傑作ミステリ―
『悪童たち』は、中国の大ヒットとなったドラマ『バッド・キッズ 隠秘之罪』の原作小説です。
どのくらいヒットしたかというと、配信後わずか2ヶ月で再生数が10億回を超え、社会現象にもなったほどです。
日本でも配信されたので、ご覧になった方もいらっしゃるかもしれませんね。
大ヒットの理由はなんといっても、子供たちが悪童となり殺人者を脅迫して操るというショッキングなストーリー展開でしょう。
ただ朝陽たちは、生まれつき悪童だったわけでは決してありません。
それぞれに悪童にならざるを得なかった事情があるのです。
たとえば朝陽の場合、貧困と劣悪な家庭環境です。
特に父親の再婚相手からの嫌がらせが凄まじく、糞尿を浴びせられるなど辛すぎる経験を数多くしてきました。
また丁浩と普普は、殺人犯の子供だからという理由で、偏見や差別を受けていました。
このように周囲から虐げられ追い詰められ、行き場をなくした彼らには悪童になるほか、もうどうしようもなかったのでしょう。
『悪童たち』は、そんな子供たちの悲痛な叫びが織り成す物語です。
単なるミステリーではなく、社会の闇を映し出すヒューマンドラマとしての側面もあるわけです。
そこが多くの人々の心をとらえ、これほどまでに注目を集めたのだと思います。
また『悪童たち』は、ドラマ版とは登場人物や展開が一部異なっています。
小説版の方が、ドロドロとした陰湿なシーンが多く、子供たちの心理描写も丁寧なので、ドラマ版を見た方もかなり楽しめるのではないでしょうか。
上下2冊とやや長めですが、それを感じさせないほどテンポが良く、一気に読めます。
堕ちていった子供たちの暗躍と行く末、ぜひ見届けてください。